転生聖職者の楽しい過ごし方

第74話 息吹き

 里桜の二度目の懐妊は夏の報せと共に届いた。
 今回もつわりは酷く、里桜は寝て過ごすことが多くなった。

「リオ様、お久しぶりのお散歩ですが、ご気分は大丈夫でございますか?」
「ありがとう。アナスタシア。大丈夫。」

 里桜が空を見ると、雲が低いところに大きく広がっていた。

「もう、夏真っ盛りて空ね。」

 日傘を差して寄り添うアナスタシアも空を見る。

「リオ様は、こちらでの夏がお好きでございますからね。今年は体調が優れませんので、残念ではございますが…。」

 アナスタシアは少しだけ眉を八の字にして言った。

「夏の楽しみは来年まで取っておくことにする。」

 笑顔を向ける里桜に、アナスタシアも笑って応えた。懐妊の兆候が現れてからレオナールは里桜を部屋の外に出さないようにしていた。
 それが、自分を心配しての行動であることが里桜にも十分にわかっていたので、里桜も文句を言わずそれに従っていた。

「それにしても、リナが風邪だなんて大丈夫かな。」
「少し喉の痛みがある程度らしいのですが、リオ様のご懐妊もありましたので、念のためのお休みでございます。」

 リナは二日前から風邪気味のために休みを取っていた。いつもなら、オリヴィエ家に伝わるヴァン・ショーを飲んで気合いで治すところが、里桜の懐妊中でうつしてしまっては良くないと、咳が治まるまで休むことにした。

「そう。ならば、良いけど。あまり無理はしないでゆっくり休むように言ってね。でも、何故ジルベール様が代わりだと言って騎士を派遣してくれたの?」

 リナが風邪で休んでいる間、騎士団から女性騎士が一人派遣されている。ジルベールが特別に手配してくれたようだが、休んでいるのは騎士ではなく、侍女だ。派遣された騎士も、侍女の仕事の手助けが出来るわけでもなく、ただ部屋で居心地悪そうに待機しているだけになってしまっている。それは、見ている里桜も少し居心地が悪かった。

「さぁ…。」

 アナスタシアは、曖昧に答えた。

「アナスタシアが頼んだわけでもないのね。どうしてかしらね?」
「どうしてでしょうか…。」
「まぁ、いいか。」

 里桜が庭を歩くと踏みしめた草の香りが風に乗って鼻腔をくすぐる。

「夏の香りがする。なんだか生きてるって感じがして土や草木の香りって好きなの。」
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