転生聖職者の楽しい過ごし方
「何?」

 レオナールは苛立った口調でクロヴィスに聞き返す。

「だから、俺に怒らないでくれって前置きしたよな?」
「何でだ?何かあったのか?」
「王都に帰ってからゴーデンへ行くよりも、ヴァロア領から行った方が近いからだそうだ。」
「この間の手紙にはそんな事、書いてなかったぞ。」
「いや、知らないし。」

 クロヴィスは呆れた様な口ぶりになる。

「準備は?リオがいないのに準備は整うのか?練習とか。」
「みんな滞りなく出来るそうだよ。祝詞も、あちらには長らく尊者をしている、ロベール尊者がいるから。練習もたっぷり出来るって。」
「リオが王都を出てもうどれくらいだ?」

 レオナールの問いにクロヴィスは少し考えながら答える。

「半年以上あっちへ行ってるか?」
「七ヶ月だ。」

 レオナールは語気を強めに言う。

「うん。」
「舞踏会から俺は、リオの顔を見ていない。結婚は六月だぞ?」
「あぁ。」
「結婚は…するんだよな?」
「俺に聞くな。」
「女神祭りは、俺もゴーデンへ…」
「それは無理。仕事があるだろう?」
「もし、女神祭りが終わって、そのままヴァロア領へ帰るなんてことがあったら、結婚式まで会えない可能性だってあるだろう。」


∴∵


 レオナールの嫌な予感は見事に的中をして、里桜が女神祭りを終えてそのままヴァロア領へ帰ったと知らせを受けた。
 執務机で頭を抱えるレオナールを見て、ジルベールもクロヴィスも笑いを堪えるのに必死だ。

「何故、騎士団はそのままヴァロア領へ行かせた。無理にでも王都へ連れてくれば良いだろう。」
「うちの部下に無理を言うな。相手は、大尊者で、公爵令嬢で、国王の婚約者だぞ。帰ると言われたら、騎士が逆らえるはずないだろ。」
「いよいよ、結婚も危ういね。もう一ヶ月後だからね。」

 青白い顔してクロヴィスを睨むレオナールに、とうとう二人とも堪えきれずに笑い出した。

「他人事だと思って…」
「いや、国王が結婚を土壇場で破棄だなんて、宰相としては決して他人事ではないよ。」
「あのお嬢ちゃんは本当に相変わらずと言うか何と言うか。こりゃ、王妃様になっても楽しそうだな。」


∴∵


 そして、それから一週間以上経った日に里桜からレオナール宛に手紙が届いた。その手紙を読み終えたレオナールは明らかな安堵のため息を吐いた。

「リオ嬢はなんだって?」
「二十三日にヴァロア領を出て、王宮に向うそうだ。王宮のリオの部屋は?整えたか?」
「大丈夫だよ。何ヶ月も前に整え終わってる。」
「そうか、一安心だ。」
「あぁ。良かったな。結婚の意思が変っていなくて。宰相としても、国王の結婚が土壇場で破棄だなんて醜聞の後始末をしなくて済んで助かった。」

 クロヴィスは大笑いしながら部屋を出て行った。
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