転生聖職者の楽しい過ごし方
二人はレオナールの馬車に相乗りをして、王宮を目指す。
「わざわざ迎えに来て頂かなくても…陛下は王宮にお住まいなのに、言ったり来たりになってしまいましたね。」
「夜会に誰かをエスコートする時は、男側が迎えに行くのが普通だ。」
「はい。ありがとうございます。」
「それと、これは先ほど、言えなかったんだが…今日のリオも美しい。一段と。」
∴∵
レオナールと里桜が会場に到着すると人々はざわめいた。
「やはり、陛下は救世主様を娶りたかったのではないか?」
「なんだあのドレスは。正式な婚約者の着るドレスではないだろう。」
「深紅のドレスをお召しになるものだと思っていましたのに…救世主様が亡くなってしまった今、お二人のご婚約は仕方なくなのかしら?」
そこかしこで噂話をしている。
レオナールがエスコートをして、ホールに続く階段を降りる。始まりの一曲は、二人だけが踊ることになっている。二人が降りきったところで、ホール中央部分まで自然と人々が花道を作った様になる。
曲が始まり、二人は四分の三拍子に合わせてステップを踏む。
「お二人は想い合っていらっしゃるのではないか?」
「えぇ。私にもそう見えます。」
「陛下は幾度も側妃様を伴って舞踏会へご出席なさったが…何と言うか…。」
中年の夫婦は娘の嫁ぎ先を探しに来ていた。もし、発表された婚約が政略的な意味合いのものなら、自分の娘も側妃くらいには選んでもらえるかもと淡い期待を寄せていたが、
「あなた、ハッキリと言っても今の陛下には聞こえませんから大丈夫ですよ。」
「お優しい顔を…」
「あれは、だらしない顔と言うんです。」
互いを見つめ合いながらホール中央で踊る二人には、人々の噂話など全く耳に入っていない。
「陛下も、お父様と一緒であまり魔力の強さに拘らないと聞いていたから、舞踏会などで見初められるかもなんて、淡い期待を抱いていたけど。」
「あらっ、別にこれからでも遅くないわよ。側妃や第二妃の座だってあるし。私なら陛下のご尊顔を毎日拝見出来るのなら、愛妾でも良いわ。」
「もうきっと無理よ。だってあれを見なさいよ。」
扇子で口元を隠した令嬢は友に視線で合図する。相手の令嬢もその方へ視線を向けるが、何を指しているのかは分からない。
「何?」
「彼女のグローブ。何の刺繍かと思ったら、陛下の紋章よ。」
「えっ?」
「手首の所、ここからじゃ、見えないけど、さっきこちらへ来たときに見たの。絶対に陛下の紋章だった。」
「紋章入りのグローブなんて…初めて見た。そんな風習もあるけど、あれは‘もう私はこの女性しか妻にはしません’って言う意味でしょ?だから男性は敬遠して婚約者にも渡さないって。」
「そう。君の肌にはもう誰も触れさせない。僕ももう君以外の肌を触れない。って意味だからね。」
「ちょっとなによそれ…。」
「でも…アリーチェ様は少々強気な性格でいらっしゃるから。それで済めば良いけれど。」
「アリーチェ様はゲウェーニッチからこちらへ来て早々に侍女を何人もクビにしたって噂だしね。」
「それ以外にも、子爵や男爵の方たちとはお話しにならなかったりと、色々ね。」
「男爵家から側妃になったベルナルダ様はそれでご苦労されているみたいだし。」
このような舞踏会ではエスコート役の男性以外と踊る事は珍しくないが、里桜と普段から付き合いのある、レオナールの従兄弟アランや、レオナールの兄弟たちとも一切踊らせず、レオナールはずっと里桜を側に置いていた。
その後もなにくれと甲斐甲斐しく里桜の世話を焼くレオナールの姿を見せられた出席者からは、もう二人が政略的な婚約であるなどと言い出す者はいなくなった。
∴∵
舞踏会が終わり、それぞれが迎えの馬車に乗り込んでいる時、一際大きい馬車が馬車回しに入ってきた。どの馬車も端に寄ってその馬車を通す。馬車にはレオナールの紋章が付いている。
人々が騒々しくしている中、レオナールと里桜が現れた。皆、最後の駄目押しとばかりにレオナールの元へ行き祝いの言葉を述べる。それを一つずつ聞き、対応をする。そのレオナールの腕はしっかりと里桜の腰に添えられ、里桜が前で組んでいる手にはしっかりと紋章が見えている。
「では、リオ。行くとするか。」
「陛下。送って頂かずとも…」
「ヴァロア家には迎えの馬車は不要だと連絡をしてある。いくら待ってもリオの馬車は来ないぞ。」
レオナールは自らが先に乗り、里桜に向って笑顔で手を差し出す。里桜もそれに応える様に笑顔でその手をそっと取った。
「わざわざ迎えに来て頂かなくても…陛下は王宮にお住まいなのに、言ったり来たりになってしまいましたね。」
「夜会に誰かをエスコートする時は、男側が迎えに行くのが普通だ。」
「はい。ありがとうございます。」
「それと、これは先ほど、言えなかったんだが…今日のリオも美しい。一段と。」
∴∵
レオナールと里桜が会場に到着すると人々はざわめいた。
「やはり、陛下は救世主様を娶りたかったのではないか?」
「なんだあのドレスは。正式な婚約者の着るドレスではないだろう。」
「深紅のドレスをお召しになるものだと思っていましたのに…救世主様が亡くなってしまった今、お二人のご婚約は仕方なくなのかしら?」
そこかしこで噂話をしている。
レオナールがエスコートをして、ホールに続く階段を降りる。始まりの一曲は、二人だけが踊ることになっている。二人が降りきったところで、ホール中央部分まで自然と人々が花道を作った様になる。
曲が始まり、二人は四分の三拍子に合わせてステップを踏む。
「お二人は想い合っていらっしゃるのではないか?」
「えぇ。私にもそう見えます。」
「陛下は幾度も側妃様を伴って舞踏会へご出席なさったが…何と言うか…。」
中年の夫婦は娘の嫁ぎ先を探しに来ていた。もし、発表された婚約が政略的な意味合いのものなら、自分の娘も側妃くらいには選んでもらえるかもと淡い期待を寄せていたが、
「あなた、ハッキリと言っても今の陛下には聞こえませんから大丈夫ですよ。」
「お優しい顔を…」
「あれは、だらしない顔と言うんです。」
互いを見つめ合いながらホール中央で踊る二人には、人々の噂話など全く耳に入っていない。
「陛下も、お父様と一緒であまり魔力の強さに拘らないと聞いていたから、舞踏会などで見初められるかもなんて、淡い期待を抱いていたけど。」
「あらっ、別にこれからでも遅くないわよ。側妃や第二妃の座だってあるし。私なら陛下のご尊顔を毎日拝見出来るのなら、愛妾でも良いわ。」
「もうきっと無理よ。だってあれを見なさいよ。」
扇子で口元を隠した令嬢は友に視線で合図する。相手の令嬢もその方へ視線を向けるが、何を指しているのかは分からない。
「何?」
「彼女のグローブ。何の刺繍かと思ったら、陛下の紋章よ。」
「えっ?」
「手首の所、ここからじゃ、見えないけど、さっきこちらへ来たときに見たの。絶対に陛下の紋章だった。」
「紋章入りのグローブなんて…初めて見た。そんな風習もあるけど、あれは‘もう私はこの女性しか妻にはしません’って言う意味でしょ?だから男性は敬遠して婚約者にも渡さないって。」
「そう。君の肌にはもう誰も触れさせない。僕ももう君以外の肌を触れない。って意味だからね。」
「ちょっとなによそれ…。」
「でも…アリーチェ様は少々強気な性格でいらっしゃるから。それで済めば良いけれど。」
「アリーチェ様はゲウェーニッチからこちらへ来て早々に侍女を何人もクビにしたって噂だしね。」
「それ以外にも、子爵や男爵の方たちとはお話しにならなかったりと、色々ね。」
「男爵家から側妃になったベルナルダ様はそれでご苦労されているみたいだし。」
このような舞踏会ではエスコート役の男性以外と踊る事は珍しくないが、里桜と普段から付き合いのある、レオナールの従兄弟アランや、レオナールの兄弟たちとも一切踊らせず、レオナールはずっと里桜を側に置いていた。
その後もなにくれと甲斐甲斐しく里桜の世話を焼くレオナールの姿を見せられた出席者からは、もう二人が政略的な婚約であるなどと言い出す者はいなくなった。
∴∵
舞踏会が終わり、それぞれが迎えの馬車に乗り込んでいる時、一際大きい馬車が馬車回しに入ってきた。どの馬車も端に寄ってその馬車を通す。馬車にはレオナールの紋章が付いている。
人々が騒々しくしている中、レオナールと里桜が現れた。皆、最後の駄目押しとばかりにレオナールの元へ行き祝いの言葉を述べる。それを一つずつ聞き、対応をする。そのレオナールの腕はしっかりと里桜の腰に添えられ、里桜が前で組んでいる手にはしっかりと紋章が見えている。
「では、リオ。行くとするか。」
「陛下。送って頂かずとも…」
「ヴァロア家には迎えの馬車は不要だと連絡をしてある。いくら待ってもリオの馬車は来ないぞ。」
レオナールは自らが先に乗り、里桜に向って笑顔で手を差し出す。里桜もそれに応える様に笑顔でその手をそっと取った。