転生聖職者の楽しい過ごし方
リナは馬車に揺られ、リーブンへ向っていた。この土地にある泉は建国王の第一王子が産湯に使ったと言われる泉で、この泉に浸した石を持っていると健康な子が産まれると言われている。
里桜が懐妊したと聞いたロベールは、リナにリーブンへ行く様に指示をしていた。
「思っていたよりも長い列になっています。これは、泉に到着するまでお時間がかかるかも知れませんね。」
御者が申し訳なさそうに言った。
「今でも、行列が出来るほど人気だったのね。」
リナは感心した様に言う。実はこの言い伝えは一昔前の言い伝えで平民の若者でこの石を持っている妊婦などいなかったからだ。
外で、御者が誰かと話している。
「どうしたの?」
「ラスペード伯爵家の馬車なので、別の道筋で案内頂けるようです。」
目的地が目的地なので、王家やヴァロア家の馬車を使ってしまうと、噂が立ってしまうかも知れないので、リナの養父に馬車を借りていた。
そう言っているうちに、馬車はどんどん進んでいった。そしてしばらくの後、
「リナ様、着きました。」
御者が扉を開けると、もう泉の前まで来ていた。
「あら、まぁ。」
∴∵
「リオ様、お食事をこちらにご用意させて頂きます。」
小さな器に入っているのは、イルフロッタント。幼い頃からのレオナールの好物らしいが、今は里桜が食べられる数少ない物なので、自分の物も食べろとレオナールはうるさく言う。ここでの乳製品は苦手だったが、何故か妊娠してからはこれが美味しく感じた。それをリナかアナスタシアが一口ずつ丁寧に冷却しながら食べさせてくれていた。そうやって食べられても、手のひらにすっぽりと隠れてしまう器一つくらいがやっと。しかし今はそれが四つも置いてある。一体誰が食べると言うのか…。
ふと気が付くと侍女は、見たことのない娘だった。
「初めて見る顔ね。ここへ来て長いの?」
「いいえ。レオナール様が王妃様をお迎えになったことで、王宮が手薄にならないかと王太后様がご心配なされまして、私を含む数名が離宮よりこちらへ来ることになりました。」
「あぁ。王太后様のお計らいね。わかりました。良い方たちをご紹介して下されたこと、感謝申し上げておくわね。」
道理で見目が良いはずだ。立ち去ろうとする二人に、何かを思いついた様に話しかける。
「あっ。ねぇ、イルフロッタントや果物、少し持っていって下さらない?陛下は全て私に食べさせようとするのだけど、最近少し食が細くて。デザートに少しどう?」
「いいえ。そのような…。両陛下がお召し上がりになる様な物を私たちが頂くなど、とんでもないことでございます。これにて御前失礼致します。」
二人は恐縮したまま逃げる様にしてその場を離れた。
∴∵
「もう人払いしていたのか。」
それからしばらくしてレオナールがやって来た。
「陛下がなかなかいらっしゃらなかったので。待ちくたびれてしまいました。」
「ジルベールからの相談に少し時間がかかってしまった。リナとアニアは?」
「リナは養父の使いで出ています。アナスタシアは用事が出来まして少し外しています。」
「そうか、ならば…」
レオナールは近くにあるイルフロッタントを手に取った。
「今日は俺が冷やそう。」
「凍らせないで下さいね。」
里桜が笑うと、レオナールも嬉しそうな顔をする。何故か夕方以降に酷くなるつわりに悩まされていて、レオナールにとっては久し振りの里桜の笑顔だった。メレンゲを崩して、カスタードと一緒に掬う。
「上手く冷えているぞ、さぁ。」
レオナールの差し出したスプーンを受け取ろうとすると、レオナールは里桜の手を軽く弾いて更にスプーンを差し出す。
「さぁ、口を開けて。」
里桜がブリスたちの方を見ると、二人は急いで顔を逸らした。里桜は差し出されたスプーンを口に運ぶ。
「どうだ?冷えすぎか?」
里桜は笑顔で首を振る。
「そうか。よかった。王宮のイルフロッタントは絶品だろう。少しでも食べられる物があって本当に良かった。クロヴィスの…」
メレンゲを崩しながら話していたレオナールの腕に何かが当たった。
「リオ。また吐き気か?平気か?」
里桜の顔は蒼白していて、既にその場に吐き出している。体は小刻みに震えている。
「アシル、ブリス。直ぐに医務官を呼べ。急げ。早く。」
その声に、二人は全力で走り去った。里桜は口から唾液を垂らし、痙攣し始めた。
「つわりじゃないのか…」
里桜が懐妊したと聞いたロベールは、リナにリーブンへ行く様に指示をしていた。
「思っていたよりも長い列になっています。これは、泉に到着するまでお時間がかかるかも知れませんね。」
御者が申し訳なさそうに言った。
「今でも、行列が出来るほど人気だったのね。」
リナは感心した様に言う。実はこの言い伝えは一昔前の言い伝えで平民の若者でこの石を持っている妊婦などいなかったからだ。
外で、御者が誰かと話している。
「どうしたの?」
「ラスペード伯爵家の馬車なので、別の道筋で案内頂けるようです。」
目的地が目的地なので、王家やヴァロア家の馬車を使ってしまうと、噂が立ってしまうかも知れないので、リナの養父に馬車を借りていた。
そう言っているうちに、馬車はどんどん進んでいった。そしてしばらくの後、
「リナ様、着きました。」
御者が扉を開けると、もう泉の前まで来ていた。
「あら、まぁ。」
∴∵
「リオ様、お食事をこちらにご用意させて頂きます。」
小さな器に入っているのは、イルフロッタント。幼い頃からのレオナールの好物らしいが、今は里桜が食べられる数少ない物なので、自分の物も食べろとレオナールはうるさく言う。ここでの乳製品は苦手だったが、何故か妊娠してからはこれが美味しく感じた。それをリナかアナスタシアが一口ずつ丁寧に冷却しながら食べさせてくれていた。そうやって食べられても、手のひらにすっぽりと隠れてしまう器一つくらいがやっと。しかし今はそれが四つも置いてある。一体誰が食べると言うのか…。
ふと気が付くと侍女は、見たことのない娘だった。
「初めて見る顔ね。ここへ来て長いの?」
「いいえ。レオナール様が王妃様をお迎えになったことで、王宮が手薄にならないかと王太后様がご心配なされまして、私を含む数名が離宮よりこちらへ来ることになりました。」
「あぁ。王太后様のお計らいね。わかりました。良い方たちをご紹介して下されたこと、感謝申し上げておくわね。」
道理で見目が良いはずだ。立ち去ろうとする二人に、何かを思いついた様に話しかける。
「あっ。ねぇ、イルフロッタントや果物、少し持っていって下さらない?陛下は全て私に食べさせようとするのだけど、最近少し食が細くて。デザートに少しどう?」
「いいえ。そのような…。両陛下がお召し上がりになる様な物を私たちが頂くなど、とんでもないことでございます。これにて御前失礼致します。」
二人は恐縮したまま逃げる様にしてその場を離れた。
∴∵
「もう人払いしていたのか。」
それからしばらくしてレオナールがやって来た。
「陛下がなかなかいらっしゃらなかったので。待ちくたびれてしまいました。」
「ジルベールからの相談に少し時間がかかってしまった。リナとアニアは?」
「リナは養父の使いで出ています。アナスタシアは用事が出来まして少し外しています。」
「そうか、ならば…」
レオナールは近くにあるイルフロッタントを手に取った。
「今日は俺が冷やそう。」
「凍らせないで下さいね。」
里桜が笑うと、レオナールも嬉しそうな顔をする。何故か夕方以降に酷くなるつわりに悩まされていて、レオナールにとっては久し振りの里桜の笑顔だった。メレンゲを崩して、カスタードと一緒に掬う。
「上手く冷えているぞ、さぁ。」
レオナールの差し出したスプーンを受け取ろうとすると、レオナールは里桜の手を軽く弾いて更にスプーンを差し出す。
「さぁ、口を開けて。」
里桜がブリスたちの方を見ると、二人は急いで顔を逸らした。里桜は差し出されたスプーンを口に運ぶ。
「どうだ?冷えすぎか?」
里桜は笑顔で首を振る。
「そうか。よかった。王宮のイルフロッタントは絶品だろう。少しでも食べられる物があって本当に良かった。クロヴィスの…」
メレンゲを崩しながら話していたレオナールの腕に何かが当たった。
「リオ。また吐き気か?平気か?」
里桜の顔は蒼白していて、既にその場に吐き出している。体は小刻みに震えている。
「アシル、ブリス。直ぐに医務官を呼べ。急げ。早く。」
その声に、二人は全力で走り去った。里桜は口から唾液を垂らし、痙攣し始めた。
「つわりじゃないのか…」