転生聖職者の楽しい過ごし方
第64話 舞踏会
舞踏会の日、屋敷は大騒ぎだった。
ロベールは公言はしていないものの、結婚などを考えていた様子もなく、六十を超えていた。
この屋敷に一度も女主人が居た事はなく、神殿に仕えているロベールが華やかな催しに出席することもなかった。
だから、潤沢な資金はあっても屋敷全体がどこかもの寂しい雰囲気を持っていた。だが、今日は国王の婚約者として里桜がお披露目される舞踏会。こんなことに縁遠かった使用人たちが一気に浮き足立ってしまうのも仕方のないことだった。
浮き足立っている代表選手の様なのが、今里桜にお茶を淹れてくれているアネットだった。
彼女は母がここで侍女をしている伝手で雇われたが、若い彼女には今までこの屋敷での奉公はつまらないものだった。しかし、里桜の出現で一気に華やいだことを誰よりも喜んでいた。
「リオ様。今夜はいよいよ舞踏会の日でございますね。陛下から贈られたドレス、私も少し垣間見ましたけれど、とても素敵でございました。」
「陛下にお伝えしておくわね。」
里桜が微笑むと、アネットは更に明るい顔をした。
「普段からお掃除もお手入れも欠かしませんけれど、今日は陛下がお迎えに来るので、下働きから執事までが至るところを磨き上げました。」
「それは、みんなに迷惑掛けてしまって…申し訳ないことをしましたね。」
「いいえ。普段旦那様だけですと、飾り付けをしても張り合いがなかったのですけれど、玄関ホールもどのようなお花を飾ればリオ様が映えるかみなで相談しながら決めました。とても楽しゅうございました。」
「楽しんでもらえたなら良いのだけど、陛下が迎えに来るからと、特別な事はしなくても平気よ。」
「はい。アナスタシアさんからもそう聞きました。陛下はきっと、リオ様しか見ていないから、飾りがあっても、なくても一緒だと。」
「アナスタシアったら。適当なこと言って。ありがとう。アネット。色々と気を遣わせてごめんなさいね。」
「いいえ。これは、私たち侍女や下働きがやりたくてやった事です。だって、毎日のお手紙を欠かさないほど、陛下はリオ様をご寵愛なさっているのですから。お花が霞んでしまうのは当然の事です。」
里桜は、苦笑いでなんとかその場をやり過ごした。
∴∵
「アナスタシア。もう陛下お越しになるんじゃないかな?」
「大丈夫でございます。少し待たせておけば良いのです。」
「ちゃんとお出迎えしないと。」
そんなことを言っている間に、家中がザワザワとし始めた。
心せいている里桜とは正反対にアナスタシアは、うなじの後れ毛を丁寧に直した。
「はい。できました。」
リナがケープを取ると、アナスタシアは里桜に向ってそっと手を差し出した。その手を取って立ち上がる。リナが先を歩き、扉を開けた。婚約者になってから正式に護衛担当になったヴァレリーが一番前を歩く。里桜が玄関ホールに着くと、既にレオナールは到着していて、ロベールと話していた。
「陛下、お待たせして申訳ありません。」
「いいや。少し、早く来すぎたんだ。気にするな。では、行こうか。」
それに対してアナスタシアは‘そうです。早すぎです。’と小さな声で言い返していた。
ロベールは公言はしていないものの、結婚などを考えていた様子もなく、六十を超えていた。
この屋敷に一度も女主人が居た事はなく、神殿に仕えているロベールが華やかな催しに出席することもなかった。
だから、潤沢な資金はあっても屋敷全体がどこかもの寂しい雰囲気を持っていた。だが、今日は国王の婚約者として里桜がお披露目される舞踏会。こんなことに縁遠かった使用人たちが一気に浮き足立ってしまうのも仕方のないことだった。
浮き足立っている代表選手の様なのが、今里桜にお茶を淹れてくれているアネットだった。
彼女は母がここで侍女をしている伝手で雇われたが、若い彼女には今までこの屋敷での奉公はつまらないものだった。しかし、里桜の出現で一気に華やいだことを誰よりも喜んでいた。
「リオ様。今夜はいよいよ舞踏会の日でございますね。陛下から贈られたドレス、私も少し垣間見ましたけれど、とても素敵でございました。」
「陛下にお伝えしておくわね。」
里桜が微笑むと、アネットは更に明るい顔をした。
「普段からお掃除もお手入れも欠かしませんけれど、今日は陛下がお迎えに来るので、下働きから執事までが至るところを磨き上げました。」
「それは、みんなに迷惑掛けてしまって…申し訳ないことをしましたね。」
「いいえ。普段旦那様だけですと、飾り付けをしても張り合いがなかったのですけれど、玄関ホールもどのようなお花を飾ればリオ様が映えるかみなで相談しながら決めました。とても楽しゅうございました。」
「楽しんでもらえたなら良いのだけど、陛下が迎えに来るからと、特別な事はしなくても平気よ。」
「はい。アナスタシアさんからもそう聞きました。陛下はきっと、リオ様しか見ていないから、飾りがあっても、なくても一緒だと。」
「アナスタシアったら。適当なこと言って。ありがとう。アネット。色々と気を遣わせてごめんなさいね。」
「いいえ。これは、私たち侍女や下働きがやりたくてやった事です。だって、毎日のお手紙を欠かさないほど、陛下はリオ様をご寵愛なさっているのですから。お花が霞んでしまうのは当然の事です。」
里桜は、苦笑いでなんとかその場をやり過ごした。
∴∵
「アナスタシア。もう陛下お越しになるんじゃないかな?」
「大丈夫でございます。少し待たせておけば良いのです。」
「ちゃんとお出迎えしないと。」
そんなことを言っている間に、家中がザワザワとし始めた。
心せいている里桜とは正反対にアナスタシアは、うなじの後れ毛を丁寧に直した。
「はい。できました。」
リナがケープを取ると、アナスタシアは里桜に向ってそっと手を差し出した。その手を取って立ち上がる。リナが先を歩き、扉を開けた。婚約者になってから正式に護衛担当になったヴァレリーが一番前を歩く。里桜が玄関ホールに着くと、既にレオナールは到着していて、ロベールと話していた。
「陛下、お待たせして申訳ありません。」
「いいや。少し、早く来すぎたんだ。気にするな。では、行こうか。」
それに対してアナスタシアは‘そうです。早すぎです。’と小さな声で言い返していた。