転生聖職者の楽しい過ごし方
「渡り人リオ様お見えでございます。」
「入れ。」
アランが執務室で書類を処理していると、扉が開きもそもそと入ってきたのは持ちにくそうに三本の剣を抱えた里桜だった。
「一人か?」
「はい。今日の魔剣の納品です。」
この前の魔獣討伐で、常に討伐の前線部隊になる陸軍の“特殊魔獣討伐部隊”全隊員と近衛騎士団“第一団隊”全隊員に里桜の魔剣が支給されることになり、里桜はまたも連日魔剣作りに勤しんでいた。
「そこへ、置いておいてくれ。ところでリオ嬢、例の‘加護’の付与はどこまで進んだ?」
アランの執務室で、里桜は抱えてきた魔剣を指定の場所へ置いた。
「先日、ウィリアム・ジェラルド様に加護を付け終えて、一旦はこれで終わりだと聞いています。」
魔力による洗脳を使って利子が何を企んでいるのか知るために利子を泳がせておく予定だったが、あろう事かハワードが侯爵位の立場を利用して救世主に使える予算を倍にしようと言い出した。
その案は可決の寸前まで話が進んでしまい、クロヴィスが否決させるのに酷く時間を取られることになった。それを深刻に考えたレオナールが、利子の周りの爵位を授けられた人間にだけは気がつかれない様に洗脳を解き、加護を付与させることにした。
「そう言えば、その事で少し困っていて・・・」
「どうした?お前を困らせるとは、そんな強者がこの世にいたのか?」
アランは興味深げに里桜の話を聞く。
「バシュレ幕僚の時もそうでしたが、としこさんの魔術を解くために暫くの間じっと瞳を見るじゃないですか?その後加護を付与するために癖で目を閉じてしまって・・・ルイ・ハワード様に危うくキスされそうになって。」
そこで、アランはコーヒーを吹き出した。
「いや、本当に私がいけなかったんです。でも付与する時の癖なのでついやってしまって・・・」
ルイ・ハワードはマクシミリアンの嫡子で今年三十五になる。そろそろ嫁ぎ先を考えなくてはいけない娘のいる男だが、この国は愛妾や側妻を持つ貴族は普通に存在する。
訳も分からずいきなり、妙齢の女性である里桜にゆっくりと五秒ほど見つめられ、目を閉じられれば勘違いをしてしまうのも仕方のないこととは言える。
「その場はリナさんとアナスタシアさんが収めてくれまして、何事もなかったのですがその後もお花を下さったり、お食事のお誘いがあったり・・・」
「そんなの上手くあしらえないわけじゃないだろう。」
「はい。それ自体はどうにか対応できているんですけど。一度、ルイ様が私の住む寮へいらっしゃって、それが夕食を大分過ぎた時間で・・・その事を知った国軍兵士の皆さんが非番の日を使って私の部屋を警護して下さる様になって・・・。」
里桜は軽くため息を吐いた。
「有り難いのですけど、あまりに申し訳ないのでバシュレ幕僚から私的な時間を警護に費やさない様に仰って下さい。警護は今まで通り朝の九時半から夕方五時までにするように。」
アランは少し笑ってから考え込んだ。今までの慣習で、救世主の扱いは王族と同格、渡り人の扱いは貴族と同格になっている。
王族には二十四時間の警護がつくが、貴族には警護は付かない。しかし、渡り人は救世主には達しないまでも国を揺るがす位の魔力を持っているため、日中の移動の多い時間帯のみ警護をつける事になっていた。
しかし、実際は救世主であるのは里桜で、里桜が王族に並ぶ扱いを受けるべきなのだ。
「じゃあ、きちんと勤務時間を組み直して二十四時間の警護につける様に調整する。」
「いえ、そう言う事が言いたかったのでは・・」
「君の警護を二十四時間にすることにしても、部下たちから不満が出る様なことはないさ。」
「私は今まで通りで構いません。夜は自室に防御壁を張るようにしましたので誰も部屋には入っては来られませんから。」
アランは軽く笑って、
「気にしないでよ。俺たちの自己満足だとでも思ってくれれば良いから。本当に今回の討伐での君の助けには感謝している。暗視ガラスの作成も、負傷兵の治療も。君がいなければあの魔獣に対して死者無しなんて奇跡的な結果にはなっていなかっただろう。国軍内には君の功績を公にして適切に褒賞すべきだと言う声が今もある。こんな事ではその恩を返す行いにもならないが、それくらいのことはさせてもらえないだろうか。」
アランは里桜の表情を見て少し苦笑いをした。
「少し、断わりづらいずるい言い方だったか。でも本当に国軍幕僚として、感謝の気持ちを何か形にしたいんだ。それは、司令官から一兵卒に至るまでの総意でもある。そして、改めて。」
アランは静かに起立をすると、
「リオ聖徒この度のご助力、私の部下たちを救って下さり心より感謝致します。」
と、挙手による敬礼をした。里桜はその姿に深々と頭を下げた。
「入れ。」
アランが執務室で書類を処理していると、扉が開きもそもそと入ってきたのは持ちにくそうに三本の剣を抱えた里桜だった。
「一人か?」
「はい。今日の魔剣の納品です。」
この前の魔獣討伐で、常に討伐の前線部隊になる陸軍の“特殊魔獣討伐部隊”全隊員と近衛騎士団“第一団隊”全隊員に里桜の魔剣が支給されることになり、里桜はまたも連日魔剣作りに勤しんでいた。
「そこへ、置いておいてくれ。ところでリオ嬢、例の‘加護’の付与はどこまで進んだ?」
アランの執務室で、里桜は抱えてきた魔剣を指定の場所へ置いた。
「先日、ウィリアム・ジェラルド様に加護を付け終えて、一旦はこれで終わりだと聞いています。」
魔力による洗脳を使って利子が何を企んでいるのか知るために利子を泳がせておく予定だったが、あろう事かハワードが侯爵位の立場を利用して救世主に使える予算を倍にしようと言い出した。
その案は可決の寸前まで話が進んでしまい、クロヴィスが否決させるのに酷く時間を取られることになった。それを深刻に考えたレオナールが、利子の周りの爵位を授けられた人間にだけは気がつかれない様に洗脳を解き、加護を付与させることにした。
「そう言えば、その事で少し困っていて・・・」
「どうした?お前を困らせるとは、そんな強者がこの世にいたのか?」
アランは興味深げに里桜の話を聞く。
「バシュレ幕僚の時もそうでしたが、としこさんの魔術を解くために暫くの間じっと瞳を見るじゃないですか?その後加護を付与するために癖で目を閉じてしまって・・・ルイ・ハワード様に危うくキスされそうになって。」
そこで、アランはコーヒーを吹き出した。
「いや、本当に私がいけなかったんです。でも付与する時の癖なのでついやってしまって・・・」
ルイ・ハワードはマクシミリアンの嫡子で今年三十五になる。そろそろ嫁ぎ先を考えなくてはいけない娘のいる男だが、この国は愛妾や側妻を持つ貴族は普通に存在する。
訳も分からずいきなり、妙齢の女性である里桜にゆっくりと五秒ほど見つめられ、目を閉じられれば勘違いをしてしまうのも仕方のないこととは言える。
「その場はリナさんとアナスタシアさんが収めてくれまして、何事もなかったのですがその後もお花を下さったり、お食事のお誘いがあったり・・・」
「そんなの上手くあしらえないわけじゃないだろう。」
「はい。それ自体はどうにか対応できているんですけど。一度、ルイ様が私の住む寮へいらっしゃって、それが夕食を大分過ぎた時間で・・・その事を知った国軍兵士の皆さんが非番の日を使って私の部屋を警護して下さる様になって・・・。」
里桜は軽くため息を吐いた。
「有り難いのですけど、あまりに申し訳ないのでバシュレ幕僚から私的な時間を警護に費やさない様に仰って下さい。警護は今まで通り朝の九時半から夕方五時までにするように。」
アランは少し笑ってから考え込んだ。今までの慣習で、救世主の扱いは王族と同格、渡り人の扱いは貴族と同格になっている。
王族には二十四時間の警護がつくが、貴族には警護は付かない。しかし、渡り人は救世主には達しないまでも国を揺るがす位の魔力を持っているため、日中の移動の多い時間帯のみ警護をつける事になっていた。
しかし、実際は救世主であるのは里桜で、里桜が王族に並ぶ扱いを受けるべきなのだ。
「じゃあ、きちんと勤務時間を組み直して二十四時間の警護につける様に調整する。」
「いえ、そう言う事が言いたかったのでは・・」
「君の警護を二十四時間にすることにしても、部下たちから不満が出る様なことはないさ。」
「私は今まで通りで構いません。夜は自室に防御壁を張るようにしましたので誰も部屋には入っては来られませんから。」
アランは軽く笑って、
「気にしないでよ。俺たちの自己満足だとでも思ってくれれば良いから。本当に今回の討伐での君の助けには感謝している。暗視ガラスの作成も、負傷兵の治療も。君がいなければあの魔獣に対して死者無しなんて奇跡的な結果にはなっていなかっただろう。国軍内には君の功績を公にして適切に褒賞すべきだと言う声が今もある。こんな事ではその恩を返す行いにもならないが、それくらいのことはさせてもらえないだろうか。」
アランは里桜の表情を見て少し苦笑いをした。
「少し、断わりづらいずるい言い方だったか。でも本当に国軍幕僚として、感謝の気持ちを何か形にしたいんだ。それは、司令官から一兵卒に至るまでの総意でもある。そして、改めて。」
アランは静かに起立をすると、
「リオ聖徒この度のご助力、私の部下たちを救って下さり心より感謝致します。」
と、挙手による敬礼をした。里桜はその姿に深々と頭を下げた。