転生聖職者の楽しい過ごし方
第20話 救世主
「さぁ、救世主様もう一度。」
リリアンヌは努めて笑顔を作っていた。最初こそ順調だった利子の魔術訓練は、魔術の強弱のところで躓き、それ以上進歩がないままになっている。
しかも上達しないことで興味を失ってしまった利子はまともに訓練を受けようとはせず、腹痛、頭痛、腰痛などで度々訓練を先延ばしにする様になり、今日の様に訓練の場に来たのはまだ良い方と言う有様だった。
「救世主様、さぁ湯を出して見ましょう。」
利子は用意されたボウルにお湯をみるみるうちに貯め、溢れさせた。
「救世主様、お止めになって下さい。」
言ってから暫くして止まった。リリアンヌはバケツにお湯を移そうとボウルを持った。
「熱いっ。」
リリアンヌは勢い良く手を離したので、お湯がこぼれてしまった。
「救世主様、もう少し魔力の加減をいたしましょう。まず、もう一度お水をそうですね…コップを満たす程度で止める事を意識いたしましょう。」
水はボウルの中頃で止まった。
「もう少しゆっくりと溜めて、思う量で止められる様にいたいたしましょう。さぁ。もう一度。」
「リリアンヌさん今日は少し疲れました。」
リリアンヌはため息が出てしまうのを必死に堪え、口角を上げた。
始まってまださほど時間は経っていない。かと言って、無理にでもやらそうとすれば感情を爆発させ、ボウルやグラスを割ってしまう。
「そうですわね。魔術の練習はここまでに致しましょう。」
リリアンヌは虚しさを感じながら部屋を出た。
利子が自室に戻ると、リンデルが紅茶を差し出した。
「先ほど、仕立屋より連絡がありまして、ドレス生地の最新版色見本をお持ちくださるそうです。」
「そう。」
「午後は、バイアール伯爵夫人イリス様のお茶会でございます。」
利子もこの世界に来て数ヶ月が経ち、お茶会などに足を運ぶうちに貴族間の力関係や良くも悪くも色々な噂話などを聞く。この家名は聞いたことがなかった。
「バイアール?聞いたことがないわね。」
「ハワード様の第一令嬢でございます。」
あぁ。と利子は内心頷く。
「分かったわ。」
最近より一層、利子に届く茶会への招待状が多くなっていた。どの貴族も利子と懇意になりたがったのは、利子が王妃に内定したと噂が広まったためだった。
∴∵
「でも、トシコ様はさすが救世主様でいらっしゃいます。こうして私たちと茶会などで交流を持ちながら、魔獣討伐にも貢献されて。本当に素晴らしいですわ。」
「それに引き換え・・・同じ日に渡ってきた渡り人は、皆が討伐に悪戦苦闘していた折、部屋で休んでいたんですって。」
そう言って、煌びやかなドレスを身に纏った婦人は優雅な身のこなしで紅茶を口にした。
「まぁ。そうなの?」
「えぇ。うちの主人、近衛騎士団の陛下警護隊でしょ?副団長と宰相が‘渡り人なら部屋で休んでいる’と言っていたのを聞いたんですって。前日に沢山の兵士を治癒したからと宰相は心配されていたみたいですけれど、他の聖徒もしていることでしょ?」
皆、視線を合わせて、頷き合う。
「いいえ、りお様は立派な方ですわ。私は勉強以外の空き時間はこうして皆様とお会いできる時間がありますけれど、りお様は神殿で働きながら、お勉強をされていますもの。少しお休みする時間もありませんと、私の様に倒れてしまってもお可哀想ですし・・・」
「んまぁ。やはり救世主様は心が広く、綺麗でいらっしゃる。私なんて、人の悪い面ばかり目が行ってしまって・・・だって、渡り人は普段の診療だって、かすり傷とかそんなのを診ているらしいのよ。それならちょっと勉強すれば渡り人ではなくても出来ますでしょ。」
利子は扇子で口元を隠して、少し俯いた。
「イリス様、女神の名を貰いながらそんな事ばかり・・・救世主様がお困りよ。」
「そうね、嫌だわ。私ったら。そう、そう言えば、レイベス様が救世主様降臨パレードを計画されるみたいよ。」
「まぁ。なんて素敵なんでしょう。」
「トシコ様の美しい姿、平民たちにも披露できるのね。素晴らしいことだわ。」
リリアンヌは努めて笑顔を作っていた。最初こそ順調だった利子の魔術訓練は、魔術の強弱のところで躓き、それ以上進歩がないままになっている。
しかも上達しないことで興味を失ってしまった利子はまともに訓練を受けようとはせず、腹痛、頭痛、腰痛などで度々訓練を先延ばしにする様になり、今日の様に訓練の場に来たのはまだ良い方と言う有様だった。
「救世主様、さぁ湯を出して見ましょう。」
利子は用意されたボウルにお湯をみるみるうちに貯め、溢れさせた。
「救世主様、お止めになって下さい。」
言ってから暫くして止まった。リリアンヌはバケツにお湯を移そうとボウルを持った。
「熱いっ。」
リリアンヌは勢い良く手を離したので、お湯がこぼれてしまった。
「救世主様、もう少し魔力の加減をいたしましょう。まず、もう一度お水をそうですね…コップを満たす程度で止める事を意識いたしましょう。」
水はボウルの中頃で止まった。
「もう少しゆっくりと溜めて、思う量で止められる様にいたいたしましょう。さぁ。もう一度。」
「リリアンヌさん今日は少し疲れました。」
リリアンヌはため息が出てしまうのを必死に堪え、口角を上げた。
始まってまださほど時間は経っていない。かと言って、無理にでもやらそうとすれば感情を爆発させ、ボウルやグラスを割ってしまう。
「そうですわね。魔術の練習はここまでに致しましょう。」
リリアンヌは虚しさを感じながら部屋を出た。
利子が自室に戻ると、リンデルが紅茶を差し出した。
「先ほど、仕立屋より連絡がありまして、ドレス生地の最新版色見本をお持ちくださるそうです。」
「そう。」
「午後は、バイアール伯爵夫人イリス様のお茶会でございます。」
利子もこの世界に来て数ヶ月が経ち、お茶会などに足を運ぶうちに貴族間の力関係や良くも悪くも色々な噂話などを聞く。この家名は聞いたことがなかった。
「バイアール?聞いたことがないわね。」
「ハワード様の第一令嬢でございます。」
あぁ。と利子は内心頷く。
「分かったわ。」
最近より一層、利子に届く茶会への招待状が多くなっていた。どの貴族も利子と懇意になりたがったのは、利子が王妃に内定したと噂が広まったためだった。
∴∵
「でも、トシコ様はさすが救世主様でいらっしゃいます。こうして私たちと茶会などで交流を持ちながら、魔獣討伐にも貢献されて。本当に素晴らしいですわ。」
「それに引き換え・・・同じ日に渡ってきた渡り人は、皆が討伐に悪戦苦闘していた折、部屋で休んでいたんですって。」
そう言って、煌びやかなドレスを身に纏った婦人は優雅な身のこなしで紅茶を口にした。
「まぁ。そうなの?」
「えぇ。うちの主人、近衛騎士団の陛下警護隊でしょ?副団長と宰相が‘渡り人なら部屋で休んでいる’と言っていたのを聞いたんですって。前日に沢山の兵士を治癒したからと宰相は心配されていたみたいですけれど、他の聖徒もしていることでしょ?」
皆、視線を合わせて、頷き合う。
「いいえ、りお様は立派な方ですわ。私は勉強以外の空き時間はこうして皆様とお会いできる時間がありますけれど、りお様は神殿で働きながら、お勉強をされていますもの。少しお休みする時間もありませんと、私の様に倒れてしまってもお可哀想ですし・・・」
「んまぁ。やはり救世主様は心が広く、綺麗でいらっしゃる。私なんて、人の悪い面ばかり目が行ってしまって・・・だって、渡り人は普段の診療だって、かすり傷とかそんなのを診ているらしいのよ。それならちょっと勉強すれば渡り人ではなくても出来ますでしょ。」
利子は扇子で口元を隠して、少し俯いた。
「イリス様、女神の名を貰いながらそんな事ばかり・・・救世主様がお困りよ。」
「そうね、嫌だわ。私ったら。そう、そう言えば、レイベス様が救世主様降臨パレードを計画されるみたいよ。」
「まぁ。なんて素敵なんでしょう。」
「トシコ様の美しい姿、平民たちにも披露できるのね。素晴らしいことだわ。」