転生聖職者の楽しい過ごし方
これじゃない。確かにお目にかかりたいと言ったけれど、優雅にガゼボでお茶を啜りたかった訳ではない。どこで誤変換されたのか…アレットか。
「陛下。私は陛下とお茶を飲みたかった訳ではないんです。」
高貴な人って何故こうもお茶を飲む姿が凜としているのか、アナスタシアとレオナールに同じものを感じて少し笑った。
既にレオナールは人払いをしていて、遠くに侍従や騎士たちはいるが、話の聞こえるような距離感ではない。
「陛下。私が珍妙な話をしても信じて下さいますか?」
「今までにリオの話すことで突飛ではなかったことがあったか?」
「そうですね。私の存在自体が神話級なんですもんね。今更でした。私、全知全能の神と会話が出来るんです。」
レオナールは大きく咽せた。
「大丈夫ですか?ハンカチどうぞ。こんなこと言うと何だか本当に珍妙なんですが。こちらへ渡ってきた、わりと最初の方から‘神’と話していたんです。その‘神’から、暗視ガラスの魔法陣をもらったり、隣国の戦記にダウスターニスが載っていると教えてもらったり。」
「戦記のことは、渡ってきた当初色々と古い本を読み漁っていたから、それで見たのだとばかり。」
「やっぱり、ずっと私の動向を監視されていたんですね。まぁ、それは良いのですけど、戦記は勉強にはならないから読んでいませんよ。それで、その‘神’が言うには…」
∴∵
「リオ様が来て以来、トシコ様は暴れる様子がないな。」
「何故、リオ様はトシコ様を懐かせることが出来るのだ?あの人はあっちの世界で猛獣遣いか何かだったのか?」
「気がついてみれば、一癖も二癖もある陛下のご兄弟たちとも上手くやっていたし、確かに猛獣遣いだったのかもしれないな。」
「…いや待てよ。リオ様の場合はご自身がより一層の猛獣だからじゃないのか?」
「あぁ。それも言い得て妙だ。猛獣のボスか。」
∴∵
「ならば、あの性格も全てがその…不安定な存在だからこそだと。」
「はい。そう言っていました。確かに夢の中?で話していたとしこさんは穏やかでした。普通の女性。それで、‘神’は私なら一人でもとしこさんを日本へ帰すことが出来ると言っていました。日本に戻ってもこの世界の事は記憶から消えないようです。あの穏やかなとしこさんには人を傷付けたり、殺してしまった事実はとても重いものになると思います。場合によっては処刑されて命を落とすより。」
レオナールは黙って話を聞く。
「ハーピーが現れたことで沢山の方が亡くなったこともわかっています。ダンスレッスンでパートナーをしてくれていた兵士が名簿に載っていましたから、私としてもとても辛い出来事です。けれど、としこさんがハーピーを創ったというのは、私が見つけたメモだけが証拠です。この世界のものではない言葉で書かれたメモだけ。それだけの証拠で目撃者もなく人を裁けますか?私がとしこさんの計画したことだと証言したところで、では私の証言の正当性は?誰が分かるのですか?私が嘘を言っているかも知れないですよ。」
レオナールは一つ頷いた。
「分かった。しかし、事の大きさから王とは言え一人では決められない。言えるのは善処するとだけだ。」
里桜が笑って頷くとレオナールも笑った。
「それで?」
「それでとは?」
「私と話したいと聞いていたのだが……。」
「はい。今、話したいことはお話ししました。」
「あちらでの土産話などはないのか?」
「お土産は買ってきましたが、荷馬車の中なので。あっ。アリーチェ妃がご懐妊だと聞きました。おめでとうございます。」
レオナールは、ティーカップを持ったまま里桜を真っ直ぐに見た。
「誰から聞いた?」
「先ほど侍女のアレットが、お妃様が懐妊すると後宮の女性たちでお祝いの遊宴会をするのだとかで。それが三週間後だから私のドレスを急いで作らせるから寸法を測りたいと。」
里桜は紅茶を軽く口に含んだ。ほんのりとした渋みが今の里桜にはちょうど良かった。
「ドレスはお断りしました。まだ着ていないドレスもいくつかありますし、何より私はただの神殿の尊者。後宮の遊宴会へ出席する身分ではないので。アレットは何かを大きく勘違いしているみたいで。」
里桜は、レオナールを真っ直ぐに見て笑った。
「陛下。私は陛下とお茶を飲みたかった訳ではないんです。」
高貴な人って何故こうもお茶を飲む姿が凜としているのか、アナスタシアとレオナールに同じものを感じて少し笑った。
既にレオナールは人払いをしていて、遠くに侍従や騎士たちはいるが、話の聞こえるような距離感ではない。
「陛下。私が珍妙な話をしても信じて下さいますか?」
「今までにリオの話すことで突飛ではなかったことがあったか?」
「そうですね。私の存在自体が神話級なんですもんね。今更でした。私、全知全能の神と会話が出来るんです。」
レオナールは大きく咽せた。
「大丈夫ですか?ハンカチどうぞ。こんなこと言うと何だか本当に珍妙なんですが。こちらへ渡ってきた、わりと最初の方から‘神’と話していたんです。その‘神’から、暗視ガラスの魔法陣をもらったり、隣国の戦記にダウスターニスが載っていると教えてもらったり。」
「戦記のことは、渡ってきた当初色々と古い本を読み漁っていたから、それで見たのだとばかり。」
「やっぱり、ずっと私の動向を監視されていたんですね。まぁ、それは良いのですけど、戦記は勉強にはならないから読んでいませんよ。それで、その‘神’が言うには…」
∴∵
「リオ様が来て以来、トシコ様は暴れる様子がないな。」
「何故、リオ様はトシコ様を懐かせることが出来るのだ?あの人はあっちの世界で猛獣遣いか何かだったのか?」
「気がついてみれば、一癖も二癖もある陛下のご兄弟たちとも上手くやっていたし、確かに猛獣遣いだったのかもしれないな。」
「…いや待てよ。リオ様の場合はご自身がより一層の猛獣だからじゃないのか?」
「あぁ。それも言い得て妙だ。猛獣のボスか。」
∴∵
「ならば、あの性格も全てがその…不安定な存在だからこそだと。」
「はい。そう言っていました。確かに夢の中?で話していたとしこさんは穏やかでした。普通の女性。それで、‘神’は私なら一人でもとしこさんを日本へ帰すことが出来ると言っていました。日本に戻ってもこの世界の事は記憶から消えないようです。あの穏やかなとしこさんには人を傷付けたり、殺してしまった事実はとても重いものになると思います。場合によっては処刑されて命を落とすより。」
レオナールは黙って話を聞く。
「ハーピーが現れたことで沢山の方が亡くなったこともわかっています。ダンスレッスンでパートナーをしてくれていた兵士が名簿に載っていましたから、私としてもとても辛い出来事です。けれど、としこさんがハーピーを創ったというのは、私が見つけたメモだけが証拠です。この世界のものではない言葉で書かれたメモだけ。それだけの証拠で目撃者もなく人を裁けますか?私がとしこさんの計画したことだと証言したところで、では私の証言の正当性は?誰が分かるのですか?私が嘘を言っているかも知れないですよ。」
レオナールは一つ頷いた。
「分かった。しかし、事の大きさから王とは言え一人では決められない。言えるのは善処するとだけだ。」
里桜が笑って頷くとレオナールも笑った。
「それで?」
「それでとは?」
「私と話したいと聞いていたのだが……。」
「はい。今、話したいことはお話ししました。」
「あちらでの土産話などはないのか?」
「お土産は買ってきましたが、荷馬車の中なので。あっ。アリーチェ妃がご懐妊だと聞きました。おめでとうございます。」
レオナールは、ティーカップを持ったまま里桜を真っ直ぐに見た。
「誰から聞いた?」
「先ほど侍女のアレットが、お妃様が懐妊すると後宮の女性たちでお祝いの遊宴会をするのだとかで。それが三週間後だから私のドレスを急いで作らせるから寸法を測りたいと。」
里桜は紅茶を軽く口に含んだ。ほんのりとした渋みが今の里桜にはちょうど良かった。
「ドレスはお断りしました。まだ着ていないドレスもいくつかありますし、何より私はただの神殿の尊者。後宮の遊宴会へ出席する身分ではないので。アレットは何かを大きく勘違いしているみたいで。」
里桜は、レオナールを真っ直ぐに見て笑った。