転生聖職者の楽しい過ごし方
第50話 不本意な決定事項
帰りの馬車の中、深いため息が車内を包む。里桜は、うようよと湧いて出る貴族たちを全員相手にして回り、王宮を出たのはシンデレラもすっかり魔法が解けてしまう様な時間になっていた。
元から早寝早起きが習慣だった里桜には、この時間まで起きていることがとても難しい。だから、プリズマーティッシュの社交シーズンもお茶会には出席しても夜会には殆ど出席はしない。
「これで、明日の朝はプリズマーティッシュへ帰れますから。」
馬車で迎えに来ていたリナは笑顔で話しかけた。
「こんなにもあの国が恋しくなるなんて、思いもしなかったけど…これも宰相の思惑かな?トゥーレーヌ宰相ならそれくらいのこと考えそうじゃない?」
「えぇ。確かに。あっもう離宮へ到着しますよ。」
馬車が止まり、里桜が御者に話しかける。そして扉が開いた。先に到着していたリュカが駆け寄ってきた。
「どうしたの?リュカ。」
「実は…どうやら殿下の馬車がある様なのです。」
「ん?」
「他にお泊まりになっている貴人はいませんので、リオ様に…」
「会いに来たの?」
「多分。」
そこに、にこやかに近づいてきたのは、リベルト・アネーリオだった。
里桜は俯いて、声をかけられるのを待った。
「ルカ、リオ様とお話しをしたいんだが…」
「リオ様。どうなさいますか?」
「アネーリオ様のお話が、舞踏会での内容とお変わりないようでしたら、申訳ありませんが、私にはお聞かせできる様な物を持ち合わせておりませんので。」
「リオ様、顔をお上げ下さい。殿下が直接リオ様とお話したいと、お部屋でお待ちです。」
里桜は、思わず顔を上げて、リベルトの顔をまじまじと見た。
「どのような内容かここで伺えますか?」
「それは、リオ様が直接殿下にお確かめ下さい。」
「では、供人にリュカとアナスタシア、コンスタンを連れます。それを受け入れて下さるのであれば、御前へ参上致します。」
リベルトは頷いた。
「それじゃ、リナ。ちょっと行ってくる。今日はとても疲れたから疲れに良いハーブティーを用意しておいて。」
「はい。畏まりました。」
「行ってきます。」
「いってらっしゃいませ。」
リベルトに案内されたのは、この離宮にこんな部屋があったのかと思うほど豪華な一室だった。
そこには既に一人男性が座っていた。今度は天蓋などはなく、姿は晒されている。
「リオ殿、顔を上げるが良い。」
里桜が視線を真っ直ぐにすると、そこには温度の感じられない様なグレーの瞳の男性が座っていた。
「私が、ここエシタリシテソージャの王太子、ウルバーノだ。ここに来てもらったのは、貴女に聞きたいことがあるからだ。街中で魔術を使ったと聞いたが、貴女は何故この国に来ても魔術が使えるのだ。理由を話せ。」
「お目通り頂けたこと、感謝申し上げます。殿下よりお尋ね頂きました魔術のことですが、私自身も思い当たる事がございません。街中で魔術を使ってしまったのも、咄嗟の出来事でございまして、出来たことは自身でも驚倒いたしました。」
「貴女にこれを握って欲しい。」
リベルトが恭しく里桜の目の前に持って来たのは、銀のトレイに乗った、透明な二十㎝ほどの棒だった。
腕を伸ばしかけた里桜を咄嗟に止めたのはリュカだった。里桜はリュカの目を見て一つ頷いた。
これは多分計測石のようなものだろう。
「こちらの端の方をお持ち下さい。」
里桜は棒の端を握った。すると、透明だった棒は里桜の手元からどんどんと黒くなり、透明な部分は棒の四分の一ほどになった。
「トレイにお戻し下さい。」
リベルトの指示に従い、トレイに置いた。それをウルバーノの前まで運ぶと、定規の様な物を取り出す。
「白の魔力か。さすがは、渡り人殿。」
ウルバーノは前屈みだった姿勢を戻す。
「貴女がなぜ、この国でも力を使えるのかは置いておくとして、貴女には私の側妃になってもらうことになった。」
里桜は一瞬何を言われたのか分からず、反応が出来なかった。
「後宮に貴女の部屋を用意した。今からそちらに移って頂く。側仕えは一人伴うことを許すが、それ以外の者は明日ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンへ帰って頂く。これまであちらで使っていたドレスなども全て手放し、必要な物はこちらで用意する。彼の国と我が国は何から何まで異なる。肩の露わになる様なドレスを王太子の側妃が身につける様なことはしないで欲しい。」
どこから湧いたのか、三人の騎士が里桜の前に現れた。里桜がそれに驚いていると、里桜と騎士の間に、リュカ、アナスタシア、コンスタンが割り込む様に立ち塞がる。
元から早寝早起きが習慣だった里桜には、この時間まで起きていることがとても難しい。だから、プリズマーティッシュの社交シーズンもお茶会には出席しても夜会には殆ど出席はしない。
「これで、明日の朝はプリズマーティッシュへ帰れますから。」
馬車で迎えに来ていたリナは笑顔で話しかけた。
「こんなにもあの国が恋しくなるなんて、思いもしなかったけど…これも宰相の思惑かな?トゥーレーヌ宰相ならそれくらいのこと考えそうじゃない?」
「えぇ。確かに。あっもう離宮へ到着しますよ。」
馬車が止まり、里桜が御者に話しかける。そして扉が開いた。先に到着していたリュカが駆け寄ってきた。
「どうしたの?リュカ。」
「実は…どうやら殿下の馬車がある様なのです。」
「ん?」
「他にお泊まりになっている貴人はいませんので、リオ様に…」
「会いに来たの?」
「多分。」
そこに、にこやかに近づいてきたのは、リベルト・アネーリオだった。
里桜は俯いて、声をかけられるのを待った。
「ルカ、リオ様とお話しをしたいんだが…」
「リオ様。どうなさいますか?」
「アネーリオ様のお話が、舞踏会での内容とお変わりないようでしたら、申訳ありませんが、私にはお聞かせできる様な物を持ち合わせておりませんので。」
「リオ様、顔をお上げ下さい。殿下が直接リオ様とお話したいと、お部屋でお待ちです。」
里桜は、思わず顔を上げて、リベルトの顔をまじまじと見た。
「どのような内容かここで伺えますか?」
「それは、リオ様が直接殿下にお確かめ下さい。」
「では、供人にリュカとアナスタシア、コンスタンを連れます。それを受け入れて下さるのであれば、御前へ参上致します。」
リベルトは頷いた。
「それじゃ、リナ。ちょっと行ってくる。今日はとても疲れたから疲れに良いハーブティーを用意しておいて。」
「はい。畏まりました。」
「行ってきます。」
「いってらっしゃいませ。」
リベルトに案内されたのは、この離宮にこんな部屋があったのかと思うほど豪華な一室だった。
そこには既に一人男性が座っていた。今度は天蓋などはなく、姿は晒されている。
「リオ殿、顔を上げるが良い。」
里桜が視線を真っ直ぐにすると、そこには温度の感じられない様なグレーの瞳の男性が座っていた。
「私が、ここエシタリシテソージャの王太子、ウルバーノだ。ここに来てもらったのは、貴女に聞きたいことがあるからだ。街中で魔術を使ったと聞いたが、貴女は何故この国に来ても魔術が使えるのだ。理由を話せ。」
「お目通り頂けたこと、感謝申し上げます。殿下よりお尋ね頂きました魔術のことですが、私自身も思い当たる事がございません。街中で魔術を使ってしまったのも、咄嗟の出来事でございまして、出来たことは自身でも驚倒いたしました。」
「貴女にこれを握って欲しい。」
リベルトが恭しく里桜の目の前に持って来たのは、銀のトレイに乗った、透明な二十㎝ほどの棒だった。
腕を伸ばしかけた里桜を咄嗟に止めたのはリュカだった。里桜はリュカの目を見て一つ頷いた。
これは多分計測石のようなものだろう。
「こちらの端の方をお持ち下さい。」
里桜は棒の端を握った。すると、透明だった棒は里桜の手元からどんどんと黒くなり、透明な部分は棒の四分の一ほどになった。
「トレイにお戻し下さい。」
リベルトの指示に従い、トレイに置いた。それをウルバーノの前まで運ぶと、定規の様な物を取り出す。
「白の魔力か。さすがは、渡り人殿。」
ウルバーノは前屈みだった姿勢を戻す。
「貴女がなぜ、この国でも力を使えるのかは置いておくとして、貴女には私の側妃になってもらうことになった。」
里桜は一瞬何を言われたのか分からず、反応が出来なかった。
「後宮に貴女の部屋を用意した。今からそちらに移って頂く。側仕えは一人伴うことを許すが、それ以外の者は明日ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンへ帰って頂く。これまであちらで使っていたドレスなども全て手放し、必要な物はこちらで用意する。彼の国と我が国は何から何まで異なる。肩の露わになる様なドレスを王太子の側妃が身につける様なことはしないで欲しい。」
どこから湧いたのか、三人の騎士が里桜の前に現れた。里桜がそれに驚いていると、里桜と騎士の間に、リュカ、アナスタシア、コンスタンが割り込む様に立ち塞がる。