転生聖職者の楽しい過ごし方

第66話 花嫁行列

 玄関に屋敷の使用人たちが集まっている。里桜は執事長から、言葉をもらい、用意された馬車へと向う。
 随分前にレオナールから贈られた馬車には、里桜の紋章とレオナールの紋章が統合した‘リオ妃’の紋章が付いている。
 最初こそ、苦労はしたが屋敷の人たちの温かさに今ではすっかりここが我が家と思えるほどになった。里桜が馬車に乗り込むと、身の回りの世話をしてくれていた数人の侍女が泣き始めた。それを執事がめでたいことなのにと窘める。

 里桜の馬車が走り出す。続いてロベールの馬車、その後をホープチェストの荷馬車が三十台も連なった。
 ホープチェストの荷馬車には、それを贈った人の紋章が付けられている。荷馬車の先頭はレオナールの父アギョン公爵の紋章だ。その後をシドのカンバーランド家、アランの家のバシュレ家、レイベス、アルバートが連なり、ジルベール、クロヴィス、二大侯爵家と言われる、アングランド家、フロベール家、三大伯爵家が続く。
 この花嫁行列と言われる馬車の列は、貴族の結婚の伝統だが、レオナールの側妃はこれをやってこなかったので、王家に嫁ぐ花嫁行列は久し振りの事で見物人が多く集まり、それぞれの街にはそれを狙った出店なども出てお祭りの様な賑やかさになった。


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 ヴァロア領を出て五日目、やっと王都へ着いた。荷馬車の行列はあまりにも長く、里桜が王都へ入っても、荷馬車の最後尾はまだ前の街を出発したばかりだった。
 里桜がヴァロア家のタウンハウスに到着した次の日、最後尾の荷馬車が屋敷へ到着した。

「見事な花嫁行列でございましたね。」

 アネットは屈託のない笑顔を里桜に見せた。

「旦那様は、この行列をするために、一生懸命お荷物をカントリーハウスへ運ぶ手配をされていましたから、お喜びもひとしおでございましょうね。」

 里桜はニッコリと笑った。

「明日は、アナスタシアさんもリナさんも出発のご準備で忙しいので、身支度は私が担当させて頂きます。」

 明日はいよいよ、王宮へ入る日となった。今回王宮に入れば、もう簡単に王宮の外へは出られなくなる。少しだけ、里桜の胸に不安が過る。

「ご結婚の祝賀行事、私はお側でお仕えできませんが、とても楽しみにしております。」
「ありがとう。アネット。」


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 その日の夜は、里桜の希望で特別にロベールだけではなく執事、侍女なども一緒に夕食を取った。下働きたちには、里桜が砂糖菓子を差し入れた。

「明日はいよいよリオが王宮へ向う日となった。今まで、みな慣れぬ事が多かっただろうに準備を良く頑張ってくれた。」

 ロベールの労いの言葉を、静かに聞いている。

「リオ、王妃だからと言って、気負うことはない。一人で出来る事などたかが知れている。お前の立場は今後更に人が頼りとなる。周りの者をよく敬い、軽んじる様なことがない様に。」
「はい。お養父様(とうさま)。」
「これからも顔を見に行くから、何かあればすぐに言いなさい。わかったね?」
「はい。」
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