転生聖職者の楽しい過ごし方
見事な銀細工の懐刀を前に三人が一瞬身構えた。そして、レオナールの隣に座っていたクロヴィスは咄嗟にレオナールを庇う様にした。レオナールはそれを左手で制した。
「お話ししたいのは、私の今後の役目についてです。」
里桜は懐刀を膝に置き手を置いたままゆっくりと話す。
「私は、何の悪戯か、この世界に来てしまいました。そしてどうやら元の世界に帰る方法はない。だから、この世界で生きていこうと覚悟を決めました。なので、ここで聖徒として働かせて頂くことにも覚悟を決めさせて頂きました。結界を張ったり、怪我や病気を治癒したりする事、百歩譲って、魔獣討伐もいたします。」
里桜はすぅと息を吸い込み、ゆっくり吐いた。
「しかし、私の魔力を邪な理由で利用しようとした時はこの懐刀で自害致します。陛下ならば、それがどのような結果になるのかはご存じですね?」
レオナールはじっと里桜を見つめる。
「過去の渡り人の伝承記を読んだのか。」
こくりと頷いて話を続ける。
「全て読ませて頂きました。ある時の渡り人は年若い娘で、救世主として多くの方を癒し、慕われていた。それなのに王家に魔力の強い子供を作るため、既に齢六十になっていた当時の王に嫁がせ、さらには三十代の王子に下賜した。救世主は物のように扱われたと心を病み自らの命を絶った。」
レオナールは、静かに息を吐いて、里桜の言葉の続きを話す。
「全知全能の神はそれに怒り、この国は三十年の間干ばつや大洪水を繰り返し、不況のどん底を味わう事になった。」
「えぇ。そう書かれておりました。この出来事が、本当に全知全能の神による仕業だったのか、それを信じる信じないも陛下のご自由ですが、私はただの救世主ではなく、神の愛した虹の女神ですから、私が自らの命を絶ったとしたら?」
レオナールは静かに口を開く。
「三十年の間の天変地異ではすまないだろうな。」
「そうですね。もし、私が自らの命を落としても訴えたい程の事でしたら、命の尽きるとき神にお願いするかもしれませんね。百年も二百年もこの国を祟って下さいと。」
里桜はにこやかに笑ったが、レオナールは表情を硬くした。
「そんな顔をなさらないで下さい。私だって死にたくはないですよ。それに私は既にこの国に生きるこの国の民ですから、国を守るためでしたら、持てる力の限り助力致します。しかし、人を殺めたり、不本意な結婚などは致しません。ただそれだけの話です。」
事前に懐刀を用意していた事が効いたようだった。ただ‘死んでやる’と脅したところで説得力はないだろう。懐刀一本があった事で‘死ぬ’事に現実味が帯びてくる。里桜は懐刀を仕舞った。
「一方的なお約束では、申し訳ありませんので、この場で私もお約束いたします。この国を故意に貶める様な事は致しません。私は前の世界では何か一つでも特別なことが出来ていた訳ではありませんが、この国では人とは違う力を授かったので、この力を使ってこの国を発展させることに尽力致します。また、この短刀は肌身離さず持っていますが、この刀で自分以外の人を傷付ける様なことは致しません。これは、私を守るためにのみ使います。それでどうでしょう?」
真っ先に笑ったのはジルベールだった。その豪快な笑い声に里桜は面食らった。
「本当にお嬢ちゃんは、愉快な事を言うな。」
「レオナール、これは俺たちの負けだろう?」
「あぁ。分かった。リオ。約束しよう。お前が望まない結婚や、人を殺めさせる様な事などしないと。」
「ありがとうございます。これで、ここでの聖職者ライフを楽しく過ごす見通しが付きそうです。」
「お話ししたいのは、私の今後の役目についてです。」
里桜は懐刀を膝に置き手を置いたままゆっくりと話す。
「私は、何の悪戯か、この世界に来てしまいました。そしてどうやら元の世界に帰る方法はない。だから、この世界で生きていこうと覚悟を決めました。なので、ここで聖徒として働かせて頂くことにも覚悟を決めさせて頂きました。結界を張ったり、怪我や病気を治癒したりする事、百歩譲って、魔獣討伐もいたします。」
里桜はすぅと息を吸い込み、ゆっくり吐いた。
「しかし、私の魔力を邪な理由で利用しようとした時はこの懐刀で自害致します。陛下ならば、それがどのような結果になるのかはご存じですね?」
レオナールはじっと里桜を見つめる。
「過去の渡り人の伝承記を読んだのか。」
こくりと頷いて話を続ける。
「全て読ませて頂きました。ある時の渡り人は年若い娘で、救世主として多くの方を癒し、慕われていた。それなのに王家に魔力の強い子供を作るため、既に齢六十になっていた当時の王に嫁がせ、さらには三十代の王子に下賜した。救世主は物のように扱われたと心を病み自らの命を絶った。」
レオナールは、静かに息を吐いて、里桜の言葉の続きを話す。
「全知全能の神はそれに怒り、この国は三十年の間干ばつや大洪水を繰り返し、不況のどん底を味わう事になった。」
「えぇ。そう書かれておりました。この出来事が、本当に全知全能の神による仕業だったのか、それを信じる信じないも陛下のご自由ですが、私はただの救世主ではなく、神の愛した虹の女神ですから、私が自らの命を絶ったとしたら?」
レオナールは静かに口を開く。
「三十年の間の天変地異ではすまないだろうな。」
「そうですね。もし、私が自らの命を落としても訴えたい程の事でしたら、命の尽きるとき神にお願いするかもしれませんね。百年も二百年もこの国を祟って下さいと。」
里桜はにこやかに笑ったが、レオナールは表情を硬くした。
「そんな顔をなさらないで下さい。私だって死にたくはないですよ。それに私は既にこの国に生きるこの国の民ですから、国を守るためでしたら、持てる力の限り助力致します。しかし、人を殺めたり、不本意な結婚などは致しません。ただそれだけの話です。」
事前に懐刀を用意していた事が効いたようだった。ただ‘死んでやる’と脅したところで説得力はないだろう。懐刀一本があった事で‘死ぬ’事に現実味が帯びてくる。里桜は懐刀を仕舞った。
「一方的なお約束では、申し訳ありませんので、この場で私もお約束いたします。この国を故意に貶める様な事は致しません。私は前の世界では何か一つでも特別なことが出来ていた訳ではありませんが、この国では人とは違う力を授かったので、この力を使ってこの国を発展させることに尽力致します。また、この短刀は肌身離さず持っていますが、この刀で自分以外の人を傷付ける様なことは致しません。これは、私を守るためにのみ使います。それでどうでしょう?」
真っ先に笑ったのはジルベールだった。その豪快な笑い声に里桜は面食らった。
「本当にお嬢ちゃんは、愉快な事を言うな。」
「レオナール、これは俺たちの負けだろう?」
「あぁ。分かった。リオ。約束しよう。お前が望まない結婚や、人を殺めさせる様な事などしないと。」
「ありがとうございます。これで、ここでの聖職者ライフを楽しく過ごす見通しが付きそうです。」