転生聖職者の楽しい過ごし方
 十二月に入り、王女だけに行われる、誕生七十五日の祝賀行事があり、その十日後は感謝祭が行われた。レオナールは今年もまた、休む間もなく働き、気がつけば、新年を迎えた。
 王宮のテラスで、新年を祝う汽笛を聞きながら、やっと一息ついた。隣には毎年変わらず、クロヴィスがいる。

「毎年、年越しの汽笛をテラスで聞きながらこの国に戦争が起こらなかったことと、無事に年を越えられた事を嬉しそうに語るのに、今年は随分と浮かない顔をしているな。その原因は昼に着いたリオ嬢からの手紙か?」
「領での生活が思いのほか楽しいからと、社交シーズンが始まるまであちらに居るそうだ。」
「まぁ、秋から冬は領地で過ごす人は多いからな。」
「それは、夏の間に留守にしていた領地の管理のためだろ。若い令嬢ならひと月程度領地で過ごすだけで、殆ど王都の屋敷にいるだろう。」
「なんだ、寂しいのか?」
「あぁ。…いや、リオは王都に居ない方が良かったのだろうとは思う。だが、このまま帰ってこないんじゃないか…なんて事を考えて。今年の建国記念日は一緒に過ごせるかと思っていたんだけどな。」


∴∵


 温暖な気候のプリズマーティッシュでも一番寒い二月が終わり、三月に入ると社交シーズンがいよいよ始まる。社交界好きな貴族たちは続々とカントリーハウスからタウンハウスへ戻ってきていたが、里桜は戻らなかった。
 レオナールがそろそろ帰って来ないかと手紙を出しても、緑豊かな場所の春を楽しんでいる様子が綴られた返事が返ってくるだけだった。そうこうしているうちに、暦は四月になってしまった。

「あのまま領地で暮らすなんて事にはならないだろうな。」
「俺に聞かれても分からんよ。」

 ジルベールは素っ気なく答える。

「騎士からは?領地(田舎)での護衛が長引いて嫌気がさしたって苦情はきてないのか?」
「上官にそんな文句の言える気骨ある若者がいたら心が躍るんだけどな。」

 ジルベールは楽しそうに笑う。

「しかし、もうそろそろ女神祭りもあるんだから帰って来るんじゃないのか?神殿には?聞いたのか?」
「大叔父上も建国記念日が終わったらまた休暇を取って領地へ帰ったそうだ。親子揃って…領地に何があるんだ?」
「なんにもないだろう?王都から比較的近いって事ぐらいしか利点のない領…大叔父上はそう言う領地を宛がわれてるだろ?」
「知ってるよ。大叔父上が力を持たないために、私兵すら雇うことを許されなかったからな。」
「まぁ。女神祭りには帰って来るさ。会えない時間が愛を育むって誰かが言ってたな。」

 ‘それじゃ、書類頼むよ。’と言って手をヒラヒラさせながら部屋を出て行こうとした、ジルベールの背中にレオナールは聞こえないほどの小さな声で言った。

「それを言ったのは父上だよ、ジルベール。王宮を出て行く日、本当に嬉しそう言ってた。」
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