転生聖職者の楽しい過ごし方
第70話 実り
「おはようデボラ。」
「おはようございます。王妃様。陛下は…。」
「まだお休み中なの。朝も早いし、まだ平気でしょ?」
「えぇ。時間は問題ありませんが、陛下はお小さいころから浅眠でしたから、ほんの小さな物音でも起きてしまっていたのに、最近は良くお眠りになって、顔色も良くなりました。王妃様のおかげでございますね。」
「私に安眠効果はないと思うけど。」
里桜が笑うと、デボラも笑う。
「少し喉が渇いてしまって。白湯をもらえる?」
「畏まりました。」
里桜は寝室へ戻って、ベッドへ入り直す。
「どこへ行っていた?」
レオナールは里桜を抱き寄せるが、目は瞑ったままだ。
「起きましたか?喉が渇いてしまったので、デボラに白湯を頼みに行っていました。」
「リオ、今日は目覚めるのが早いな。」
「今日は収穫祭がありますから。久し振りの祭事で少し緊張を。」
「五月には女神祭りもやっただろう。」
「あれは、神殿の大尊者としてです。今日のは王妃として行う初めての祭事なので、少し緊張が違います。」
「リオなら大丈夫だ。リオは立派な王妃だ。」
レオナールは里桜の背中を優しくさすりながら、首筋にキスをした。
「陛下、デボラが白湯を持って来ますから起きましょう。」
∴∵
里桜が王妃となって三ヶ月が経った。
朝、起きると里桜の居室で二人で過ごすのが決まりになっていた。その理由の一つは、里桜の部屋の湯殿にある。王妃の部屋を改築するときに、アナスタシアが指示をして湯殿を湯船とは別に洗い場のある日本式に作り替えてくれていた。洗い場には排水の機能も付けられていて、そこで里桜は自分でシャワーを降らせて体を洗っている。それを知ったレオナールが一度使ってみたところ気に入って、朝は里桜の湯殿でシャワーを済ませるのが日課になっている。
もう一つは、朝ご飯を大きなテーブルのある食堂ではなく、里桜の部屋で食べる事にあった。これも里桜が‘大きなテーブルだと陛下とお話しし辛い’と言ったので、里桜の部屋に食事が届けられる事になり、それが習慣化していた。
「今日の収穫祭に翔も来ますか?」
里桜は朝食に用意されたパンをちぎりながらレオナールに聞く。
九月の最後の日曜に収穫祭は行われる。これは、神の乗り物とされている天馬に今年最初に御料農場で収穫された野菜や果物を供え収穫の祝いをする祭りだ。
「あぁ。ずっと、王の天馬しか祭りには来なかったが、私の妃は天馬も乗りこなすから。リオの天馬も現地へ来ることになっている。」
「陛下も私も乗れるのだから、天馬に乗って行けば早いのに…そうすれば天馬をわざわざ運ぶ手間もなくなるのに。」
「供人が付いてこれなくなるからな。」
「そうですね。そう言えば、収穫祭では天馬に野菜をあげるのは王妃だけですけど、何故なのですか?陛下もいらっしゃるなら、陛下もあげれば良いのに。」
「豊穣の神は女神でそれに感謝を表すために代々の妃が天馬の餌やりをやっている。これは、国の年中行事の中でも大切な祭りになっている。ちなみに虹の女神祭りは豊穣祭も兼ねられているんだぞ。」
「どの国も食物の実りは生きるために必要な事ですからね。」
「前にも言ったが、天馬は魔力の強い者しか寄せ付けない。赤色と橙色は背に乗ることを赦されているが、それ以外は近寄ることも赦されないこともある。」
「そんなに気難しいんですか?」
「あぁ。初めから懐かれていたリオには想像も出来ないだろうが…。厩務員も今はレイベス従伯父上の子がやっている。魔力がある程度ないと世話も出来ない。」
「では、今日の祭事は陛下が即位されてからはどなたがやっていらしたんですか?」
「母だ。王太后になっても母が供物を捧げていた。」
レオナールは、食べる手を休めて話し始める。
「国民にとっても、国にとっても重要な収穫祭に天馬へも近づけない正妃では、国民が不安がると言って、ベルナルダもアリーチェも正妃ではなく側妃になってしまった。」
「初めて天馬に乗った時に、リナから簡単に説明はしてもらいました。天馬が赦さない人間は王族とは認めないと国民は思っていると。逆に、天馬に乗れれば、王族だと世間は認知するのだと。」
「あぁ。ただ、天馬は魔力の強さで判断しているだけなのに、Irisが世界を創造するとき天馬に乗っていたと言われいるから、天馬に乗れるのはIrisの子孫である証で、つまりは、王族なのだと言われるようになった。そして、それが真実だと思われている。民間伝承はたかがと高を括るわけにはいかず、今に至っている。」
「そうですね。根拠もない噂が集団パニックを引き起こす原因になることは多々ありますからね。」
「王室への不信感に繋がってクーデターになることだってあり得る。」
レオナールはリオを見てにっこりと笑う。
「その点、私の愛する妃は最強魔力の持ち主だ。これで、国民は我が国は強固に守られていると安心することができる。リオの存在はそれだけで国民の安寧の礎になっている。これ以上の王妃などいるはずもない。」
「おはようございます。王妃様。陛下は…。」
「まだお休み中なの。朝も早いし、まだ平気でしょ?」
「えぇ。時間は問題ありませんが、陛下はお小さいころから浅眠でしたから、ほんの小さな物音でも起きてしまっていたのに、最近は良くお眠りになって、顔色も良くなりました。王妃様のおかげでございますね。」
「私に安眠効果はないと思うけど。」
里桜が笑うと、デボラも笑う。
「少し喉が渇いてしまって。白湯をもらえる?」
「畏まりました。」
里桜は寝室へ戻って、ベッドへ入り直す。
「どこへ行っていた?」
レオナールは里桜を抱き寄せるが、目は瞑ったままだ。
「起きましたか?喉が渇いてしまったので、デボラに白湯を頼みに行っていました。」
「リオ、今日は目覚めるのが早いな。」
「今日は収穫祭がありますから。久し振りの祭事で少し緊張を。」
「五月には女神祭りもやっただろう。」
「あれは、神殿の大尊者としてです。今日のは王妃として行う初めての祭事なので、少し緊張が違います。」
「リオなら大丈夫だ。リオは立派な王妃だ。」
レオナールは里桜の背中を優しくさすりながら、首筋にキスをした。
「陛下、デボラが白湯を持って来ますから起きましょう。」
∴∵
里桜が王妃となって三ヶ月が経った。
朝、起きると里桜の居室で二人で過ごすのが決まりになっていた。その理由の一つは、里桜の部屋の湯殿にある。王妃の部屋を改築するときに、アナスタシアが指示をして湯殿を湯船とは別に洗い場のある日本式に作り替えてくれていた。洗い場には排水の機能も付けられていて、そこで里桜は自分でシャワーを降らせて体を洗っている。それを知ったレオナールが一度使ってみたところ気に入って、朝は里桜の湯殿でシャワーを済ませるのが日課になっている。
もう一つは、朝ご飯を大きなテーブルのある食堂ではなく、里桜の部屋で食べる事にあった。これも里桜が‘大きなテーブルだと陛下とお話しし辛い’と言ったので、里桜の部屋に食事が届けられる事になり、それが習慣化していた。
「今日の収穫祭に翔も来ますか?」
里桜は朝食に用意されたパンをちぎりながらレオナールに聞く。
九月の最後の日曜に収穫祭は行われる。これは、神の乗り物とされている天馬に今年最初に御料農場で収穫された野菜や果物を供え収穫の祝いをする祭りだ。
「あぁ。ずっと、王の天馬しか祭りには来なかったが、私の妃は天馬も乗りこなすから。リオの天馬も現地へ来ることになっている。」
「陛下も私も乗れるのだから、天馬に乗って行けば早いのに…そうすれば天馬をわざわざ運ぶ手間もなくなるのに。」
「供人が付いてこれなくなるからな。」
「そうですね。そう言えば、収穫祭では天馬に野菜をあげるのは王妃だけですけど、何故なのですか?陛下もいらっしゃるなら、陛下もあげれば良いのに。」
「豊穣の神は女神でそれに感謝を表すために代々の妃が天馬の餌やりをやっている。これは、国の年中行事の中でも大切な祭りになっている。ちなみに虹の女神祭りは豊穣祭も兼ねられているんだぞ。」
「どの国も食物の実りは生きるために必要な事ですからね。」
「前にも言ったが、天馬は魔力の強い者しか寄せ付けない。赤色と橙色は背に乗ることを赦されているが、それ以外は近寄ることも赦されないこともある。」
「そんなに気難しいんですか?」
「あぁ。初めから懐かれていたリオには想像も出来ないだろうが…。厩務員も今はレイベス従伯父上の子がやっている。魔力がある程度ないと世話も出来ない。」
「では、今日の祭事は陛下が即位されてからはどなたがやっていらしたんですか?」
「母だ。王太后になっても母が供物を捧げていた。」
レオナールは、食べる手を休めて話し始める。
「国民にとっても、国にとっても重要な収穫祭に天馬へも近づけない正妃では、国民が不安がると言って、ベルナルダもアリーチェも正妃ではなく側妃になってしまった。」
「初めて天馬に乗った時に、リナから簡単に説明はしてもらいました。天馬が赦さない人間は王族とは認めないと国民は思っていると。逆に、天馬に乗れれば、王族だと世間は認知するのだと。」
「あぁ。ただ、天馬は魔力の強さで判断しているだけなのに、Irisが世界を創造するとき天馬に乗っていたと言われいるから、天馬に乗れるのはIrisの子孫である証で、つまりは、王族なのだと言われるようになった。そして、それが真実だと思われている。民間伝承はたかがと高を括るわけにはいかず、今に至っている。」
「そうですね。根拠もない噂が集団パニックを引き起こす原因になることは多々ありますからね。」
「王室への不信感に繋がってクーデターになることだってあり得る。」
レオナールはリオを見てにっこりと笑う。
「その点、私の愛する妃は最強魔力の持ち主だ。これで、国民は我が国は強固に守られていると安心することができる。リオの存在はそれだけで国民の安寧の礎になっている。これ以上の王妃などいるはずもない。」