転生聖職者の楽しい過ごし方
第53話 喚び、召し寄せる
その日はとっても晴れ渡っていた。利子はここ最近一番と言うほど目覚めが良かった。
利子には計画があった。その計画の決行日は今日だと決めていた。
「トシコ様、お迎えの馬車の準備が整いました。」
「ありがとう。」
今日から暫く領地の屋敷へ行くことになっていた。領地までは二日かかる。領地へ入る少し手前で休憩を取ることになっていて、その小さな町に立っていた今にも潰れそうな牛舎をハワード侯爵に買わせた宝飾品で買い取っていた。
「さぁ、行きましょうか。」
「はい。トシコ様。」
∴∵
ブラウェヒーモはとても小さな町だった。横浜の観光地にも近い都心部に育った利子にとって、田園風景はとても珍しい風景だ。この世界に来てから何度も王宮の外へ出たが、出かけ先は貴族のタウンハウスばかりでこのような景色は目にすることがなかった。
護衛や侍女はレストランに置いてきた。
「よし。」
図書室の書架の端にあった埃を被ったような古文書。言葉は分からないものばかりで、現代の日本みたいに古語辞典もない。だけれど、所々の名詞や分かる言葉で呼び出す魔物は決めた。
ゲームでも良くキャラクター化されていて知っていた。ギリシャ神話ではIrisの姉妹。掠める女。あの女にぴったりだと思った。虹の女神の名声も王様の愛もこれで全部私の元に戻ってくる。
覚えたとおりに魔法陣を描く。そして、呼びかける。さぁ、出てきて。ハルピュイア。
それは真っ青な空に奇妙に舞い上がった。上半身が女性で、腕は翼になっている。下半身は鳥類よりも猛禽類を思わせる鋭い爪。顔は何かの絵本にあった魔女の様に、大きな鷲鼻をしている。見ようによってはその鼻は嘴のようにも見える。
そして、突風を起こしながら商店街の方へ飛んでいった。
「やった。出来た。」
去って行くハルピュイアを見ながら笑顔で利子は呟いた。
∴∵
里桜たちは王都に一番近い宿場町ノーラまで来ていた。
「みんなを不安にさせるかも知れないけど、出来るだけ近くに行きたいの。」
リナとアナスタシア、神殿の者、荷馬車にはユーピに留まる様に言い、騎士も数人だけを伴って馬で帰ろうと思ったら、ヴァレリー率いる第三小隊全員がお供をしてくれることになった。リナとアナスタシアも付いていくと言い張り、結局第七小隊を荷馬車の護衛のために残して神殿の者にもユーピに留まるように言って町を出た。
「この外遊で心から私の住むところはプリズマーティッシュなんだと感じたの。もうここが私の国なんだって。だから、私にそれを守る力があるなら、守りたい。」
ノーラについたのは夜と朝の間。空は少しだけ白んでいて、自分が初めて負傷兵を治療した日の事を思い出した。あれは夏でジャスミンが咲いていた。
さすがに体力自慢の騎士たちも疲れの色を隠せない。急な事で、当初泊まる予定だった宿は流石に部屋はなかったが、幸いにも町の少し外れのペンションを数部屋借りることが出来た。
「私たちと同じお部屋で申し訳ありません。」
「ううん。私の我が儘でここまで来たんだもん。さっ寝ましょう。さすがにちょっと疲れた。」
利子には計画があった。その計画の決行日は今日だと決めていた。
「トシコ様、お迎えの馬車の準備が整いました。」
「ありがとう。」
今日から暫く領地の屋敷へ行くことになっていた。領地までは二日かかる。領地へ入る少し手前で休憩を取ることになっていて、その小さな町に立っていた今にも潰れそうな牛舎をハワード侯爵に買わせた宝飾品で買い取っていた。
「さぁ、行きましょうか。」
「はい。トシコ様。」
∴∵
ブラウェヒーモはとても小さな町だった。横浜の観光地にも近い都心部に育った利子にとって、田園風景はとても珍しい風景だ。この世界に来てから何度も王宮の外へ出たが、出かけ先は貴族のタウンハウスばかりでこのような景色は目にすることがなかった。
護衛や侍女はレストランに置いてきた。
「よし。」
図書室の書架の端にあった埃を被ったような古文書。言葉は分からないものばかりで、現代の日本みたいに古語辞典もない。だけれど、所々の名詞や分かる言葉で呼び出す魔物は決めた。
ゲームでも良くキャラクター化されていて知っていた。ギリシャ神話ではIrisの姉妹。掠める女。あの女にぴったりだと思った。虹の女神の名声も王様の愛もこれで全部私の元に戻ってくる。
覚えたとおりに魔法陣を描く。そして、呼びかける。さぁ、出てきて。ハルピュイア。
それは真っ青な空に奇妙に舞い上がった。上半身が女性で、腕は翼になっている。下半身は鳥類よりも猛禽類を思わせる鋭い爪。顔は何かの絵本にあった魔女の様に、大きな鷲鼻をしている。見ようによってはその鼻は嘴のようにも見える。
そして、突風を起こしながら商店街の方へ飛んでいった。
「やった。出来た。」
去って行くハルピュイアを見ながら笑顔で利子は呟いた。
∴∵
里桜たちは王都に一番近い宿場町ノーラまで来ていた。
「みんなを不安にさせるかも知れないけど、出来るだけ近くに行きたいの。」
リナとアナスタシア、神殿の者、荷馬車にはユーピに留まる様に言い、騎士も数人だけを伴って馬で帰ろうと思ったら、ヴァレリー率いる第三小隊全員がお供をしてくれることになった。リナとアナスタシアも付いていくと言い張り、結局第七小隊を荷馬車の護衛のために残して神殿の者にもユーピに留まるように言って町を出た。
「この外遊で心から私の住むところはプリズマーティッシュなんだと感じたの。もうここが私の国なんだって。だから、私にそれを守る力があるなら、守りたい。」
ノーラについたのは夜と朝の間。空は少しだけ白んでいて、自分が初めて負傷兵を治療した日の事を思い出した。あれは夏でジャスミンが咲いていた。
さすがに体力自慢の騎士たちも疲れの色を隠せない。急な事で、当初泊まる予定だった宿は流石に部屋はなかったが、幸いにも町の少し外れのペンションを数部屋借りることが出来た。
「私たちと同じお部屋で申し訳ありません。」
「ううん。私の我が儘でここまで来たんだもん。さっ寝ましょう。さすがにちょっと疲れた。」