訳あり王子の守護聖女
 なんと言えば良いのかわからず押し黙る。

 赤黒い霧に覆われた村の中にはあちこちに戦闘の痕が残っている。

 半壊した民家。潰れた家畜小屋。
 落とされた橋。

 燃えた形跡のある小屋。石畳の隙間にこびりついた赤い液体……その全てがこの村で起きた惨事を物語っていた。

 気鬱に沈んでいると、右手の小屋の陰から黒い何かが飛び出してきた。

 全身を縮めてバネのように跳躍し、私の首元めがけて襲い掛かってくる!

「ひっ――」
 陽の光の下で見ると、それは全長五十センチはありそうな、真っ黒なムカデのような魔物だった。

 無数の足をウゾウゾと動かしているのが気持ち悪い。
 額の部分には瞼のない赤い眼球のような奇妙な器官がついている。

 ムカデが苦手な私は凍り付くことしかできなかったけれど、私の左隣にいるルカ様の反応は恐ろしく早かった。

 一瞬で私を庇うような位置に移動して腰の剣を抜き放ち、その一振りの動作だけで頭部についた眼球ごと魔物を両断する。

 ……凄い。
 斬撃を飛ばせる魔剣とは聞いていたが、本当に触れもせずに魔物を倒してしまった。

 私はルカ様が握る剣をまじまじと見つめた。
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