訳あり王子の守護聖女
 さらに重度になると衰弱死、あるいは正気を失っての暴走――いわゆる『魔人化』という最悪の末路が待ち受けている。

 いかに聖女といえど死んだ人間を蘇らせることはできないし、魔人化した人間を元に戻すのは至難の業だ。

 魔人化を解除できるのはエメルナ皇国の巫女姫くらいなものじゃないだろうか。

「これは酷いですね……ディエンは国の重要な穀倉地帯なのに」

 ルカ様と並んで村を歩きながら、私は顔をしかめた。

 村の面積のほとんどを占める畑の作物は枯れるか、腐っているらしく異臭がする。

 村に流れている川も澱んで濁り、動いていない水車がもの悲しさを助長させた。

 住民たちは家屋の中で息を潜めているようだ。
 固く閉ざされた窓の奥に人の気配を感じる。

「ええ。普段はのどかで平和な田園風景が広がっているんですが……ある日突然大地から噴き出た瘴気のせいでこの有様です。皆で懸命に育てた作物は全滅ですよ。来年撒く予定だった種もみすら失って、絶望のあまり首を括ろうした者すらいました」

 私たちの前を行くアルバートさんは悲しそうな声で言った。

「そんな……」
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