転生聖職者の楽しい過ごし方

第69話 習わし

「はー。緊張します。」
「今や、女性最上位の王妃様が何を仰る。」

 ジルベールはいつもの様に笑う。里桜はその態度に少しだけ救われる。

「うちの母は穏やかな人だし、先王が退位してからは母も隠居の身だ。気張らずに近所のおばさんと話すくらいの気持ちで会ってくれれば良い。」
「お花、私がお持ちしましょうか?」

 ジルベールに持たれている花は、ジルベールが腕を振って歩くので、花束も一緒に振られていて見ていて何だか可哀想だ。

「あ?いや。これはいい。自分で持つから。」
「そうですか。」
「あっ、いや。ちょっと持っていてくれ、靴紐がほどけたみたいだ。」

 しゃがむジルベールから花束を受け取る。

 オレンジのバラか。綺麗な色…いち、にい、さん…十二本・・ダズンローズ?ってまさかね。団長が花に詳しいとかちょっと似合わないし。

「ありがとう。」

 その言葉で、里桜は笑顔で花束をジルベールに戻す。

「それにしても、王妃も大変だな。全部の部屋に回って挨拶しなきゃなんないなんて。」
「結婚生活での関所は親戚付き合いだって、昼のワイドショーで言ってました。」
「なんだ?それ。」
「なんでもありません。」


∴∵


 ロベールが帰った後、レオナールは溜まった仕事を片付けていた。

「どうした?考え事か?それとも新妻の顔を見たくなったか?」
「リオの顔は見たいが、考えているのはその事じゃない。」

 大叔父上は長く虐げられ、それを受け入れ、自らを殺すようにして生きてきた。全ては死なないために。そんな彼があのような目立つ事をしてリオを嫁がせた。それにどんな意味があるのか…、もう既に何か動きがあるのか。


∴∵


「王妃は今日はどのようにして過ごした?」

 夕食を別々に済ませて、寝支度を済ませて寝室のティーテーブルで一緒に晩酌をしている。

「王妃と呼ばれるのは…なんだか…里桜と呼んで下さい。」
「まだ慣れないか。」
「四日です。慣れません。」
「それで?私の可愛い妻はどのように過ごした?」
「午前中は、後宮のご挨拶回りに。クリスティーヌ様、エレオノール様、イザベル様にお会いして来ました。皆さまとても優しく迎えて下さいました。明日は王太后様に。」
「母上か…。先に言っておくが、母は何でも自分の思った通りに事が運ばないと嫌な質で。」
「待って下さい。陛下。先入観なくお話しをしたいのでもうそれ以上の情報は要りません。」
「しかし、母は…」
「明日はアナスタシアをお供にします。」
「あぁ。それが良い。」

 アニアは王女の孫と言うだけではなく、現アングランド候の姪でもある。母はフロベール侯爵家の出自だと言う事を誇りに思っている。今はもう公の場での発言権などないが、生半可な出自ではないと自負があるので扱いが厄介な人だ。何かの時、太刀打ち出来るのは鉄壁の令嬢アニアだけだ。

「やっぱり俺も一緒に・・」
「いいえ。王妃としての役目ですから。私の素敵な旦那様は心配性のようですけれど、見守っていてくださいね。」
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