転生聖職者の楽しい過ごし方

第60話 帰着

 目を開くと、真っ青な顔で立っている侍女の姿があった。自分がどんな状況で気を失ったのか思い出し、彼女に申訳のない思いがした。

「目が覚めました。」

 私の声を聞くと、彼女は弾かれた様に私の元に駆け寄ってきた。

「リオ様。大丈夫でございますか?お加減の悪いところは?」
「大丈夫。心配かけてごめんなさい。アレット。ところで、としこさんは?意識戻ったかどうか聞いた?」

 アレットは首を振った。起き上がると、

「リオ様、もう少しお休みになって下さい。」
「もう大丈夫。ねぇ、ここは何階の部屋かしら?」
「三階でございます。」
「としこさんも別の部屋で寝ているの?としこさんが心配なんだけど。」
「心配なのはリオ様です。」
「そうね。ごめんなさい。心配かけて。…白湯が欲しいんだけど。」
「では、ご用意致します。」

 アレットの背中に小さく‘度々ごめん’と謝って、裸足で部屋を出た。左右を見回すと、ずっと先にレオナールの護衛騎士が立っているのが見えた。

「あれだ。」

 都合良く、ドレスではなく動きやすい尊者の制服だった。走って近寄ると兵士は咄嗟に扉を開けまいと腕を広げる。

「そこを退いて。」
「今はどなたもお入り頂くことは出来ません。」
「としこさんが暴れているの?」

 騎士は黙る。

「大丈夫。私ならとしこさんを落ち着かせることが出来るから。そこを退いて。」

 首を振る。

「退きなさいっ。」

 いつにない里桜の剣幕にその場を退く。里桜が扉を開くと、利子が投げつけた花瓶やら何やらが散らばっていた。奥の方で利子の叫び声が聞こえた。近づくと、中には叫んでいる利子一人きりだった。

「私を日本へ帰して。帰りたい。帰してっ。」
「としこさん。落ち着いて。」

 里桜の足元に利子が投げた枕が転がった。里桜の足裏に鋭い痛みが走る。

「としこさん。里桜だよ。としこさん。こっちを見て。里桜だよ。」

 ゆっくり近寄ると、利子は里桜の方を見て勢いよく里桜に駆け寄ってきた。中に入ってきた騎士たちは瞬時に剣に手をかける。里桜はそれを手で制する。利子は里桜に勢いよく抱きついた。

「大丈夫。落ち着いて。帰れるから。私が絶対に日本へ帰してあげるから。ちょっと時間頂戴ね。だから泣かないで。」

 里桜はゆっくりと利子の背をさする。

「としこさん怪我はしてない?」

 利子は大人しく頷く。

「そう良かった。じゃぁ、ベッドに横になろう。」

 それに、静かに従う。利子は強い力で里桜の手を握っている。

「少し、陛下と話してくるから。きっと大丈夫。日本に絶対帰すからね。」

 利子は泣きながら頷いた。里桜は、小さな声で利子に謝ると、眠らせた。

「じゃあ。行ってくる。」

 里桜が利子の手を静かに離すと、踵を返した。

「リオ様、足は大丈夫ですか?」

 下を見ると、里桜が歩いてきた所に、赤く血の跡が付いている。これではまるでホラー映画だ。立ったまま足裏を見ると、ガラスの破片が刺さっていた。道理で足が痛いはずだ。大きい破片を取って、後は手をかざして治す。

「大丈夫。心配かけてごめんなさい。それと、きつい言い方したことも。」


∴∵


 里桜が部屋に戻ると、何とも言えない表情のアレットに迎えられた。

「ごめんなさい。あの…陛下にお話ししたいことがあるの。お目通り下さる様使いををだして。」
「はい。畏まりました。」
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