転生聖職者の楽しい過ごし方
四日目の朝、里桜が居部屋へ行くとリナとアナスタシアがいた。
「お休みを頂きまして。申訳ありません。」
二人で頭を下げる。
「何度も言うけど、休みは働く者の権利だから、遠慮しないで休んでね。それで、これから夜はデボラとマノンが担当して、二人は夜はお休みできるのね?」
「はい。そのような担当になりました。」
「リオ様、早速ですが。」
「何?」
「王妃としての最初のお仕事でございます。」
∴∵
レオナールは公務に復帰して早速、義父となったロベールを執務室へ呼んだ。
「義父上、お呼び立てして申訳ありません。」
「いいえ。さては、リオから聞いたのですね?」
「はい。婚約してからの一年、会わなかったのは私も了承済みなのだと思っていたと。」
「はい。それが、古くからの習わし。リオにはそう説明しました。」
「リオもそう説明を受けていたと言っていました。それなのに帰って来いと私が手紙に書くものだから、おかしいとは思っていたようです。」
「陛下に、習わしの話をしましても、くだらないと仰るだけだと思っておりましたので。」
「私だって、王妃となるリオには結婚前に手を付けたりはしません。」
「そうですね。正式な結婚前にそのような事が起きれば、世間の目は、愛妾などと同列になってしまう。実際にコトがあったかはどうでもよい、その疑いがあるだけで、軽んじられることになる。」
ロベールは、それだけを避けたくて、二人を物理的に離したのではないと説明をする。
第一は、リオにお子様誕生の神事を担当させたくなかったのです。懐妊すれば、安産のための祈願。お子が生まれればその成長の祈願。
リオは神殿で最も力のある尊者です。あのまま神殿にいれば、間違いなくその祈りはあの子がしなくてはいけませんでした。陛下とアリーチェ妃を前に祈りを捧げる。それは、さすがに惨いでしょう。
それと第二に、陛下の第二側妃のアリーチェ様はゲウェーニッチのご出身。ゲウェーニッチは長くエシタリシテソージャの属国であり、先代の王が独立戦争を起こして、エシタリシテソージャから独立することになりました。
その為にあの国は彼の国を嫌っています。しかし、長く属国であったために彼の国の影響を色濃く残している。その一つが貴賤意識の強さです。
アリーチェ妃はあの国の独立王の孫娘。母も亡国ではあっても、王女。彼女はその事にとても誇りを持っています。しかもあの国はもう千年の間、独自で渡り人を召喚できていない。そのせいで渡り人信仰は薄くなっていると聞き及びます。
そんなところに、正式な行事も何もなくリオが嫁いでしまったら、リオは間違いなくアリーチェ妃から軽視されるでしょう。たかが渡り人、ただの平民だと言って。
レオナールはお茶を口に含み考える。確かに、アリーチェは十四歳で婚約者としてこの国へ来たが、その時にこちらで彼女の身の回りの世話をしていた侍女が平民出身だと知って、レオナールに断りもなく解雇したことがある。この国では、王妃の侍女は平民では出来ないが、側妃の侍女はその限りではなく、気の利く下働きの少女が侍女として教育を受け直す事もよくある話しだった。
「しかし、派手なことが嫌いなリオがよくあんな派手な花嫁行列をやりましたね。」
「貴族の花嫁行列はどこも二十台くらいの荷馬車は出すのだと、説明しました。うちは二十台ちょっとだから少し多いくらいで、派手ではない。王家に嫁ぐにしては、私が神殿勤めだから少ない方なのだと。」
レオナールは軽く咽せる。よくもまぁ、そんなホラが出てきたものだと感心する。ホープチェストは本来、新居で使う物を集めた箱のことで、平民はその箱一つで嫁入りする。
貴族も通常多くて三台の荷馬車が出る程度。十台も荷馬車があればド派手と言われる部類だ。
しかも紋章付きの荷馬車と言うことは、その家単独で一台分の祝いの品を用意したと言うことになる。紋章付きの荷馬車は侯爵家でも五台用意できれば派手な方。フロベール家の母ですら八台だったと聞いた。今まで、紋章付きの馬車だけで二十台も連なった行列は見たことがない。
「あとは、少々泣き落としを。私は娘を持つのが夢だった、しかし妻を娶ることも出来なかった。しかし何の縁か、リオを養女に迎えることができ、しかも国王に嫁ぐことになった。ここは、私の長年の夢であった花嫁行列を私に見せてはくれないかっと。」
それで、全て納得した。ロベールにそう言われて、困りながらも首を縦に振る里桜の姿をレオナールは容易に想像できた。
「古からの形式に拘り、見せつける様に派手にしたのも全てリオを王宮で生き抜かせる為です。私はどんな扱いでも構わない。しかし、愛娘は伏魔殿の餌食にはさせません。」
先ほどまでにこやかに話していたロベールは、厳しい顔になった。
「陛下ならお守りくださると信じて託すのです。頼みますよ。」
「分かっています。義父上。」
「お休みを頂きまして。申訳ありません。」
二人で頭を下げる。
「何度も言うけど、休みは働く者の権利だから、遠慮しないで休んでね。それで、これから夜はデボラとマノンが担当して、二人は夜はお休みできるのね?」
「はい。そのような担当になりました。」
「リオ様、早速ですが。」
「何?」
「王妃としての最初のお仕事でございます。」
∴∵
レオナールは公務に復帰して早速、義父となったロベールを執務室へ呼んだ。
「義父上、お呼び立てして申訳ありません。」
「いいえ。さては、リオから聞いたのですね?」
「はい。婚約してからの一年、会わなかったのは私も了承済みなのだと思っていたと。」
「はい。それが、古くからの習わし。リオにはそう説明しました。」
「リオもそう説明を受けていたと言っていました。それなのに帰って来いと私が手紙に書くものだから、おかしいとは思っていたようです。」
「陛下に、習わしの話をしましても、くだらないと仰るだけだと思っておりましたので。」
「私だって、王妃となるリオには結婚前に手を付けたりはしません。」
「そうですね。正式な結婚前にそのような事が起きれば、世間の目は、愛妾などと同列になってしまう。実際にコトがあったかはどうでもよい、その疑いがあるだけで、軽んじられることになる。」
ロベールは、それだけを避けたくて、二人を物理的に離したのではないと説明をする。
第一は、リオにお子様誕生の神事を担当させたくなかったのです。懐妊すれば、安産のための祈願。お子が生まれればその成長の祈願。
リオは神殿で最も力のある尊者です。あのまま神殿にいれば、間違いなくその祈りはあの子がしなくてはいけませんでした。陛下とアリーチェ妃を前に祈りを捧げる。それは、さすがに惨いでしょう。
それと第二に、陛下の第二側妃のアリーチェ様はゲウェーニッチのご出身。ゲウェーニッチは長くエシタリシテソージャの属国であり、先代の王が独立戦争を起こして、エシタリシテソージャから独立することになりました。
その為にあの国は彼の国を嫌っています。しかし、長く属国であったために彼の国の影響を色濃く残している。その一つが貴賤意識の強さです。
アリーチェ妃はあの国の独立王の孫娘。母も亡国ではあっても、王女。彼女はその事にとても誇りを持っています。しかもあの国はもう千年の間、独自で渡り人を召喚できていない。そのせいで渡り人信仰は薄くなっていると聞き及びます。
そんなところに、正式な行事も何もなくリオが嫁いでしまったら、リオは間違いなくアリーチェ妃から軽視されるでしょう。たかが渡り人、ただの平民だと言って。
レオナールはお茶を口に含み考える。確かに、アリーチェは十四歳で婚約者としてこの国へ来たが、その時にこちらで彼女の身の回りの世話をしていた侍女が平民出身だと知って、レオナールに断りもなく解雇したことがある。この国では、王妃の侍女は平民では出来ないが、側妃の侍女はその限りではなく、気の利く下働きの少女が侍女として教育を受け直す事もよくある話しだった。
「しかし、派手なことが嫌いなリオがよくあんな派手な花嫁行列をやりましたね。」
「貴族の花嫁行列はどこも二十台くらいの荷馬車は出すのだと、説明しました。うちは二十台ちょっとだから少し多いくらいで、派手ではない。王家に嫁ぐにしては、私が神殿勤めだから少ない方なのだと。」
レオナールは軽く咽せる。よくもまぁ、そんなホラが出てきたものだと感心する。ホープチェストは本来、新居で使う物を集めた箱のことで、平民はその箱一つで嫁入りする。
貴族も通常多くて三台の荷馬車が出る程度。十台も荷馬車があればド派手と言われる部類だ。
しかも紋章付きの荷馬車と言うことは、その家単独で一台分の祝いの品を用意したと言うことになる。紋章付きの荷馬車は侯爵家でも五台用意できれば派手な方。フロベール家の母ですら八台だったと聞いた。今まで、紋章付きの馬車だけで二十台も連なった行列は見たことがない。
「あとは、少々泣き落としを。私は娘を持つのが夢だった、しかし妻を娶ることも出来なかった。しかし何の縁か、リオを養女に迎えることができ、しかも国王に嫁ぐことになった。ここは、私の長年の夢であった花嫁行列を私に見せてはくれないかっと。」
それで、全て納得した。ロベールにそう言われて、困りながらも首を縦に振る里桜の姿をレオナールは容易に想像できた。
「古からの形式に拘り、見せつける様に派手にしたのも全てリオを王宮で生き抜かせる為です。私はどんな扱いでも構わない。しかし、愛娘は伏魔殿の餌食にはさせません。」
先ほどまでにこやかに話していたロベールは、厳しい顔になった。
「陛下ならお守りくださると信じて託すのです。頼みますよ。」
「分かっています。義父上。」