転生聖職者の楽しい過ごし方
 三月八日、マルゲリットが満一歳を迎え、お披露目式を執り行うことになった。その控え室には、里桜とレオナールに主役のマルゲリット、侍女や侍従にレオナールと警備の最終打ち合わせをしているジルベールがいる。
 最近のマルゲリットは少しずつ一人歩きが出来るようになり、言葉に反応する仕草も見られるようになった。

「あっマルゲリット。」

 声と同時に里桜がマルゲリットを抱き上げる。

「今日だけは高速ハイハイは止めてちょうだい。王室に代々受け継がれた繊細なシルクのガウンをハイハイで破いた王女だなんて史書に名前を残したくないでしょ?」

 里桜に抱かれているマルゲリットはニコニコ笑いながらジルベールに抱っこをせがむ。

「マルゲリット、父上もいるぞ。ほら。」

 レオナールが手を広げて笑いかけるが、マルゲリットはジルベールに向って手を出している。

「陛下。マルゲリットはどうやらゴリマッチョが好きみたいで。この前も、オーブリーから離れようとしなくて。陛下は細マッチョなので…。」
「ゴリマッチョとホソマッチョとはなんだ?」

 意味を教えていた、リナとアナスタシアは笑っている。

「私の国の言葉です。お気になさらずに。」
「皆様、式の開始三十分前となりました。ご準備をお願いいたします。」

 里桜はその言葉で、マルゲリットをアネットに託す。

「では、リオ行くか。」
「はい。陛下。」


∴∵


 お披露目の午餐会は恙無く終わり、夜の舞踏会も終盤になっていた。

「リオ。本当に大丈夫か?」
「大丈夫でございますよ。」

 おととい辺りからまた、里桜に懐妊の兆候を見ているレオナールは、今日のお披露目の午餐会も、舞踏会も一部の式次を削ったり、短縮させたりしていた。

「体調が悪くなったら、必ず言えよ。」
「はい。久し振りに陛下とこうして踊ることができてとても良い気分です。」

 しかし、それからひと月後、里桜はつわりに襲われて、またも寝込むことが多くなってしまった。


∴∵


 四月。

「今年はさすがに、女神祭りは代役をお願いしないとだめでしょうか?私は、女神祭りに参加したいと思っているんですけど。」
「だめだ。医者からは魔力は使うなと言われているだろう?」
「祝詞を奏上しているだけです。知らぬ間に虹が発生しているだけで、私が何かの力を発しているわけではないんですけど。」
「だめだ。聖なる泉に強い魔力を持つ人間が浸かれば、かなりの体力を消耗する。それは知っているだろう?それにつわりもまだつらそうだ。そんな体でゴーデンまで行かせることは出来ない。」
「それでも、私はこの国が平和であることを祈りたいし、願いたいんです。」

 ロベール、リナ、アナスタシアが女神祭りに代役を立てるように説得をしたが、この調子で里桜の意思が固すぎて失敗に終わっていた。
 今日はレオナールが説得している。

「この国の事を、民のことを思ってくれるリオを俺は大切に思っている。しかし、今はその子を元気に産むことだけを考えてはくれないか?その子はただ一人。女神祭りはこの先いくらでも機会はある。その子は俺の子でもあるんだ。頼む。」

 レオナールの言葉に、里桜は返す言葉もなくなった。

「…そうですね。少し、我が儘が過ぎました。」

 気落ちをした里桜に、レオナールは優しく話しかける。

「あれほど、嫌がっていた目立つ役回りをこれほどまでにやりたいとゴネられるとは思わなかった。」
「陛下が前に言って下さったではないですか。私の存在が安寧の礎なのだと。私が真摯にこの役割を果たせばみんなが心安らかにいられるのだと思って。それならば、やらないわけにはいかないでしょう?」
「体調が整ったら、またやれば良い。今は、自分とこの子の健康だけを考えてくれ。」
「はい。わかりました。」


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[転生聖職者の楽しい過ごし方] 
 読んで頂き、ありがとうございます。

 閑話集 
 風邪とヴァン・ショー
 風邪と軟膏
 の2話更新しました。
 (この2話は連続のお話しです。)
 よろしければお立ち寄り下さい。

 赤井タ子ーAkai・Takoー

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