転生聖職者の楽しい過ごし方
「リオ様。長く休暇を頂戴いたしました。ありがとうございます。」
「休みは働く者の権利です。休みたい時には遠慮なく休みなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
「リナが休んでいる間に、神殿を正式に辞めることになったの。」
「本当でございますか?神殿のお仕事がお好きでいらしたのに。」
「正しくは、大尊者として在籍はしているけど、名誉職みたいなものになるの。あーぁ。やっぱり王妃様って窮屈ね。仕方のないことだとは分かっていたけど。」
そう話していると、ノックの音がして返事をするとメイドが荷物の到着を知らせに来た。リナとアナスタシアが取りに向って戻ると、男性使用人が大きな箱を持って入ってきた。
「リオ様、来週の舞踏会で着用されるドレスが陛下から届きました。」
アナスタシアが里桜に断りを入れて、ドレスを広げると、ビスチェタイプのドレスは上はミルキーホワイトで裾に向ってだんだん濃くなるグラーデションになっていて、裾は綺麗な桜色になっていた。
「陛下の色の、深紅のドレスが届くのかと思っていたんだけど…」
「婚約者としてエスコートなさる初めての舞踏会ですしね。」
里桜とリナが言うと、アナスタシアはクスクスと声を出して笑い始めた。
「どうしたの?」
「いいえ。ただ、前に初めての舞踏会でオリヴィエ参謀から贈られてリオ様がお召しになったドレスを、‘サクライロ’と仰ってとても喜んでいらしたと話したことがありましたので…陛下なりの対抗心でございます。」
「兄が贈らせて頂いたドレスよりずっと豪華ですし、きっとリオ様にお似合いになりますよ。」
「ドレスに合わせた小物も届けられておりますよ。」
箱を順々に開けていくとイヤリング、ネックレス、グローブが次々に現れる。二の腕くらいまであるロンググローブも指先が白く、裾に行くほどに桜色になっている。里桜は、それを手に取った。
「今度は、随分と目立つ場所に刺繍されていますね。」
そのグローブには、外側の手首付近にレオナールの紋章が深紅の糸で施されていた。
「これじゃ、隠しようがないね。」
∴∵
翌日、午後のお茶を用意してもらっている時に気になっていたことを聞いた。
「そう言えば、こちらのお屋敷に来て広いせいか、リナもアナスタシアも忙しそうね。」
お茶を淹れてくれている、リナに話しかけた。昨日のお茶の時間は別の侍女がやって来た。
「お屋敷の事は、元からいらした方たちでやっておりますので、その事自体は何も変わりはないのですが、リオ様が婚約者となられた事へのお祝いと、ホープチェストの贈り物を仕分けしたり、中の確認に手間が取られております。しかし、お祝い事でございますし、忙しければ忙しいほど良い事でございます。」
「ホープチェスト?」
「結婚をするときに女性側が結婚後の生活のために用意しておくものを集めておく箱のことでございます。これは、貴族も平民も関係なく女性側が用意するものです。」
里桜の書棚を整えていたアナスタシアが説明した。
「ふーん。そんな習わしがあるのね。」
「貴族ではない者は、自分で刺繍などを施して新居用のリネンなどを作ったり、編み物などを作り、それを綺麗に装飾した箱に集めます。しかし、貴族社会では結婚祝いとして他家から様々な贈り物が届きますので、それらを積んだ荷馬車のことを言います。」
「荷馬車が一台分も届くの?」
「はい。今続々と届いておりまして。もう既に十台分ございます。」
「え?」
「外遊でご一緒致しました三大伯爵家に、アラン様のご生家バシュレ公爵家、もちろんアナスタシアさんのカンバーランド家からも。尊者のお二人からも頂いておりますし、二大侯爵家からも。フルール様のお家からも既に異国の大変立派な織物などが届いております。それで十台分でございますが、これから陛下のご兄弟や、リオ様のお茶仲間、騎士の方たちからも届きますから…最終的に荷馬車がどれくらいになるかは…。」
里桜は指折り数えてみる。
「ん?十家庭で十台?一つのお家で一台分のお祝いを用意するの?」
「一台分のお祝いをご用意下さるのは公爵家や有力な伯爵家などですが…リオ様は今は公爵令嬢でいらっしゃいます。相手方もそれなりの方たちばかりなので。あっ。神殿の方たちでもホープチェストをご用意下さっているみたいですよ。」
「でも、神殿には平民の方も沢山いるでしょう?そんな無理をさせては…」
すると、アナスタシアが口を開く。
「無理にではございませんよ。みな望んでお祝いを差し上げたいと言っております。あるものは、自分で編んだ膝掛け、あるものは刺繍を施したハンカチ。それぞれが自分に出来る事をしております。ご心配なく。」
「そう。じゃあ、それは届いたら必ず見せてね。」
「はい。畏まりました。」
「休みは働く者の権利です。休みたい時には遠慮なく休みなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
「リナが休んでいる間に、神殿を正式に辞めることになったの。」
「本当でございますか?神殿のお仕事がお好きでいらしたのに。」
「正しくは、大尊者として在籍はしているけど、名誉職みたいなものになるの。あーぁ。やっぱり王妃様って窮屈ね。仕方のないことだとは分かっていたけど。」
そう話していると、ノックの音がして返事をするとメイドが荷物の到着を知らせに来た。リナとアナスタシアが取りに向って戻ると、男性使用人が大きな箱を持って入ってきた。
「リオ様、来週の舞踏会で着用されるドレスが陛下から届きました。」
アナスタシアが里桜に断りを入れて、ドレスを広げると、ビスチェタイプのドレスは上はミルキーホワイトで裾に向ってだんだん濃くなるグラーデションになっていて、裾は綺麗な桜色になっていた。
「陛下の色の、深紅のドレスが届くのかと思っていたんだけど…」
「婚約者としてエスコートなさる初めての舞踏会ですしね。」
里桜とリナが言うと、アナスタシアはクスクスと声を出して笑い始めた。
「どうしたの?」
「いいえ。ただ、前に初めての舞踏会でオリヴィエ参謀から贈られてリオ様がお召しになったドレスを、‘サクライロ’と仰ってとても喜んでいらしたと話したことがありましたので…陛下なりの対抗心でございます。」
「兄が贈らせて頂いたドレスよりずっと豪華ですし、きっとリオ様にお似合いになりますよ。」
「ドレスに合わせた小物も届けられておりますよ。」
箱を順々に開けていくとイヤリング、ネックレス、グローブが次々に現れる。二の腕くらいまであるロンググローブも指先が白く、裾に行くほどに桜色になっている。里桜は、それを手に取った。
「今度は、随分と目立つ場所に刺繍されていますね。」
そのグローブには、外側の手首付近にレオナールの紋章が深紅の糸で施されていた。
「これじゃ、隠しようがないね。」
∴∵
翌日、午後のお茶を用意してもらっている時に気になっていたことを聞いた。
「そう言えば、こちらのお屋敷に来て広いせいか、リナもアナスタシアも忙しそうね。」
お茶を淹れてくれている、リナに話しかけた。昨日のお茶の時間は別の侍女がやって来た。
「お屋敷の事は、元からいらした方たちでやっておりますので、その事自体は何も変わりはないのですが、リオ様が婚約者となられた事へのお祝いと、ホープチェストの贈り物を仕分けしたり、中の確認に手間が取られております。しかし、お祝い事でございますし、忙しければ忙しいほど良い事でございます。」
「ホープチェスト?」
「結婚をするときに女性側が結婚後の生活のために用意しておくものを集めておく箱のことでございます。これは、貴族も平民も関係なく女性側が用意するものです。」
里桜の書棚を整えていたアナスタシアが説明した。
「ふーん。そんな習わしがあるのね。」
「貴族ではない者は、自分で刺繍などを施して新居用のリネンなどを作ったり、編み物などを作り、それを綺麗に装飾した箱に集めます。しかし、貴族社会では結婚祝いとして他家から様々な贈り物が届きますので、それらを積んだ荷馬車のことを言います。」
「荷馬車が一台分も届くの?」
「はい。今続々と届いておりまして。もう既に十台分ございます。」
「え?」
「外遊でご一緒致しました三大伯爵家に、アラン様のご生家バシュレ公爵家、もちろんアナスタシアさんのカンバーランド家からも。尊者のお二人からも頂いておりますし、二大侯爵家からも。フルール様のお家からも既に異国の大変立派な織物などが届いております。それで十台分でございますが、これから陛下のご兄弟や、リオ様のお茶仲間、騎士の方たちからも届きますから…最終的に荷馬車がどれくらいになるかは…。」
里桜は指折り数えてみる。
「ん?十家庭で十台?一つのお家で一台分のお祝いを用意するの?」
「一台分のお祝いをご用意下さるのは公爵家や有力な伯爵家などですが…リオ様は今は公爵令嬢でいらっしゃいます。相手方もそれなりの方たちばかりなので。あっ。神殿の方たちでもホープチェストをご用意下さっているみたいですよ。」
「でも、神殿には平民の方も沢山いるでしょう?そんな無理をさせては…」
すると、アナスタシアが口を開く。
「無理にではございませんよ。みな望んでお祝いを差し上げたいと言っております。あるものは、自分で編んだ膝掛け、あるものは刺繍を施したハンカチ。それぞれが自分に出来る事をしております。ご心配なく。」
「そう。じゃあ、それは届いたら必ず見せてね。」
「はい。畏まりました。」