転生聖職者の楽しい過ごし方
第52話 報せ
翌日、ロンテの空は曇りがちで、雲が素早く流れているのが見上げるだけで分かった。里桜も手伝い簡易治療所を準備していると、テントはたまに吹く強風に煽られそうになる。天気が荒れなければ良いと思いながら、テントを設置していく。
「テントにくくりつける重しを増やした方が良いかもね。」
神官に話していると、騎士たちが重しを運ぶのを手伝ってくれた。
「ありがとう。アシル」
「いいえ。これくらいのことは。」
「ううん。神官も私も重い物には慣れていないから、とても助かるの。ありがとう。」
アシルは照れたように頷いて、別の重しを取りに走った。そこへ早馬の印をつけた騎士がやってきた。
「ロベール様を。」
側にいた神官に声をかける。その神官は走って呼びに行く。
「はい、お水。飲んで。」
「あっ。女神様。大変失礼いたしました。」
「私の事はいいの。噎せないようにゆっくり飲みなさい。」
騎士は頷いて水を飲む。そこへロベールとシドが現れた。
「如何した?」
「昨夜、突然王都に謎の魔物が現れ、只今王都は大混乱でございます。陛下のご指示で女神様はこの町に待避しているようにと。」
「あぁ。わかった。それで、街はどのような状況なのだ。」
「はい。魔物を退治しようとしたトシコ様が魔物に囚われ、国軍や騎士、国民にも被害者が出ておりまして…死亡は確認がとれただけで五名、負傷者多数でございます。」
「陛下はご無事か?」
「はい。しかし、トシコ様の行方が…。」
「わかった。儂らは今から王都へ戻ろう。」
「私も戻ります。」
「リオ様、それはなりません。」
「でもっ。」
アナスタシアや騎士たちも里桜を必死に止める。
「では、この治療所を閉めて、ユーピまで皆で進みましょう。馬を替えれば一日で移動出来るでしょう?少しでも近づきたい。ねっ、お願いします。私も行かせて下さい。」
ユーピは王都から百五十㎞程の小さな宿場町だ。帰路でもそこに泊まることを予定していたので、行程に変更があっても大丈夫な様に三日間ほど部屋を予約してあった。すぐにロンテでの治療所の準備を片付け、急いでユーピの街まで向かった。
∴∵
ユーピの街は特に混乱している感じもなく、ただいつもより旅姿の人が多い感じはしていた。
里桜たちがユーピまでやってきた知らせを聞いて連絡係としてやってきた国軍の兵士とも合流した。
「カラヴィ参謀総長、リオ様お待たせ致しました。」
「皆さんが来てくださり助かりました。元々こちらに泊まるつもりで用意していた部屋があります。そちらで話をしましょう。」
里桜が泊まるはずだった部屋に皆が集まった。
ティーテーブルを退かし、そこに大きなテーブルを入れている。国軍の兵士が、地図を広げで王都の西南を指す。
「ここに魔物が現れています。体は鳥なのですが、顔は人間の女性なのです。そんな魔物見たこともありません。」
里桜は思案する。
「この世界にハーピーとかハルピーとかって神話に出てきませんか?」
里桜はシドやロベールを見るが、聞いたことはない様だった。
「私もあまり詳しくはないのですが、私のいた世界にある他国の神話にも虹の女神イリスは出てきます。その、虹の女神の姉妹と言われているのが女性の顔を持つ鳥で、ハルピュイア、ハーピー、ハルピーと言われる伝説上の生き物なんです。この世界では聞きませんか?」
「聞いたことないな。」
ロベールは首を傾げた。
「神話の時代の女神がこの国に現れたから、突然そのハ、ハ…」
「ハーピー。」
「ハーピーが現れたのだろうか。それは、どんな生き物なんだ?」
シドは里桜に問いかける。
「他国の物語ですし、本当に名前位しか知らないんですけど、食い意地の張った生き物と言われている様です。」
「実は…なくなった国軍の兵士もみな、魔力を吸われているのです。しかも動きが素早く…。」
「それじゃ、食べ物を食べるのではなくて、人の魔力を食料としてるってこと?」
里桜が聞くと、兵士は答える。
「魔獣には珍しいことではありません。草食の魔獣と肉食の魔獣がいて、普通の肉食魔獣は動物を食べますが、中には魔獣や人間の魔力を食べたりする魔獣がいるのです。ですから魔物で人の魔力を糧とするものがいてもおかしい話ではありません。」
「聞いただけでも厄介そう。この国のIrisは動きが素早かったりなんてオプションはない?」
「女神様が俊敏だと言う但書きはありませんが…。」
隣にいた神官は真面目に答える。
「そう。それにしても、もう少し王都に近づきたいよね。ここじゃ王都の様子もハーピーの様子も分からないし。」
「では、私が王宮に戻りましょう。」
「シド尊者、今王都に入るのは危ないでしょう。」
ロベールとシドは互いを見合わせる。
「実はこのような時のために王族にしか知らされていない通路があります。そこを通り、王宮に入りますので大丈夫です。」
「なら、シド尊者何かいらない麻袋か何かない?」
「麻袋ですか?……これはどうでしょうか?」
「あぁ、良いサイズの袋ね。」
里桜はそこに少しの間手をかざす。
「転移魔法陣を付けました。これで私たちとシド尊者の間で書簡のやり取りが簡単になる。私の方も、麻袋に魔法陣を付ければ、お互いが何処にいてもやり取りが出来るでしょ。」
「これは、便利ですね。」
∴∵
「それじゃ、みんな気をつけて。」
連絡役として来ていた兵士と、指揮官として現地へ直行するリュカ、王宮へ向うシドをみんなで見送った。
「テントにくくりつける重しを増やした方が良いかもね。」
神官に話していると、騎士たちが重しを運ぶのを手伝ってくれた。
「ありがとう。アシル」
「いいえ。これくらいのことは。」
「ううん。神官も私も重い物には慣れていないから、とても助かるの。ありがとう。」
アシルは照れたように頷いて、別の重しを取りに走った。そこへ早馬の印をつけた騎士がやってきた。
「ロベール様を。」
側にいた神官に声をかける。その神官は走って呼びに行く。
「はい、お水。飲んで。」
「あっ。女神様。大変失礼いたしました。」
「私の事はいいの。噎せないようにゆっくり飲みなさい。」
騎士は頷いて水を飲む。そこへロベールとシドが現れた。
「如何した?」
「昨夜、突然王都に謎の魔物が現れ、只今王都は大混乱でございます。陛下のご指示で女神様はこの町に待避しているようにと。」
「あぁ。わかった。それで、街はどのような状況なのだ。」
「はい。魔物を退治しようとしたトシコ様が魔物に囚われ、国軍や騎士、国民にも被害者が出ておりまして…死亡は確認がとれただけで五名、負傷者多数でございます。」
「陛下はご無事か?」
「はい。しかし、トシコ様の行方が…。」
「わかった。儂らは今から王都へ戻ろう。」
「私も戻ります。」
「リオ様、それはなりません。」
「でもっ。」
アナスタシアや騎士たちも里桜を必死に止める。
「では、この治療所を閉めて、ユーピまで皆で進みましょう。馬を替えれば一日で移動出来るでしょう?少しでも近づきたい。ねっ、お願いします。私も行かせて下さい。」
ユーピは王都から百五十㎞程の小さな宿場町だ。帰路でもそこに泊まることを予定していたので、行程に変更があっても大丈夫な様に三日間ほど部屋を予約してあった。すぐにロンテでの治療所の準備を片付け、急いでユーピの街まで向かった。
∴∵
ユーピの街は特に混乱している感じもなく、ただいつもより旅姿の人が多い感じはしていた。
里桜たちがユーピまでやってきた知らせを聞いて連絡係としてやってきた国軍の兵士とも合流した。
「カラヴィ参謀総長、リオ様お待たせ致しました。」
「皆さんが来てくださり助かりました。元々こちらに泊まるつもりで用意していた部屋があります。そちらで話をしましょう。」
里桜が泊まるはずだった部屋に皆が集まった。
ティーテーブルを退かし、そこに大きなテーブルを入れている。国軍の兵士が、地図を広げで王都の西南を指す。
「ここに魔物が現れています。体は鳥なのですが、顔は人間の女性なのです。そんな魔物見たこともありません。」
里桜は思案する。
「この世界にハーピーとかハルピーとかって神話に出てきませんか?」
里桜はシドやロベールを見るが、聞いたことはない様だった。
「私もあまり詳しくはないのですが、私のいた世界にある他国の神話にも虹の女神イリスは出てきます。その、虹の女神の姉妹と言われているのが女性の顔を持つ鳥で、ハルピュイア、ハーピー、ハルピーと言われる伝説上の生き物なんです。この世界では聞きませんか?」
「聞いたことないな。」
ロベールは首を傾げた。
「神話の時代の女神がこの国に現れたから、突然そのハ、ハ…」
「ハーピー。」
「ハーピーが現れたのだろうか。それは、どんな生き物なんだ?」
シドは里桜に問いかける。
「他国の物語ですし、本当に名前位しか知らないんですけど、食い意地の張った生き物と言われている様です。」
「実は…なくなった国軍の兵士もみな、魔力を吸われているのです。しかも動きが素早く…。」
「それじゃ、食べ物を食べるのではなくて、人の魔力を食料としてるってこと?」
里桜が聞くと、兵士は答える。
「魔獣には珍しいことではありません。草食の魔獣と肉食の魔獣がいて、普通の肉食魔獣は動物を食べますが、中には魔獣や人間の魔力を食べたりする魔獣がいるのです。ですから魔物で人の魔力を糧とするものがいてもおかしい話ではありません。」
「聞いただけでも厄介そう。この国のIrisは動きが素早かったりなんてオプションはない?」
「女神様が俊敏だと言う但書きはありませんが…。」
隣にいた神官は真面目に答える。
「そう。それにしても、もう少し王都に近づきたいよね。ここじゃ王都の様子もハーピーの様子も分からないし。」
「では、私が王宮に戻りましょう。」
「シド尊者、今王都に入るのは危ないでしょう。」
ロベールとシドは互いを見合わせる。
「実はこのような時のために王族にしか知らされていない通路があります。そこを通り、王宮に入りますので大丈夫です。」
「なら、シド尊者何かいらない麻袋か何かない?」
「麻袋ですか?……これはどうでしょうか?」
「あぁ、良いサイズの袋ね。」
里桜はそこに少しの間手をかざす。
「転移魔法陣を付けました。これで私たちとシド尊者の間で書簡のやり取りが簡単になる。私の方も、麻袋に魔法陣を付ければ、お互いが何処にいてもやり取りが出来るでしょ。」
「これは、便利ですね。」
∴∵
「それじゃ、みんな気をつけて。」
連絡役として来ていた兵士と、指揮官として現地へ直行するリュカ、王宮へ向うシドをみんなで見送った。