転生聖職者の楽しい過ごし方
翌日のお昼過ぎに、里桜は王宮から馬車で五分ほどのレオナールの離宮へ来ていた。そこの南側に建っている棟が第二側妃アリーチェ妃の住まいだ。今は四歳になる王子と生まれたばかりの王女とこの棟に暮らしている。
玄関ホールに着いた里桜は思わず深いため息を吐いた。後ろで控えるヴァレリーが声を殺して笑う。
「ヴァレリー何ですか?」
「いいえ。失礼致しました。」
その声も少し震えている。
「仕方ないでしょう。緊張するのよ。」
「王妃様。何も貴女が緊張する必要はないのですよ。」
侍従のアルフレードは優しく言う。
「そうです。リオ様。」
アナスタシアも言う。そうは言っても…。
「まぁ。とにかく、威厳だけは保てる様には努力するけれど…。」
出迎えに少し待たされてやって来た時アリーチェは、右手で王子と手をつないで左腕に王女を抱いていた。その光景に里桜はカウンターブローをくらった様な状態になる。
「アリーチェですね。初めての挨拶になります。私が王妃の里桜です。お子たちと過ごしているところ邪魔して申訳ない事をしました。本日は挨拶に寄っただけですから、これにて失礼させてもらいます。」
「いいえ。お茶をご用意致しましたので、どうぞ。」
里桜は笑って頷いた。
「では、お言葉に甘えて。」
通されたアリーチェの居間はエシタリシテソージャを思い出す様な豪華な設えだった。
「ご挨拶が遅くなりまして。私がアリーチェでございます。さっ王子、ご自分でご挨拶なさい。」
「第一王子のフェルナンだ。」
「初めまして。フェルナン。私は王妃の里桜です。これからよろしくね。」
「王女は、先日陛下より名を頂戴致しまして、テレーズと言います。」
「テレーズね。これからの成長がとても楽しみですね。子がいるのだからあまり、長居は良くないですね。アナスタシア。」
「はい。王妃様。」
「今日はこちらを渡したくて寄ったのです。」
アナスタシアが合図をするとアルフレードが箱を持ってきた。
「王女誕生の祝いです。遅くなって申し訳ない事をしました。慣例に則って王女のお披露目式用のドレスです。」
アルフレードはアリーチェ付きの侍女に箱を渡す。
「異国の砧打という方法で柔らかく仕上げられた布ですから、テレーズも気に入ってくれると良いのですが。」
「王妃様のお心遣いに感謝申し上げます。」
「良いのです。フェルナンとテレーズの成長を私も楽しみにしています。では、これにて。」
アリーチェに見送られ、里桜は部屋を後にした。
∴∵
「私が、ベルナルダと申します。」
「里桜です。」
「どうぞ、おかけ下さい。王妃様。」
「ありがとう。」
ベルナルダは青空を映した様な綺麗な瞳を優しげに細める。
「ご挨拶が遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます。」
里桜が微笑むと、ベルナルダも同じように笑った。その笑顔はどこか危ういような艶のある微笑みだった。
ベルナルダが‘セシル’と近くの侍女に声を掛けると、侍女は無表情で箱をアナスタシアの方へ渡した。
「こちらは、お祝いの品でございます。」
アナスタシアが、ベルナルダの侍女から受け取り、アルフレードにそのまま渡す。
「本来は、側妃の中で一番格上のアリーチェ様からお祝いの品をお渡し致しますが、私が年長者ですので、代わりにお祝いの品をご用意させて頂きました。」
「ベルナルダの心遣い、幸甚に思います。」
里桜が目配せをすると、アナスタシアは箱を開けた。そこには光沢のある布地が何色か入っていた。
「これは、私が育ちました領地で名産の絹でございます。お収め頂ければ幸いです。」
「この青はとても綺麗な色ですね。」
「そちらの色は、陛下も大変お気に召して下さったお色でございます。その絹で陛下のお召し物を良く仕立てました。肌触りも良いと大変喜んで下さいました。これからはリオ様が仕立てて差し上げて下さい。」
「そうですか。それは、私も楽しみです。今日は、あまり時間に余裕がないので、ここで失礼します。」
「次は是非、私の茶会へいらして下さいませ。」
「えぇ。そうね。その時はもう少しゆっくりとお話し出来れば良いけれど。」
∴∵
「リオ様、お疲れでございますか?」
アナスタシアは優しく問いかける。
「良好な関係を築けるようになるには道のりは遠そうだと思っていたの。」
里桜は、馬車で深くため息を吐いた。
玄関ホールに着いた里桜は思わず深いため息を吐いた。後ろで控えるヴァレリーが声を殺して笑う。
「ヴァレリー何ですか?」
「いいえ。失礼致しました。」
その声も少し震えている。
「仕方ないでしょう。緊張するのよ。」
「王妃様。何も貴女が緊張する必要はないのですよ。」
侍従のアルフレードは優しく言う。
「そうです。リオ様。」
アナスタシアも言う。そうは言っても…。
「まぁ。とにかく、威厳だけは保てる様には努力するけれど…。」
出迎えに少し待たされてやって来た時アリーチェは、右手で王子と手をつないで左腕に王女を抱いていた。その光景に里桜はカウンターブローをくらった様な状態になる。
「アリーチェですね。初めての挨拶になります。私が王妃の里桜です。お子たちと過ごしているところ邪魔して申訳ない事をしました。本日は挨拶に寄っただけですから、これにて失礼させてもらいます。」
「いいえ。お茶をご用意致しましたので、どうぞ。」
里桜は笑って頷いた。
「では、お言葉に甘えて。」
通されたアリーチェの居間はエシタリシテソージャを思い出す様な豪華な設えだった。
「ご挨拶が遅くなりまして。私がアリーチェでございます。さっ王子、ご自分でご挨拶なさい。」
「第一王子のフェルナンだ。」
「初めまして。フェルナン。私は王妃の里桜です。これからよろしくね。」
「王女は、先日陛下より名を頂戴致しまして、テレーズと言います。」
「テレーズね。これからの成長がとても楽しみですね。子がいるのだからあまり、長居は良くないですね。アナスタシア。」
「はい。王妃様。」
「今日はこちらを渡したくて寄ったのです。」
アナスタシアが合図をするとアルフレードが箱を持ってきた。
「王女誕生の祝いです。遅くなって申し訳ない事をしました。慣例に則って王女のお披露目式用のドレスです。」
アルフレードはアリーチェ付きの侍女に箱を渡す。
「異国の砧打という方法で柔らかく仕上げられた布ですから、テレーズも気に入ってくれると良いのですが。」
「王妃様のお心遣いに感謝申し上げます。」
「良いのです。フェルナンとテレーズの成長を私も楽しみにしています。では、これにて。」
アリーチェに見送られ、里桜は部屋を後にした。
∴∵
「私が、ベルナルダと申します。」
「里桜です。」
「どうぞ、おかけ下さい。王妃様。」
「ありがとう。」
ベルナルダは青空を映した様な綺麗な瞳を優しげに細める。
「ご挨拶が遅くなりましたが、ご結婚おめでとうございます。」
里桜が微笑むと、ベルナルダも同じように笑った。その笑顔はどこか危ういような艶のある微笑みだった。
ベルナルダが‘セシル’と近くの侍女に声を掛けると、侍女は無表情で箱をアナスタシアの方へ渡した。
「こちらは、お祝いの品でございます。」
アナスタシアが、ベルナルダの侍女から受け取り、アルフレードにそのまま渡す。
「本来は、側妃の中で一番格上のアリーチェ様からお祝いの品をお渡し致しますが、私が年長者ですので、代わりにお祝いの品をご用意させて頂きました。」
「ベルナルダの心遣い、幸甚に思います。」
里桜が目配せをすると、アナスタシアは箱を開けた。そこには光沢のある布地が何色か入っていた。
「これは、私が育ちました領地で名産の絹でございます。お収め頂ければ幸いです。」
「この青はとても綺麗な色ですね。」
「そちらの色は、陛下も大変お気に召して下さったお色でございます。その絹で陛下のお召し物を良く仕立てました。肌触りも良いと大変喜んで下さいました。これからはリオ様が仕立てて差し上げて下さい。」
「そうですか。それは、私も楽しみです。今日は、あまり時間に余裕がないので、ここで失礼します。」
「次は是非、私の茶会へいらして下さいませ。」
「えぇ。そうね。その時はもう少しゆっくりとお話し出来れば良いけれど。」
∴∵
「リオ様、お疲れでございますか?」
アナスタシアは優しく問いかける。
「良好な関係を築けるようになるには道のりは遠そうだと思っていたの。」
里桜は、馬車で深くため息を吐いた。