転生聖職者の楽しい過ごし方
「陛下、いつになればトシコ様に爵位の授与をして頂けるんでしょうか?」
「しかし、さすがに侯爵は高すぎる。」
「なんと。今まで現れたとこのない闇を操る魔獣が出現して、死者が一人も出ないなど奇跡の様なことは救世主様が我が国に降臨して下さっていたおかげ以外の何ものでもありません。」
この問答はここ最近毎日行われている。レオナールがここで、暗視ガラスを作ったのは利子ではない事を言えば、では、ロベールすらも描けない強力な魔法陣を誰が描いたのかと言う話になる。
それが里桜だと言ってしまえば、里桜の魔力が白より強い魔力だと分かってしまう。今のところ噂が一人歩きをして、肯定も否定も出来ない状態になっている。
「侯爵が高すぎるなどと言うことはありません。遥か昔にも武勲をたてた渡り人が侯爵を賜ったと言う例はあります。トシコ様は最前線には向かわれませんでしたが、あの暗視ガラスがなければ、騎士団も国軍もあの魔獣と戦う事は出来ませんでした。」
あの討伐における暗視ガラスについての意見にはレオナールもクロヴィスも同意だった。
「侯爵ではなく一代限りの男爵が妥当だと思うのですが?」
「それでは、何もしていない渡り人と同じ爵位ではありませんか。それでは、あまりにもトシコ様が不憫です。」
“不憫か”小さな声で呟いたクロヴィスは、昨日里桜に会って話していたことを思い返していた。
∴∵
「そう言う訳で、このままだと爵位の授与は避けられそうもない。かと言ってやってもいない功績で侯爵には出来ない。そろそろ、君の虹の魔力を公表したいんだが、レオナールは縦に首を振らない。もし、君が公表したいと考えていれば、レオナールを説得する足がかりになるんだが。」
「ありがとうございます。宰相。」
クロヴィスは問いかける様に里桜を見る。
「宰相ほどのお力があれば、本来なら私の意向など気にせず進めることも出来たはずです。それなのに、こうしてきちんと私の胸中を聞きにきて下さって。ところで、私ととしこさんが同じ爵位になることが問題の半分なんですよね?」
「まぁ。あちらからすると。」
「私、爵位なんていりません。それで公表しなくとも問題の半分は解決しませんか?」
「いや、トシコ嬢が本当は何もしていない様に、君は今回の討伐に多大な貢献をした。このままでは私たちは君に何もしてやれないんだぞ?」
クロヴィスの黄金色の瞳を見ながら、里桜はにっこり笑う。
「陛下がどのようなお考えで公表を控えているのかは、私なんかが推量出来ることではありませんが、少なくとも私自身は公表して欲しくはありません……できる限り。私が今回のことで助力させて頂いたのは、私がこの国の国民だからです。ここにはもう沢山の大切な方たちがいます。それに、この広い住まいや私のお世話をしてくれているリナさんやアナスタシアさん。この贅沢な暮らしに少しでも見合う働きはしないといけませんから。」
里桜の表情は柔らかい。
「皆さんは私に何もしてやれないと言いますが、だから私に対して何もしていないなんて思わないで下さい。食べるのに困らない、雨風しのぐどころか立派で広い住まいがある。それを与えて頂いただけで十分です。私は爵位などいりません。」
クロヴィスはほんの少し笑った。
「わかった。君の気持ちを尊重する。ところで、君は前に俺たちを私の意に反することをすれば死んで祟ってやると脅したのを忘れたかい?祟られちゃたまったもんじゃないからね。俺たちとしたら君の意向を無視することはできないよ。」
里桜は“そうでした”と笑って頷く。
「だから、何かあったら我慢したりせずにちゃんと誰かに話しなさい。」
‘俺に’と言わないところがクロヴィスらしいなと里桜が笑うと、クロヴィスも笑顔を返し、部屋を後にした。
「しかし、さすがに侯爵は高すぎる。」
「なんと。今まで現れたとこのない闇を操る魔獣が出現して、死者が一人も出ないなど奇跡の様なことは救世主様が我が国に降臨して下さっていたおかげ以外の何ものでもありません。」
この問答はここ最近毎日行われている。レオナールがここで、暗視ガラスを作ったのは利子ではない事を言えば、では、ロベールすらも描けない強力な魔法陣を誰が描いたのかと言う話になる。
それが里桜だと言ってしまえば、里桜の魔力が白より強い魔力だと分かってしまう。今のところ噂が一人歩きをして、肯定も否定も出来ない状態になっている。
「侯爵が高すぎるなどと言うことはありません。遥か昔にも武勲をたてた渡り人が侯爵を賜ったと言う例はあります。トシコ様は最前線には向かわれませんでしたが、あの暗視ガラスがなければ、騎士団も国軍もあの魔獣と戦う事は出来ませんでした。」
あの討伐における暗視ガラスについての意見にはレオナールもクロヴィスも同意だった。
「侯爵ではなく一代限りの男爵が妥当だと思うのですが?」
「それでは、何もしていない渡り人と同じ爵位ではありませんか。それでは、あまりにもトシコ様が不憫です。」
“不憫か”小さな声で呟いたクロヴィスは、昨日里桜に会って話していたことを思い返していた。
∴∵
「そう言う訳で、このままだと爵位の授与は避けられそうもない。かと言ってやってもいない功績で侯爵には出来ない。そろそろ、君の虹の魔力を公表したいんだが、レオナールは縦に首を振らない。もし、君が公表したいと考えていれば、レオナールを説得する足がかりになるんだが。」
「ありがとうございます。宰相。」
クロヴィスは問いかける様に里桜を見る。
「宰相ほどのお力があれば、本来なら私の意向など気にせず進めることも出来たはずです。それなのに、こうしてきちんと私の胸中を聞きにきて下さって。ところで、私ととしこさんが同じ爵位になることが問題の半分なんですよね?」
「まぁ。あちらからすると。」
「私、爵位なんていりません。それで公表しなくとも問題の半分は解決しませんか?」
「いや、トシコ嬢が本当は何もしていない様に、君は今回の討伐に多大な貢献をした。このままでは私たちは君に何もしてやれないんだぞ?」
クロヴィスの黄金色の瞳を見ながら、里桜はにっこり笑う。
「陛下がどのようなお考えで公表を控えているのかは、私なんかが推量出来ることではありませんが、少なくとも私自身は公表して欲しくはありません……できる限り。私が今回のことで助力させて頂いたのは、私がこの国の国民だからです。ここにはもう沢山の大切な方たちがいます。それに、この広い住まいや私のお世話をしてくれているリナさんやアナスタシアさん。この贅沢な暮らしに少しでも見合う働きはしないといけませんから。」
里桜の表情は柔らかい。
「皆さんは私に何もしてやれないと言いますが、だから私に対して何もしていないなんて思わないで下さい。食べるのに困らない、雨風しのぐどころか立派で広い住まいがある。それを与えて頂いただけで十分です。私は爵位などいりません。」
クロヴィスはほんの少し笑った。
「わかった。君の気持ちを尊重する。ところで、君は前に俺たちを私の意に反することをすれば死んで祟ってやると脅したのを忘れたかい?祟られちゃたまったもんじゃないからね。俺たちとしたら君の意向を無視することはできないよ。」
里桜は“そうでした”と笑って頷く。
「だから、何かあったら我慢したりせずにちゃんと誰かに話しなさい。」
‘俺に’と言わないところがクロヴィスらしいなと里桜が笑うと、クロヴィスも笑顔を返し、部屋を後にした。