死の目覚まし時計
 田中くんが死んだ。

 自転車で目覚まし時計を買いに行った帰りに、トラックにひかれて死んだらしい。

 いつも明るい服の先生が、珍しく暗い色の服を着ていた。珍しいなって思っていたら、そんなお話があった。

 田中くんといつも一緒に行動していた加藤くんと宮尾くんはお休みだった。

 一時間目の算数の授業がなくなって、お葬式は家族だけでするから代わりに花をおくりましょうって、みんなで折り紙を折った。白い面に田中くんへのメッセージを書くことになったけど、同じ班になったこともなかった私は『さようなら』とだけ書いた。

 田中くんの席に、白い花が生けられた。イジメじゃなくって、本当に本当の意味で花を飾ることがあるんだって、不思議な気持ちだった。

 放課後、生き物係だった私はその花瓶の水を入れ替えて、メダカにもエサやりとかもした。もたもたしていたら一人教室に残されて、雨模様の雲がいつもより早く夜を呼び込もうとしていた。

 雨雲越しの夕焼けは錆びた鉄の色をしていて、みんなより少し明るい赤のランドセルを背負って私は通学路を走った。

 学校と家のちょうどの真ん中に、神社があった。神主さんもいないような、小さな神社。でも、立派な赤い鳥居があった。

 雨のにおいがして、風が出てきた。鳥居の奥の森が揺れて、揺れる枝が手招きをしているみたいだった。

 私の人生で、人が死ぬのは初めてだった。

 お父さんの方もお母さんの方も、おじいちゃんおばあちゃんは元気だし、ペットも飼ったことがなかった。

 いつか誰かの死に立ち会うのは、生きていれば当然のことだと思う。

 でもまさか、自分と同じ年の人が死ぬなんて思ってもみなかった。

 明日学校に行っても、田中くんはいない。転校したわけじゃないのに、そこに田中くんはいない。田中くんの席はあるのに、田中くんはいない。代わりに花が座っている。

 風が強くて、髪がぐちゃぐちゃになる。

 私は鳥居の前で立ち止まって、じっとその奥を見ていた。

 私ぐらいの年でも、死ぬんだ。

 そう思うと怖くてたまらなかった。

 私はいつ死ぬんだろう。今まで、それはずっと先の事なんだろうと思っていた。

 小学生の次は中学生になって高校生になって大学生になって、社会人になって結婚したり子ども産んだりして、うんとおばあちゃんになって、それからの話だと思ってた。でも違った。

 私は通学路を外れて、神社の砂利道に進んだ。そこの神様にお願いした。何の神様かも知らない神様に願った。


 ――私がいつ死ぬか、教えてください。


 六年前、私は確かにそう願った。
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