転生聖職者の楽しい過ごし方
 二月、街は建国記念日の休日に賑わっていた。

「王妃陛下、お子様は順調でございます。これからはいつお生まれになってもおかしくございません。庭への散歩などはよろしいですが、馬車でのお出かけはお控え下さい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「では、私はこれで失礼させて頂きます。」

 エドモンが医師を見送るために、一緒に部屋を出た。

 ロザリーの娘アネットは里桜がタウンハウスに移ってからまもなく第一子長女を出産した。来週から徐々に侍女としての仕事を始め、里桜の出産後は正式に乳母として雇われることになっている。

 レオナールは、里桜がタウンハウスに移ってから今日までの二ヶ月近く毎日ヴァロア家に顔を出していた。レオナール曰く、‘毎日子供に声を聞かせなければ存在を忘れられてしまうから’らしい。

 まさか、初めての出産が先進医学どころか近代医学でもないこんな時代になるなんて思いもしなかった。出産のリスクは現代の日本よりずっと高いけれど、日本で安心安全の出産をしても、ワンオペ育児と仕事と家事に忙殺される人々を考えると、出産のリスクさえ乗り切ってしまえば、乳母もいて、私のお世話をしてくれる侍女もいる、そんな中で初めての育児が出来る私は恵まれている。とりあえず、今は無事に出産を乗り切ることが第一だ。


∴∵


 三月、とうとう里桜が産気づいた。その報せを聞いたクロヴィスは、無理に引き留めたところでどうせ仕事が手に着かないだろうと判断して、直ぐにレオナールをヴァロア家に向わせた。
 里桜の分娩室として用意した部屋から出てきたロザリーをレオナールは捕まえた。

「ロザリー、まだか?」
「先ほど、お話ししましたとおり、お産には時間がかかります。陣痛があるからと言ってすぐに生まれるわけではございません。私も、アネットを産んだ時は昼に陣痛が始まって、生まれたのは日付が変ってからでございました。次の息子の時もだいぶ時間がかかりました。陛下、王妃様は頑張っていらっしゃいますが、陛下は少しお休み下さい。これから長くなりますから。」


 そして、待望の第一子が生まれたのは、翌日の日が昇った時だった。

「陛下、おめでとうございます。大変元気な王女様でございます。」


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 閑話集 
 空気を読まない女 リナ・オリヴィエ
 ジルベール・ヴァンドーム 四十歳

 の2話更新しました。
 よろしければご覧頂ければと思います。

 赤井タ子ーAkai・Takoー

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