転生聖職者の楽しい過ごし方
七月四日、里桜の第二子の懐妊が発表された。里桜が最近、大尊者としての仕事や王妃としての公務を欠席がちだったことへの批判は、これで一先ず落ち着いた。
しかし、中にはそれでも王族としての義務を果たせ、怠けるなと言う者などもいて、結局は批判や噂の解消には至らなかった。
レオナールはその事を、朝食を取りながら里桜に話していた。
「陛下が最近、なんだか難しいお顔をしていると思ったら、噂話のことで気を揉んでいたのですか?」
「世論とはそんなもので片付けられることではない。それはリオも理解しているだろ?」
「はい。もちろんです。私が嫌われれば、王室全体の存在意義にも繋がっていきますから。しかし、結婚してからしばらくの人気の方が私には怖かったので、それが落ち着いたことは良かったと思っています。でも…一度上がった物は落ちるとき上がった分とおなじだけ落ちますからね。下手をすれば、私の廃妃論も出てきてしまうかも知れませんね。」
里桜は朝食を食べながら、淡々と話す。
「恐ろしいことを言うな。」
「陛下は、私への噂が急激に悪い物になったことが気がかりなのですよね。」
「あぁ。どこから出てきたのか分からぬ噂が多いが、軽視はできない。」
「ならば、懐妊祝いの午餐会も中止にしますか?」
「あれは、リオの無事な出産を祈る大切なものだ。」
「ならば、神事の部分は残し、午餐会は取りやめにいたしましょう。理由は…体調不良?」
里桜がその場に合わない笑顔で話すと、レオナールはため息を一つ吐いた。
「また、公務を怠ると言われるぞ。そうだ、ゲウェーニッチが冬の厳寒で食物が全く育たず、飢饉となった。」
「はい。冬に火を起こす魔道具を作って、ゲウェーニッチへ送れるようにしたので覚えています。」
「今も定期的にゲウェーニッチへ支援物資を送っている。それにフェルナンはゲウェーニッチにルーツがあるのだし、他国よりも縁はある。それを理由にしよう。我が国はここ何年も大きな不作を味わっていないが、これはいつ我が身に降りかかるとも言えないことだ。国民も理解してくれるだろう。」
「はい。」
∴∵
「王妃も、お腹が目立つようになってきましたね。」
里桜は、離宮の庭でアデライトとリナのハーブティーを飲んでいた。
「はい。少し前から動くのも感じられるようになったので、元気に育ってくれているようです。」
「次に会うときは、お腹の子とも会えるのですね。」
「はい。長くご挨拶に伺えなくなって申し訳ありません。」
「気にすることはありません。今は、あなたと子供の健康だけを考えなさい。良いですね。」
「はい。ありがとうございます。あと、里帰り中にある収穫祭への代役も、ありがとうございます。」
「いいのです。側妃では、天馬に近づく事が出来ないし。仕方がないこと。あと、マルゲリットの様子は、私がこまめに見に行くので、心配の必要はありませんから。」
「重ね重ね、ありがとうございます。王太后陛下。でも、マルゲリットとも毎日は会えなくなってしまうので、忘れられないかが心配です。」
「母なのですよ。心配することはありません。あ、そうでした。一つ渡したい物が。」
アデライトの侍従が小さな箱を一つアルフレードに渡した。里桜が受け取り、箱を開くと何かの原石のような物が入っていた。
「シルヴェストルを身籠もったときに父がリーブンの泉に浸けたその石をくれたのです。石自体は父の持つ領地の一つで採れる瑪瑙の原石なのだけど。今回、私がリーブンへ行ってきました。良かったら受け取って。」
「ありがとうございます。王太后様。」
「元気な子を産むのですよ。」
「はい。」
∴∵
夜、里桜とレオナールはベッドに入っていつもの様に今日あった事などを話していた。
「そうか、王太后から。」
「はい。陛下の拳くらいの大きさでしょうか?瑪瑙の原石なのだそうで。それを王太后様自ら泉に出向われて、渡して下さいました。」
里桜は急に黙り込むレオナールの顔を覗き込んだ。
「リオは、俺に王太后と和解するようにとは言わないな。」
「えぇ。だってそれは、陛下が決めることですから。陛下も私に、王太后とは会うなとは仰いませんし。誰かにそう言われているのですか?」
「ベルナルダは、俺と王太后との仲に心を痛めているようだ。」
「ベルナルダ様は慈悲深い方ですからね。お二人に仲良くして欲しいとお思いなのでしょう。」
里桜はそのまま少し考えて、
「…かと言って、人同士の付き合いは単純なものではないので、お互いにしか分からない事も多いと思います。ベルナルダ様の思い、私の思い、陛下の思い、それ以外も全てを考慮して、陛下なりに出した結論があるならそれで良いと思います。」
レオナールは、隣に座る里桜の肩を優しく包んだ。
「里帰りまで半月か。リオとこうして話すことが一日の楽しみで、だからこそ独り寝が堪える。」
レオナールは、里桜の額にキスをした。
「しかし、義父上はリオが帰って来ることを楽しみにしているだろう?」
「はい。マルゲリットも一緒だと思ったようで、それについては落胆していましたが、マルゲリットは陛下に譲ると言っておりました。」
「大叔父上らしいな。」
そう言いながら、笑うレオナールの顔を見て、里桜はほっとした。
しかし、中にはそれでも王族としての義務を果たせ、怠けるなと言う者などもいて、結局は批判や噂の解消には至らなかった。
レオナールはその事を、朝食を取りながら里桜に話していた。
「陛下が最近、なんだか難しいお顔をしていると思ったら、噂話のことで気を揉んでいたのですか?」
「世論とはそんなもので片付けられることではない。それはリオも理解しているだろ?」
「はい。もちろんです。私が嫌われれば、王室全体の存在意義にも繋がっていきますから。しかし、結婚してからしばらくの人気の方が私には怖かったので、それが落ち着いたことは良かったと思っています。でも…一度上がった物は落ちるとき上がった分とおなじだけ落ちますからね。下手をすれば、私の廃妃論も出てきてしまうかも知れませんね。」
里桜は朝食を食べながら、淡々と話す。
「恐ろしいことを言うな。」
「陛下は、私への噂が急激に悪い物になったことが気がかりなのですよね。」
「あぁ。どこから出てきたのか分からぬ噂が多いが、軽視はできない。」
「ならば、懐妊祝いの午餐会も中止にしますか?」
「あれは、リオの無事な出産を祈る大切なものだ。」
「ならば、神事の部分は残し、午餐会は取りやめにいたしましょう。理由は…体調不良?」
里桜がその場に合わない笑顔で話すと、レオナールはため息を一つ吐いた。
「また、公務を怠ると言われるぞ。そうだ、ゲウェーニッチが冬の厳寒で食物が全く育たず、飢饉となった。」
「はい。冬に火を起こす魔道具を作って、ゲウェーニッチへ送れるようにしたので覚えています。」
「今も定期的にゲウェーニッチへ支援物資を送っている。それにフェルナンはゲウェーニッチにルーツがあるのだし、他国よりも縁はある。それを理由にしよう。我が国はここ何年も大きな不作を味わっていないが、これはいつ我が身に降りかかるとも言えないことだ。国民も理解してくれるだろう。」
「はい。」
∴∵
「王妃も、お腹が目立つようになってきましたね。」
里桜は、離宮の庭でアデライトとリナのハーブティーを飲んでいた。
「はい。少し前から動くのも感じられるようになったので、元気に育ってくれているようです。」
「次に会うときは、お腹の子とも会えるのですね。」
「はい。長くご挨拶に伺えなくなって申し訳ありません。」
「気にすることはありません。今は、あなたと子供の健康だけを考えなさい。良いですね。」
「はい。ありがとうございます。あと、里帰り中にある収穫祭への代役も、ありがとうございます。」
「いいのです。側妃では、天馬に近づく事が出来ないし。仕方がないこと。あと、マルゲリットの様子は、私がこまめに見に行くので、心配の必要はありませんから。」
「重ね重ね、ありがとうございます。王太后陛下。でも、マルゲリットとも毎日は会えなくなってしまうので、忘れられないかが心配です。」
「母なのですよ。心配することはありません。あ、そうでした。一つ渡したい物が。」
アデライトの侍従が小さな箱を一つアルフレードに渡した。里桜が受け取り、箱を開くと何かの原石のような物が入っていた。
「シルヴェストルを身籠もったときに父がリーブンの泉に浸けたその石をくれたのです。石自体は父の持つ領地の一つで採れる瑪瑙の原石なのだけど。今回、私がリーブンへ行ってきました。良かったら受け取って。」
「ありがとうございます。王太后様。」
「元気な子を産むのですよ。」
「はい。」
∴∵
夜、里桜とレオナールはベッドに入っていつもの様に今日あった事などを話していた。
「そうか、王太后から。」
「はい。陛下の拳くらいの大きさでしょうか?瑪瑙の原石なのだそうで。それを王太后様自ら泉に出向われて、渡して下さいました。」
里桜は急に黙り込むレオナールの顔を覗き込んだ。
「リオは、俺に王太后と和解するようにとは言わないな。」
「えぇ。だってそれは、陛下が決めることですから。陛下も私に、王太后とは会うなとは仰いませんし。誰かにそう言われているのですか?」
「ベルナルダは、俺と王太后との仲に心を痛めているようだ。」
「ベルナルダ様は慈悲深い方ですからね。お二人に仲良くして欲しいとお思いなのでしょう。」
里桜はそのまま少し考えて、
「…かと言って、人同士の付き合いは単純なものではないので、お互いにしか分からない事も多いと思います。ベルナルダ様の思い、私の思い、陛下の思い、それ以外も全てを考慮して、陛下なりに出した結論があるならそれで良いと思います。」
レオナールは、隣に座る里桜の肩を優しく包んだ。
「里帰りまで半月か。リオとこうして話すことが一日の楽しみで、だからこそ独り寝が堪える。」
レオナールは、里桜の額にキスをした。
「しかし、義父上はリオが帰って来ることを楽しみにしているだろう?」
「はい。マルゲリットも一緒だと思ったようで、それについては落胆していましたが、マルゲリットは陛下に譲ると言っておりました。」
「大叔父上らしいな。」
そう言いながら、笑うレオナールの顔を見て、里桜はほっとした。