転生聖職者の楽しい過ごし方
「王太后。どうなさいましたか?」
「あなたこそ、どうしたのですか?随分顔色が良くない様だけれど。」
「いいえ。なんでも。最近は執務に追われておりますので、疲れかも知れません。」
アデライトは一度ため息を吐く。
我が息子が、自分の背丈を追い抜いたのはいつの頃だったか、アデライトにはそんな記憶さえもなかった。こんなにもお互いが気持ちをさらけ出すこともなく、探り合う様な会話しかしなくなった事を我が身を省みることなく寂しく思った。
「騎士が王宮の調理場を改めていると聞きました。何かあったのでは?」
「今、お話しする様なことはございません。」
「私があなたの側へ置いた侍女が行方をくらましたと聞きました。」
「王太后は何をご存じなのですか?」
「それが全てです。」
「王太后。これを機に一つ申し上げておきます。これからは父上の離宮で静かにお過ごし下さい。あなたの自尊の礎でもあるフロベールの名をこれ以上汚さぬうちに。」
「母を疑うのですか?」
「疑う…とは、何をでしょうか。私はただ、あまり私の事に干渉しないで頂きたいだけです。私はリオに虹の魔力があるから娶ったのではありません。魔力の強さで王妃に相応しいと思ったわけでもありません。リオの心根が王妃に相応しいと思ったからです。そして何より、リオを愛しているからです。これから先、リオ以外を妻とするつもりはありません。お分かり頂けたでしょうか。それでは騎士に離宮まで送らせます。」
「私が何もしない様に監視を付けるのですか。」
「そこはどのように受け取られても構いません。」
レオナールは側にいる騎士に指示を出して、一瞥することもなく部屋へ入っていった。
レオナールが部屋に戻ると、全員が心配そうな視線を寄越した。
「大丈夫だ。騒ぎを少し聞きつけ、何が起こったのかを聞きに来ただけだ。」
アナスタシアは一つ頷いて、話を続けた。
「陛下も勿論良くご存知だと思いますが、王太后様は真っ直ぐなお方。もし、リオ様と陛下のご結婚に反対ならば、殺さずに追い出すはずです。それか、自分に従属する女性を第二正妃になさるでしょう。指示をしたのは、王太后様ではないはずです。」
「あぁ。俺もそう思う。」
ジルベールがアナスタシアの意見を支持する。
「ならば、大叔父上の方か?」
「レオナールは二十九歳、大叔父上は今年六十八歳だ。妻もなく、実子もいない。養女が王妃になって大叔父上に力が付いたからと言って、誰が大叔父上を危険分子と見る?そもそも大叔父上に権力への野心などない。祖母たちが必要以上に警戒していただけだ。今の世代はそれを十分に知っている。王妃陛下を狙ったところで何にもならないだろう。それに狙うにしても、王妃になってからではなく婚約者の時に動いていた方がやりやすい。」
「王妃のリオを狙う人間など…」
「シルヴェストル副団長お見えになりました。」
「入れ。」
シルヴェストルは狩りに出かけるときの様な動きやすい服装になっている。
「王妃陛下は?」
シルヴェストルは入ってきて早々に問いかける。レオナールは首を横に振った。里桜が庭で服毒して倒れてから丸一日、まだ目覚めていない。
「調理場には青菜花の根は見つからなかった。煎じた形跡もないそうだ。リナとリナの実家、それとシルヴァンが庭を捜索していたが、青菜花が植えられていた形跡もなかった。毒見役も何の問題もなかった。やはり、給仕するタイミングで、既に煮出していた青菜花の根汁をイルフロッタントへ入れたのだろうと思われる。その侍女も今捜索しているが見つからない。」
「そうか。」
「ルシアンが天馬で探しているから、これから俺もそれに合流する。」
「少し休め、シルヴェストル。昨日から寝ずに王宮内を捜索しているだろう。」
ジルベールは諫める。レオナールは、一つ静かに息を吐いた。
「とにかく、侍女を捕まえない限り詳しいことは分かりそうもない。ジルベールも今言ったが、全員昨日から殆ど寝ずにいるだろう。今日の所は一度休んでくれ。」
レオナールはそう言うと、部屋を出て行った。
「あなたこそ、どうしたのですか?随分顔色が良くない様だけれど。」
「いいえ。なんでも。最近は執務に追われておりますので、疲れかも知れません。」
アデライトは一度ため息を吐く。
我が息子が、自分の背丈を追い抜いたのはいつの頃だったか、アデライトにはそんな記憶さえもなかった。こんなにもお互いが気持ちをさらけ出すこともなく、探り合う様な会話しかしなくなった事を我が身を省みることなく寂しく思った。
「騎士が王宮の調理場を改めていると聞きました。何かあったのでは?」
「今、お話しする様なことはございません。」
「私があなたの側へ置いた侍女が行方をくらましたと聞きました。」
「王太后は何をご存じなのですか?」
「それが全てです。」
「王太后。これを機に一つ申し上げておきます。これからは父上の離宮で静かにお過ごし下さい。あなたの自尊の礎でもあるフロベールの名をこれ以上汚さぬうちに。」
「母を疑うのですか?」
「疑う…とは、何をでしょうか。私はただ、あまり私の事に干渉しないで頂きたいだけです。私はリオに虹の魔力があるから娶ったのではありません。魔力の強さで王妃に相応しいと思ったわけでもありません。リオの心根が王妃に相応しいと思ったからです。そして何より、リオを愛しているからです。これから先、リオ以外を妻とするつもりはありません。お分かり頂けたでしょうか。それでは騎士に離宮まで送らせます。」
「私が何もしない様に監視を付けるのですか。」
「そこはどのように受け取られても構いません。」
レオナールは側にいる騎士に指示を出して、一瞥することもなく部屋へ入っていった。
レオナールが部屋に戻ると、全員が心配そうな視線を寄越した。
「大丈夫だ。騒ぎを少し聞きつけ、何が起こったのかを聞きに来ただけだ。」
アナスタシアは一つ頷いて、話を続けた。
「陛下も勿論良くご存知だと思いますが、王太后様は真っ直ぐなお方。もし、リオ様と陛下のご結婚に反対ならば、殺さずに追い出すはずです。それか、自分に従属する女性を第二正妃になさるでしょう。指示をしたのは、王太后様ではないはずです。」
「あぁ。俺もそう思う。」
ジルベールがアナスタシアの意見を支持する。
「ならば、大叔父上の方か?」
「レオナールは二十九歳、大叔父上は今年六十八歳だ。妻もなく、実子もいない。養女が王妃になって大叔父上に力が付いたからと言って、誰が大叔父上を危険分子と見る?そもそも大叔父上に権力への野心などない。祖母たちが必要以上に警戒していただけだ。今の世代はそれを十分に知っている。王妃陛下を狙ったところで何にもならないだろう。それに狙うにしても、王妃になってからではなく婚約者の時に動いていた方がやりやすい。」
「王妃のリオを狙う人間など…」
「シルヴェストル副団長お見えになりました。」
「入れ。」
シルヴェストルは狩りに出かけるときの様な動きやすい服装になっている。
「王妃陛下は?」
シルヴェストルは入ってきて早々に問いかける。レオナールは首を横に振った。里桜が庭で服毒して倒れてから丸一日、まだ目覚めていない。
「調理場には青菜花の根は見つからなかった。煎じた形跡もないそうだ。リナとリナの実家、それとシルヴァンが庭を捜索していたが、青菜花が植えられていた形跡もなかった。毒見役も何の問題もなかった。やはり、給仕するタイミングで、既に煮出していた青菜花の根汁をイルフロッタントへ入れたのだろうと思われる。その侍女も今捜索しているが見つからない。」
「そうか。」
「ルシアンが天馬で探しているから、これから俺もそれに合流する。」
「少し休め、シルヴェストル。昨日から寝ずに王宮内を捜索しているだろう。」
ジルベールは諫める。レオナールは、一つ静かに息を吐いた。
「とにかく、侍女を捕まえない限り詳しいことは分かりそうもない。ジルベールも今言ったが、全員昨日から殆ど寝ずにいるだろう。今日の所は一度休んでくれ。」
レオナールはそう言うと、部屋を出て行った。