転生聖職者の楽しい過ごし方
パタンと音を立ててハードカバーの本を閉じた。
王宮図書館にあった、過去の渡り人の伝承記は一人に一冊が作られていて、年代記仕立てで事細かに出来事が記されていた。
全ての伝承記を読んで意外に思ったことは、魔獣討伐や民を守るための結界を張る事に救世主の力を使うことはあったが、人間同士の戦争に救世主の力を使う事がなかったことだ。
どんな取り決めが国同士にあるのかは分からないが、長い伝承記に一度も載っていないのであれば、私の力もおそらく戦争のためには使われないという事だろう。
「リオ様、全て読み終わったのでございますか?」
アナスタシアが、並べられた沢山の伝承記を見ながら言った。
「はい。やっと、読み終わりました。一つ聞きたいのですが、例えば、他国との戦争や内戦など、人と人との争いで救世主の力が使われたと言うような記述がないのですけれど、これは何か理由があるのでしょうか?」
「戦争に渡り人様の力を使うことを禁ずる協約はございます。私も、古の協約なので、それに至った経緯はわかりませんが・・・」
「協約と言う事は国際的な法とかそう言うので合意されているって事ですか?」
「はい。渡り人様の力は偉大でございますから。」
「そうですか。」
里桜は少し息を吐いた。どうにか心を保てば、生き物でも魔獣なら討伐出来るようになるかも知れないが、もし、人と戦えと言われたら私はこの国のために人を殺すのだろうかと本気で怖かった。人を殺すためにこの力を使われないで済むのならひとまず安心だ。
「もしも、人を殺すために渡り人様の力を使うと国際裁判で裁かれ、渡り人様も首謀者もその国の王も処刑されることになっています。」
里桜は一瞬で自分の血が引いたことが分かった。
「あぁ。でも大丈夫でございますよ。ここ何百年と隣国との戦争は起きておりませんし、内戦もございません。それに私の従兄弟である陛下はそのような決断をする方ではありません。」
お茶を淹れに行っていたリナが戻り、テーブルに香りの良いハーブティーを置いてくれた。
「良い香りです。」
「今日はジンジャーとレモングラスでございます。ほんの少しハチミツを入れております。」
「ありがとうございます。」
就寝前の一時に、今日の出来事を話したりしながらリナさんの用意してくれたハーブティーを飲むのが日課になっている。この恵まれた環境は、私が渡り人として働く事が前提での暮らしだ。
魔術を自分のものとし、容易に扱えるようになったら本格的に渡り人としての仕事が始まるだろう。それまでに自分がどんな仕事をさせられるのかは知っておきたかった。
「今は大きな魔獣も現れてはおりませんし、しばらくは一般の聖徒の方たちのように、傷を癒やしたり、病を治したりのお仕事が主だと思います。」
アナスタシアは里桜の気持ちを察したように優しく笑った。
王宮図書館にあった、過去の渡り人の伝承記は一人に一冊が作られていて、年代記仕立てで事細かに出来事が記されていた。
全ての伝承記を読んで意外に思ったことは、魔獣討伐や民を守るための結界を張る事に救世主の力を使うことはあったが、人間同士の戦争に救世主の力を使う事がなかったことだ。
どんな取り決めが国同士にあるのかは分からないが、長い伝承記に一度も載っていないのであれば、私の力もおそらく戦争のためには使われないという事だろう。
「リオ様、全て読み終わったのでございますか?」
アナスタシアが、並べられた沢山の伝承記を見ながら言った。
「はい。やっと、読み終わりました。一つ聞きたいのですが、例えば、他国との戦争や内戦など、人と人との争いで救世主の力が使われたと言うような記述がないのですけれど、これは何か理由があるのでしょうか?」
「戦争に渡り人様の力を使うことを禁ずる協約はございます。私も、古の協約なので、それに至った経緯はわかりませんが・・・」
「協約と言う事は国際的な法とかそう言うので合意されているって事ですか?」
「はい。渡り人様の力は偉大でございますから。」
「そうですか。」
里桜は少し息を吐いた。どうにか心を保てば、生き物でも魔獣なら討伐出来るようになるかも知れないが、もし、人と戦えと言われたら私はこの国のために人を殺すのだろうかと本気で怖かった。人を殺すためにこの力を使われないで済むのならひとまず安心だ。
「もしも、人を殺すために渡り人様の力を使うと国際裁判で裁かれ、渡り人様も首謀者もその国の王も処刑されることになっています。」
里桜は一瞬で自分の血が引いたことが分かった。
「あぁ。でも大丈夫でございますよ。ここ何百年と隣国との戦争は起きておりませんし、内戦もございません。それに私の従兄弟である陛下はそのような決断をする方ではありません。」
お茶を淹れに行っていたリナが戻り、テーブルに香りの良いハーブティーを置いてくれた。
「良い香りです。」
「今日はジンジャーとレモングラスでございます。ほんの少しハチミツを入れております。」
「ありがとうございます。」
就寝前の一時に、今日の出来事を話したりしながらリナさんの用意してくれたハーブティーを飲むのが日課になっている。この恵まれた環境は、私が渡り人として働く事が前提での暮らしだ。
魔術を自分のものとし、容易に扱えるようになったら本格的に渡り人としての仕事が始まるだろう。それまでに自分がどんな仕事をさせられるのかは知っておきたかった。
「今は大きな魔獣も現れてはおりませんし、しばらくは一般の聖徒の方たちのように、傷を癒やしたり、病を治したりのお仕事が主だと思います。」
アナスタシアは里桜の気持ちを察したように優しく笑った。