転生聖職者の楽しい過ごし方
第71話 切迫した事態
「青葉花の根の毒でございました。」
「青葉花とは、あの狩りなどで使う猛毒のか?」
「はい。狩りで使われるのは、一番毒性の強い花をすりつぶした液ですが、今回は根を煎じた物が使われておりました。」
治療を行う医務官も同席し、原因などを調べる検査官が報告をしている。その場にはレオナール、クロヴィス、ジルベール、アナスタシアが揃っている。
「ご苦労だった。」
レオナールが言うと、二人は部屋を静かに出て行った。
「今更、レオナールの命を誰が狙う。」
「今、レオナールが死んだとしても、第一王子はまだ五歳になったばかり、王位に就けるのは十年は先。摂政など他国では例があったがこの国には制度自体がない。次に王に就くのはシルヴェストルだ。」
クロヴィスがそう言うと、ジルベールはレオナールを見た。
「レオナール…。」
「それはないと思うが…。結局本当のところは王太后しか知るところにない。」
∴∵
「王太后陛下、お人払いを。」
最古参の侍女、ルイーズがやって来て早々にアデライトに耳打ちをする。アデライトはルイーズ以外を全員下がらせた。
「王太后陛下、実は王妃陛下がお倒れになったと王宮は混乱している様子です。ご容体が芳しくない可能性が。」
「何ですって?どう言う事です?何があったのですか?」
「子細までは。ただ、医務官や検査官が王宮に詰めている、陛下並びにご兄弟がお集まりになっていて、副団長のシルヴェストル様をはじめとした騎士が王宮の調理場を改めているなど、鑑みまして…」
「毒ですか?」
「その可能性も。」
「レオナールは?」
「ご無事でございます。」
「王妃は先日来た時に少しやつれた様子で、最近食が進まないと言っていて、私が懐妊した時と様子が一緒だったからもしやと期待していたのに…」
「それで…実は王太后陛下が国王陛下のお側に置いた侍女がどうやら追われている様なのです。」
「なんですって?どう言う事なの?」
「事情を知っている可能性があると言う事で、騎士団総出で行方を捜しているようです。」
「行方をくらましたのですか?」
「二名が。」
「急いで王宮へ。レオナールに会います。」
∴∵
「アシルたちの言うところによると、食べ物は王太后がレオナールの所に寄越した侍女が運んで来たのだろう?」
「‘子殺し’。」
クロヴィスの言葉に全員が振り向く。
「青葉花の根の異名だ。大昔、ある国で大飢饉が起こった。その時に最下層の食べ物に困った民は、青葉花の根を煎じて子に飲ませた。花の根は煎じても色が付かず、無臭だが甘味は付く。子供は、甘い汁を喜んで飲む。そして飲みきる頃には死んでいる。口減らしの為の最後の手段として親が用いた。それが異名になっていると言う説がある。」
「少し、よろしいでしょうか。」
そこに割って入ったのは、アナスタシアだった。
「何だ?アニア。」
「イルフロッタントは幼い頃より陛下の好物ですが、今では陛下が全てリオ様に差し上げていることは王宮に仕える下々までが知っています。」
「だから、何だ。」
「お命を狙われたのは、陛下ではなく、リオ様。と言う事にはなりませんか?」
一気にアナスタシアへ視線が集中する。
「もし、私がこの王宮で毒により陛下のお命を狙うのならば、陛下のお好きなウィスキーに仕込みます。渡来品の高価なウィスキーは陛下しか口に致しませんから。その方が巻き添えもなく確実です。今日はリナさんが使いでお側を離れていた。私も用事を出され、お側を離れた。他の侍女たちも用事で呼び出されていました。リオ様のお側にいつもの侍女がいなかったのです。」
「では、王太后がリオを狙ったと?」
「ご挨拶に伺った際に、王太后様は陛下とリオ様のご結婚は良いことだと仰っておいででした。ただ、陛下をお慰めするためにと、見目の良い侍女を側に仕えさせるよう、ご自身の侍女へ指示していらっしゃいました。」
アナスタシアはレオナールをまっすぐに見た。
「クロヴィスも知っていたのか?」
「理由は知らなかったさ。身元は調べたが、みな大した出自ではない。政治絡みではなさそうだし、人手が足りないのは確かだったから、王宮で引き取ることは許可した。」
「王太后様がお見えになりました。」
外に立っている騎士からの声に、全員がお互いを見合う。
「待て、私が外へ出る。」
レオナールはそう言って、部屋を出た。
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※青菜花はお話しの中の架空の植物です。
オオボウシバナの別名‘青花’とは全く関係はありません。※
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「青葉花とは、あの狩りなどで使う猛毒のか?」
「はい。狩りで使われるのは、一番毒性の強い花をすりつぶした液ですが、今回は根を煎じた物が使われておりました。」
治療を行う医務官も同席し、原因などを調べる検査官が報告をしている。その場にはレオナール、クロヴィス、ジルベール、アナスタシアが揃っている。
「ご苦労だった。」
レオナールが言うと、二人は部屋を静かに出て行った。
「今更、レオナールの命を誰が狙う。」
「今、レオナールが死んだとしても、第一王子はまだ五歳になったばかり、王位に就けるのは十年は先。摂政など他国では例があったがこの国には制度自体がない。次に王に就くのはシルヴェストルだ。」
クロヴィスがそう言うと、ジルベールはレオナールを見た。
「レオナール…。」
「それはないと思うが…。結局本当のところは王太后しか知るところにない。」
∴∵
「王太后陛下、お人払いを。」
最古参の侍女、ルイーズがやって来て早々にアデライトに耳打ちをする。アデライトはルイーズ以外を全員下がらせた。
「王太后陛下、実は王妃陛下がお倒れになったと王宮は混乱している様子です。ご容体が芳しくない可能性が。」
「何ですって?どう言う事です?何があったのですか?」
「子細までは。ただ、医務官や検査官が王宮に詰めている、陛下並びにご兄弟がお集まりになっていて、副団長のシルヴェストル様をはじめとした騎士が王宮の調理場を改めているなど、鑑みまして…」
「毒ですか?」
「その可能性も。」
「レオナールは?」
「ご無事でございます。」
「王妃は先日来た時に少しやつれた様子で、最近食が進まないと言っていて、私が懐妊した時と様子が一緒だったからもしやと期待していたのに…」
「それで…実は王太后陛下が国王陛下のお側に置いた侍女がどうやら追われている様なのです。」
「なんですって?どう言う事なの?」
「事情を知っている可能性があると言う事で、騎士団総出で行方を捜しているようです。」
「行方をくらましたのですか?」
「二名が。」
「急いで王宮へ。レオナールに会います。」
∴∵
「アシルたちの言うところによると、食べ物は王太后がレオナールの所に寄越した侍女が運んで来たのだろう?」
「‘子殺し’。」
クロヴィスの言葉に全員が振り向く。
「青葉花の根の異名だ。大昔、ある国で大飢饉が起こった。その時に最下層の食べ物に困った民は、青葉花の根を煎じて子に飲ませた。花の根は煎じても色が付かず、無臭だが甘味は付く。子供は、甘い汁を喜んで飲む。そして飲みきる頃には死んでいる。口減らしの為の最後の手段として親が用いた。それが異名になっていると言う説がある。」
「少し、よろしいでしょうか。」
そこに割って入ったのは、アナスタシアだった。
「何だ?アニア。」
「イルフロッタントは幼い頃より陛下の好物ですが、今では陛下が全てリオ様に差し上げていることは王宮に仕える下々までが知っています。」
「だから、何だ。」
「お命を狙われたのは、陛下ではなく、リオ様。と言う事にはなりませんか?」
一気にアナスタシアへ視線が集中する。
「もし、私がこの王宮で毒により陛下のお命を狙うのならば、陛下のお好きなウィスキーに仕込みます。渡来品の高価なウィスキーは陛下しか口に致しませんから。その方が巻き添えもなく確実です。今日はリナさんが使いでお側を離れていた。私も用事を出され、お側を離れた。他の侍女たちも用事で呼び出されていました。リオ様のお側にいつもの侍女がいなかったのです。」
「では、王太后がリオを狙ったと?」
「ご挨拶に伺った際に、王太后様は陛下とリオ様のご結婚は良いことだと仰っておいででした。ただ、陛下をお慰めするためにと、見目の良い侍女を側に仕えさせるよう、ご自身の侍女へ指示していらっしゃいました。」
アナスタシアはレオナールをまっすぐに見た。
「クロヴィスも知っていたのか?」
「理由は知らなかったさ。身元は調べたが、みな大した出自ではない。政治絡みではなさそうだし、人手が足りないのは確かだったから、王宮で引き取ることは許可した。」
「王太后様がお見えになりました。」
外に立っている騎士からの声に、全員がお互いを見合う。
「待て、私が外へ出る。」
レオナールはそう言って、部屋を出た。
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※青菜花はお話しの中の架空の植物です。
オオボウシバナの別名‘青花’とは全く関係はありません。※
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