転生聖職者の楽しい過ごし方
「魔力を放出し過ぎたのでしたら、寝て体力が回復すればやがて目を覚まします。しかし、舞踏会で魔力を使うなど何があったのでしょう?まさか魔獣が現れたわけではないでしょうし。」
シドは頭を傾げた。
「寝れば回復するのなら、良かった。」
クロヴィスは、ほっと息を吐く。
「あと、魔力不足に効く体力を回復させる薬草茶も用意いたしましたので。」
そこへ、ジルベールがやって来た。
「救世主は部屋へ届けたよ。侍女と聖徒が付き添ってくれている。」
「伯父上、大変助かりました。ありがとうございます。」
「いや、何の。もし、何かあるといけないので今夜私は神殿に詰めております。トシコ様に何かありましたら、お呼びください。」
「ありがとうございます。」
シドが部屋から退出するのを見送った。
∴∵
「…それで、リオ嬢には俺の二日酔いがばれていたのか。」
ジルベールは、壁に寄りかかりながら里桜を見る。そこにはレオナール、ジルベール、クロヴィスの三人とエスコート役のシルヴァン、当事者のアラン、里桜の侍女のリナとアナスタシアが集まった。
「最近、騎士の方たちや、侍女の方たちに白いもやがかかっているのを見かけまして。良いものか、悪いものか判断が出来なかったので、放っておいたのですが、今日舞踏会でお見かけした方々に同じような白いもやが出ている方がいらっしゃって。それが皆様としこさんの懇意になさっている方の様でした。」
「それは気になるな。」
「その、白いもやが俺にも出ていたのか?」
里桜は頷いて、少し言いにくそうに話し出した。
「はい。バシュレ幕僚でしたらもし何か良いものでも理由を説明すれば許していただけるかと思ったもので。祓ってみました。」
里桜はにっこり笑ってごまかした。
「アルはいつから出ていたのだろうな。」
「私が陛下からダンスにお誘いいただいた時には、白いもやは見えておりませんでした。」
「あの時、アルはトシコ嬢と踊っていただろう?」
「そうなると、やはりトシコ嬢が関係してるのか。」
「あの…気になっていることをお話ししても?」
「リオ何だ?」
レオナールに突然呼び捨てにされ、少し戸惑いながらも、話を進めた。
「としこさんが行っているのは一種の洗脳なのではないかと。」
「洗脳か・・・。」
「俺は、ろくな話をした記憶がないけどな。」
アランは首を傾げた。
「言葉に魔力を乗せれば洗脳と同じ様な状況を作り出す事が出来るのではないかと。」
「魅了の魔術みたいなものか。」
「そう言えば、ここにいらっしゃる陛下とトゥーレーヌ宰相とヴァンドーム団長は何か、魔術を前もってかけられてはいませんか?多分、白金の力なのかも。」
里桜は見渡しながら言った。
「良くわかったな。召喚術を行う前の尊者に加護をつけてもらっている。」
「加護。…王族の方々の周りには銀のキラキラした膜みたいなのが見えます。王族特有のオーラかと思っていたのですが、これが加護なんですね。」
里桜は目の前に座っているクロヴィスを食い入る様に見つめる。
「強い魔力を持つ者の中には魅了の魔術をかけようと試みる者がいて、それから王族を守るために尊者に加護をうけるのが、慣例になっていてね。白金まで力を高めた尊者に加護をかけ直してもらっていたんだよ。」
「私には何も見えませんわ。」
「ところで、魅了の魔術にかかった方はどのように見えるのですか?」
クロヴィスに里桜は問いかける。
「胸の辺りに魔法陣が描かれて見えるらしい。しかし、尊者ほどに魔力が強くないと見えないのだ。」
クロヴィスは胸の辺りを指さして話す。
「リオの話や今までの事を踏まえると、魔術の可視はその魔術をかけた者より強い魔力を持つ者にしか出来ないと言う事か。」
レオナールが自分の後ろに立っているジルベールに問いかける。
「多分、そう言う事だろうな。魅了の魔術も赤の魔力以上を持つ者しかかけられないから、白まで魔力を高めた尊者にしか見えないのだろう。」
「それならば、今までの渡り人様で、魅了の魔術で人を操ろうとした人はいなかったのですか?」
リナが口を開いた。クロヴィスとレオナールが互いに見合わす。
「魔石について、皆には異世界からこの世界へ渡るための鍵の様な物だと説明したが、実はあれは正しくないんだ。」
レオナールがゆっくりと説明する。
「正しくないと言うより、魔石には他にも役割があるというべきか。実は魔石は全知全能の神が救世主として見込んだ人間に授けるとされているのだ。」
里桜は正しくは買ったんだけどと、内心呟く。
「あぁなるほど。ですから、救世主の資格を持った人間に神が石を授け、それが転生する鍵になる、即ち人々を操ろうとするような人間はこの世界には来られないと言う事ですのね。」
里桜の後ろで立っていたアナスタシアが声を発した。
「あぁ。アニアのいう通りだ。」
「此度、神は何を思い、トシコ嬢をこちらに遣わしたのか・・・。」
里桜は『彼女を一緒に連れてきてしまったのはちょっと計算外だったけど。』軽くそう言っていた事を思い出し、舌打ちでもしたい気分になった。
「きっとトシコ嬢は、レオナールにも魔術をかけようとしたのだな。彼女の白の魔力では白金の加護が見えず、いつまでもかからないレオナールに魔術をかけ続け、気を失ったのだろう。」
ジルベールはそう話して腕組みしながらほぅとため息の様な息を吐いた。
「そう考えると、トシコ嬢のドレスの色に誰も口出ししなかったのも合点がいく。」
クロヴィスは隣に座るレオナールに愉快そうな視線を送った。レオナールはそれに気がつき、仕切り直す様に口を開いた。
「しかし、厄介なのは、相手に気が付かれないうちに魅了の魔術をかけられることだ。通常ならば、相手に魔法陣を描いてかける魔術だから、ある程度長い時間一緒にいなくてはいけないし、かける方もかなり集中しなくては行えないから、かけたい相手をまず、身動きが出来ない状態にしなくてはならないからな。」
「大がかりな魔術だから、人が大勢居る中では行えないし。」
アランが独り言の様に呟いた。
「それをかけられる本人も気が付かない間にやるのだから、確かに厄介だ。」
ジルベールが珍しく不快感を顔中に表しながら話した。
「この対策は、明日以降話し合うことにしよう。今日のところは会場に戻り、救世主は連日の魔術特訓と舞踏会への緊張で倒れたと説明する。それで、皆も少しは安心するだろう。」
レオナールが指示を出す。
シドは頭を傾げた。
「寝れば回復するのなら、良かった。」
クロヴィスは、ほっと息を吐く。
「あと、魔力不足に効く体力を回復させる薬草茶も用意いたしましたので。」
そこへ、ジルベールがやって来た。
「救世主は部屋へ届けたよ。侍女と聖徒が付き添ってくれている。」
「伯父上、大変助かりました。ありがとうございます。」
「いや、何の。もし、何かあるといけないので今夜私は神殿に詰めております。トシコ様に何かありましたら、お呼びください。」
「ありがとうございます。」
シドが部屋から退出するのを見送った。
∴∵
「…それで、リオ嬢には俺の二日酔いがばれていたのか。」
ジルベールは、壁に寄りかかりながら里桜を見る。そこにはレオナール、ジルベール、クロヴィスの三人とエスコート役のシルヴァン、当事者のアラン、里桜の侍女のリナとアナスタシアが集まった。
「最近、騎士の方たちや、侍女の方たちに白いもやがかかっているのを見かけまして。良いものか、悪いものか判断が出来なかったので、放っておいたのですが、今日舞踏会でお見かけした方々に同じような白いもやが出ている方がいらっしゃって。それが皆様としこさんの懇意になさっている方の様でした。」
「それは気になるな。」
「その、白いもやが俺にも出ていたのか?」
里桜は頷いて、少し言いにくそうに話し出した。
「はい。バシュレ幕僚でしたらもし何か良いものでも理由を説明すれば許していただけるかと思ったもので。祓ってみました。」
里桜はにっこり笑ってごまかした。
「アルはいつから出ていたのだろうな。」
「私が陛下からダンスにお誘いいただいた時には、白いもやは見えておりませんでした。」
「あの時、アルはトシコ嬢と踊っていただろう?」
「そうなると、やはりトシコ嬢が関係してるのか。」
「あの…気になっていることをお話ししても?」
「リオ何だ?」
レオナールに突然呼び捨てにされ、少し戸惑いながらも、話を進めた。
「としこさんが行っているのは一種の洗脳なのではないかと。」
「洗脳か・・・。」
「俺は、ろくな話をした記憶がないけどな。」
アランは首を傾げた。
「言葉に魔力を乗せれば洗脳と同じ様な状況を作り出す事が出来るのではないかと。」
「魅了の魔術みたいなものか。」
「そう言えば、ここにいらっしゃる陛下とトゥーレーヌ宰相とヴァンドーム団長は何か、魔術を前もってかけられてはいませんか?多分、白金の力なのかも。」
里桜は見渡しながら言った。
「良くわかったな。召喚術を行う前の尊者に加護をつけてもらっている。」
「加護。…王族の方々の周りには銀のキラキラした膜みたいなのが見えます。王族特有のオーラかと思っていたのですが、これが加護なんですね。」
里桜は目の前に座っているクロヴィスを食い入る様に見つめる。
「強い魔力を持つ者の中には魅了の魔術をかけようと試みる者がいて、それから王族を守るために尊者に加護をうけるのが、慣例になっていてね。白金まで力を高めた尊者に加護をかけ直してもらっていたんだよ。」
「私には何も見えませんわ。」
「ところで、魅了の魔術にかかった方はどのように見えるのですか?」
クロヴィスに里桜は問いかける。
「胸の辺りに魔法陣が描かれて見えるらしい。しかし、尊者ほどに魔力が強くないと見えないのだ。」
クロヴィスは胸の辺りを指さして話す。
「リオの話や今までの事を踏まえると、魔術の可視はその魔術をかけた者より強い魔力を持つ者にしか出来ないと言う事か。」
レオナールが自分の後ろに立っているジルベールに問いかける。
「多分、そう言う事だろうな。魅了の魔術も赤の魔力以上を持つ者しかかけられないから、白まで魔力を高めた尊者にしか見えないのだろう。」
「それならば、今までの渡り人様で、魅了の魔術で人を操ろうとした人はいなかったのですか?」
リナが口を開いた。クロヴィスとレオナールが互いに見合わす。
「魔石について、皆には異世界からこの世界へ渡るための鍵の様な物だと説明したが、実はあれは正しくないんだ。」
レオナールがゆっくりと説明する。
「正しくないと言うより、魔石には他にも役割があるというべきか。実は魔石は全知全能の神が救世主として見込んだ人間に授けるとされているのだ。」
里桜は正しくは買ったんだけどと、内心呟く。
「あぁなるほど。ですから、救世主の資格を持った人間に神が石を授け、それが転生する鍵になる、即ち人々を操ろうとするような人間はこの世界には来られないと言う事ですのね。」
里桜の後ろで立っていたアナスタシアが声を発した。
「あぁ。アニアのいう通りだ。」
「此度、神は何を思い、トシコ嬢をこちらに遣わしたのか・・・。」
里桜は『彼女を一緒に連れてきてしまったのはちょっと計算外だったけど。』軽くそう言っていた事を思い出し、舌打ちでもしたい気分になった。
「きっとトシコ嬢は、レオナールにも魔術をかけようとしたのだな。彼女の白の魔力では白金の加護が見えず、いつまでもかからないレオナールに魔術をかけ続け、気を失ったのだろう。」
ジルベールはそう話して腕組みしながらほぅとため息の様な息を吐いた。
「そう考えると、トシコ嬢のドレスの色に誰も口出ししなかったのも合点がいく。」
クロヴィスは隣に座るレオナールに愉快そうな視線を送った。レオナールはそれに気がつき、仕切り直す様に口を開いた。
「しかし、厄介なのは、相手に気が付かれないうちに魅了の魔術をかけられることだ。通常ならば、相手に魔法陣を描いてかける魔術だから、ある程度長い時間一緒にいなくてはいけないし、かける方もかなり集中しなくては行えないから、かけたい相手をまず、身動きが出来ない状態にしなくてはならないからな。」
「大がかりな魔術だから、人が大勢居る中では行えないし。」
アランが独り言の様に呟いた。
「それをかけられる本人も気が付かない間にやるのだから、確かに厄介だ。」
ジルベールが珍しく不快感を顔中に表しながら話した。
「この対策は、明日以降話し合うことにしよう。今日のところは会場に戻り、救世主は連日の魔術特訓と舞踏会への緊張で倒れたと説明する。それで、皆も少しは安心するだろう。」
レオナールが指示を出す。