転生聖職者の楽しい過ごし方
第76話 結実
「ようやく、物が食べられるようになってよかったな。」
「はい。先月までが嘘のように、何でも美味しくて、つい食べ過ぎてしまいます。」
レオナールは、本当に嬉しそうに笑う。
「今回も陛下に沢山ご心配をおかけしてしまいましたね。」
「いや、それは、気にするな。発表は来月の四日になった。午餐会が開かれるが、リオの体調が一番なのだから、何か不調があれば言うんだぞ。無理はくれぐれもしないように。」
「はい。」
「では、行ってくる。」
レオナールは里桜にキスをすると、部屋を出た。里桜の部屋の前には侍従のアルチュールがいた。
「陛下、おはようございます。」
「あぁ。それで、例のどうなったか?」
「王宮も後宮も使用人たちの娯楽は少ないですから…。」
「そうか。」
∴∵
「それで、発表は四日になったのね。」
「はい。王太后陛下。」
「今いる側妃との間に子は望めないし、レオナールも新しく誰かを娶るつもりはないと言っていたし、やはり王妃のあなたが男子を産まなければならないのだけど…子が産まれればそれ以上の事などないのだから、気をつけて過ごしなさいね。」
アデライトは優しく微笑んだ。
「はい。ありがとうございます。陛下。そう言えば、先日マルゲリットの為に楽団を呼んで下さったとか。」
「あぁ。お披露目式には参列できなかった代わりに、何かお祝いをしようと思っただけで。私も久し振りに音楽を聴きたいと思っていたし。結果、兄のフロベール侯爵が全て準備をしてくれて。王妃も呼ぼうかと思ったのだけれど、あなたは体調が優れないようだったから、無理をさせてはいけないと思って。声を掛けずに悪いことをしたわね。」
その日の茶会は結局、フロベール侯爵が準備したために、他にアングランド侯爵、オードラン伯爵、レオタール伯爵、ファロ伯爵が揃い、この国の大臣たちが集まる派手な茶会になったと聞いていた。
「いいえ。アネットからもマルゲリットがとっても楽しそうにリズムを取っていたと聞きました。」
「えぇ。この様子だと、ダンスもきっと上手になるはずです。きっとこの子は社交界を席巻するでしょうね。デビューが待ち遠しいわ。」
∴∵
レオナールの執務室で、アルチュールは調べていることの報告をしていた。
「女神祭りの不参加に対する批判は、来月のご懐妊の発表で大部分が落ち着くと思われます。しかし、 “王妃が義務を怠って遊びまわり、国の金を散財している” という根も葉もない噂については…」
「この前の王太后のところで催された茶会も批判の元になっていると?」
レオナールは、机を指で規則正しいリズムで叩く。
「満一歳を迎えたばかりの子供のために楽団を国費で呼んだと噂になっております。実際には国費の持ち出しの記録はなく、全てフロベール候が用意した様でございます。」
アルチュールは手元の書類を見る。
「ご夫人の実家の領地だったランズバンの野菜をブランド化して、貴族たちに売るようしたのは今のフロベール侯爵で、それでかなり潤っているとは聞いているが…元々あの一族は派手好きで、加減を知らないからな。」
「料理人も外部から呼んで豪華に作らせたようで、それもまた噂になっております。」
「王太后には静かにしていてくれと頼んでいたのに。見張りを解いた途端にこれか。」
レオナールは短く息を吐く。
「しかし、マルゲリット殿下が音楽に合わせ手足を叩いたりする姿があまりに可愛らしかったと言う事でお呼びになったようでございます。殿下を慈しんでいらっしゃるご様子ですから、あまりお怒りなさいませんように。」
「愛娘が王太后の実家のように派手好きになったらどうしてくれる。王太后の実家ではなくリオの養父のヴァロア家のように慎み深く育って欲しくて、王女から名前を頂いたのに。それにしても、離宮での私的な茶会の話が何故、巷に流れる?フロベール候が呼びかけたのならば、王太后やリオを悪し様にする者など呼ばないはずだ。使用人たちも殆どが寮住まいで、町民たちとの接点は少ない。」
レオナールは頬杖をついて考える。
「あと看過できないのは…フェルナン王子を冷遇しているといった噂です。少し話しは戻りますが、先のフロベール家主催の茶会もフェルナン殿下の出席を王妃陛下が許さなかったと言った噂が出ているようです。」
「それは、声を掛けなかった王太后が軽率だったとしか言いようがないが、元よりアリーチェが王太后を苦手としていたために、フェルナンとの付き合いが希薄だったから声を掛けなかっただけだろう。しかも、今回の茶にリオは関係がない。」
アルチュールはレオナールの意見に同調したようにひとつ頷いた。
「しかし、娯楽が少ない王宮という狭い世間での噂話の内容は、真実かどうかは重要でないことが多いのです。みんなの耳に面白く聞こえれば、それはどんどんと広まります。王妃陛下が男児をご出産なされば、その王子が王位継承権順位一位になるのは間違いがないでしょう。一方フェルナン殿下は、母親の妃が幽閉されてしまっている。貴族たちが王子と距離を取っている事は事実ですからもっともらしく聞こえるのでしょう。」
「リオが冷遇だなどと…どこからそのような噂が出てくるんだ。まぁ。引き続き頼む。」
「はい。陛下。」
アルチュールは、執務室を出た。
「はい。先月までが嘘のように、何でも美味しくて、つい食べ過ぎてしまいます。」
レオナールは、本当に嬉しそうに笑う。
「今回も陛下に沢山ご心配をおかけしてしまいましたね。」
「いや、それは、気にするな。発表は来月の四日になった。午餐会が開かれるが、リオの体調が一番なのだから、何か不調があれば言うんだぞ。無理はくれぐれもしないように。」
「はい。」
「では、行ってくる。」
レオナールは里桜にキスをすると、部屋を出た。里桜の部屋の前には侍従のアルチュールがいた。
「陛下、おはようございます。」
「あぁ。それで、例のどうなったか?」
「王宮も後宮も使用人たちの娯楽は少ないですから…。」
「そうか。」
∴∵
「それで、発表は四日になったのね。」
「はい。王太后陛下。」
「今いる側妃との間に子は望めないし、レオナールも新しく誰かを娶るつもりはないと言っていたし、やはり王妃のあなたが男子を産まなければならないのだけど…子が産まれればそれ以上の事などないのだから、気をつけて過ごしなさいね。」
アデライトは優しく微笑んだ。
「はい。ありがとうございます。陛下。そう言えば、先日マルゲリットの為に楽団を呼んで下さったとか。」
「あぁ。お披露目式には参列できなかった代わりに、何かお祝いをしようと思っただけで。私も久し振りに音楽を聴きたいと思っていたし。結果、兄のフロベール侯爵が全て準備をしてくれて。王妃も呼ぼうかと思ったのだけれど、あなたは体調が優れないようだったから、無理をさせてはいけないと思って。声を掛けずに悪いことをしたわね。」
その日の茶会は結局、フロベール侯爵が準備したために、他にアングランド侯爵、オードラン伯爵、レオタール伯爵、ファロ伯爵が揃い、この国の大臣たちが集まる派手な茶会になったと聞いていた。
「いいえ。アネットからもマルゲリットがとっても楽しそうにリズムを取っていたと聞きました。」
「えぇ。この様子だと、ダンスもきっと上手になるはずです。きっとこの子は社交界を席巻するでしょうね。デビューが待ち遠しいわ。」
∴∵
レオナールの執務室で、アルチュールは調べていることの報告をしていた。
「女神祭りの不参加に対する批判は、来月のご懐妊の発表で大部分が落ち着くと思われます。しかし、 “王妃が義務を怠って遊びまわり、国の金を散財している” という根も葉もない噂については…」
「この前の王太后のところで催された茶会も批判の元になっていると?」
レオナールは、机を指で規則正しいリズムで叩く。
「満一歳を迎えたばかりの子供のために楽団を国費で呼んだと噂になっております。実際には国費の持ち出しの記録はなく、全てフロベール候が用意した様でございます。」
アルチュールは手元の書類を見る。
「ご夫人の実家の領地だったランズバンの野菜をブランド化して、貴族たちに売るようしたのは今のフロベール侯爵で、それでかなり潤っているとは聞いているが…元々あの一族は派手好きで、加減を知らないからな。」
「料理人も外部から呼んで豪華に作らせたようで、それもまた噂になっております。」
「王太后には静かにしていてくれと頼んでいたのに。見張りを解いた途端にこれか。」
レオナールは短く息を吐く。
「しかし、マルゲリット殿下が音楽に合わせ手足を叩いたりする姿があまりに可愛らしかったと言う事でお呼びになったようでございます。殿下を慈しんでいらっしゃるご様子ですから、あまりお怒りなさいませんように。」
「愛娘が王太后の実家のように派手好きになったらどうしてくれる。王太后の実家ではなくリオの養父のヴァロア家のように慎み深く育って欲しくて、王女から名前を頂いたのに。それにしても、離宮での私的な茶会の話が何故、巷に流れる?フロベール候が呼びかけたのならば、王太后やリオを悪し様にする者など呼ばないはずだ。使用人たちも殆どが寮住まいで、町民たちとの接点は少ない。」
レオナールは頬杖をついて考える。
「あと看過できないのは…フェルナン王子を冷遇しているといった噂です。少し話しは戻りますが、先のフロベール家主催の茶会もフェルナン殿下の出席を王妃陛下が許さなかったと言った噂が出ているようです。」
「それは、声を掛けなかった王太后が軽率だったとしか言いようがないが、元よりアリーチェが王太后を苦手としていたために、フェルナンとの付き合いが希薄だったから声を掛けなかっただけだろう。しかも、今回の茶にリオは関係がない。」
アルチュールはレオナールの意見に同調したようにひとつ頷いた。
「しかし、娯楽が少ない王宮という狭い世間での噂話の内容は、真実かどうかは重要でないことが多いのです。みんなの耳に面白く聞こえれば、それはどんどんと広まります。王妃陛下が男児をご出産なされば、その王子が王位継承権順位一位になるのは間違いがないでしょう。一方フェルナン殿下は、母親の妃が幽閉されてしまっている。貴族たちが王子と距離を取っている事は事実ですからもっともらしく聞こえるのでしょう。」
「リオが冷遇だなどと…どこからそのような噂が出てくるんだ。まぁ。引き続き頼む。」
「はい。陛下。」
アルチュールは、執務室を出た。