転生聖職者の楽しい過ごし方
「ジゼル様。貸して頂いた本とても面白かったですわ。」
「それは、よかったわ。新しい本も入りましたの、是非お読みになって。」
「えぇ。ありがとう。お借りします。」
レオタール家の庭に花が咲き誇り、その花々を楽しめる様ガラス張りになっているコンサバトリーでジゼル、エマ、イヴェットとお茶を囲むアルーヌはどこか笑顔がぎこちない。
「アルーヌ様、何かご不便でもありました?」
「あっ。いいえ。お茶もお菓子もお花も全て素晴らしいですわ・・ただ。」
「ただ?」
ジゼルは首を傾げる。
「ジゼル様は最近リオ様とお会いになりました?」
「一番最近は・・二週間ほど前でしょうか。」
「それでは、大きな魔獣討伐が終わってからでございますね?」
「えぇ。そうね。」
「何かいつもと違うことありましたか?」
「少しお疲れの様でしたけれど。それが何か?」
アルーヌはほんの少し眉を寄せてため息を吐いた。
「皆様も、救世主様と渡り人様のお噂耳になさっているでしょう?」
アルーヌが言うと、三人は困った様な顔をした。
「救世主様だけ働かせ、渡り人は何一つ仕事をしないと言った噂のことですか?」
ジゼルが問いかけると、アルーヌは頷いた。
「私の父は騎士団の第一団隊の中隊長をしておりますでしょ?」
「えぇ。確か騎士団唯一の戦闘部隊ですわね。」
「えぇ。ですから魔獣討伐の日も父は前線に行っておりました。」
「まぁ。」
イヴェットは、表情を曇らした。
「それは、いつものことですし、家族はいつも覚悟をしているのですけれど、今回の魔獣は本当に手強くて大変だったと申しておりました。」
「えぇ。私の父もそう言っておりました。」
「でも、救世主のトシコ様が作った魔道具で倒すことが出来たのでしょう?」
エマはジゼルに問いかけた。
「そうなんです。その事なのです。」
ジゼルはそっとアルーヌの手を握った。
「トシコ様の護衛は基本日中は団隊長のヌベール様なんですが、出かけるときは二人以上で護衛する決まりになっておりますので、父は日中の護衛もすることがあるそうなのです。それで、日中の過ごし方や夜の過ごし方を垣間見ることもあるそうなのですけれど。トシコ様はまともに魔術の訓練もしたがらず、午前中はほぼ寝ていて、午後は毎日の様に何処かのお茶会へ行っていると。夜も晩餐会に舞踏会で遅くまでお酒を嗜まれ、翌朝二日酔いのこともしばしばだと。だから父が言うには、トシコ様にはあのような魔道具を作れる技術がないはずだと。」
ジゼルもエマも眉をひそめる。
「・・・それならば、私はリリアンヌ様から聞いたことがあります。リリアンヌ様とは父親同士が旧友で、お互いの家へ行き来する間柄なのですが、トシコ様はお湯の温度や量も調整するのが難しいと・・・」
イヴェットが言うと、続けてジゼルも話す。
「あの時の魔道具は大変魔力の強い物だったらしく、尊者様さえ複製できないほどの物だったと父が言っておりました。」
アルーヌはジゼルの目をしっかり見ると一つ頷いた。
「普段の生活態度がどうであっても、実際にトシコ様が作っているなら褒賞を受けるのは当然のことと思うのですけれど・・・これは、あくまでも父の私見ですが、作ったのはリオ様なのではないかと。」
「それでは、ボラン伯爵はリオ様にそれほど大きな魔力があるのではと思っていると?」
ジゼルの問いかけにアルーヌは頷いた。
「リオ様は討伐の当日重傷の兵士を治していたそうなんですが・・通常の聖徒様や尊者様の魔力ですと、重傷患者の傷を治せても体力までは同時に回復させられないので、少なくとも一日は寝ていないといけないらしいのです。しかし、リオ様が治療をすると同時に体力も回復できるようなのです。」
“まぁ”とエマは驚く。
「それだけ、魔力が強いと言う事なのですね。」
「えぇ。父の部下の方が深手を負いまして、腕がほぼ切断されている状態だったそうで、父も傷が治っても、体力の回復やリハビリなど現場復帰まで時間がかかるだろうと思っていたそうなのですが、リオ様に治療を受けたら、何の違和感もなく腕が繋がり、体力も回復していて一日入院をしただけで今はもう通常訓練に合流出来ているそうなのです。」
「それは、良かったですわね。」
エマはにこやかに笑う。
「はい。普通なら数週間は寝込み、その間落ちた筋力と体力を回復するためのリハビリをしなくてはいけませんが、リオ様の治療にはそれらが全く必要なかったそうです。担架で運ばれて息も絶え絶えな兵士も治療後は歩いて帰っていく。だから、結果沢山の方を治療しても相当な重傷の方しか入院にはならないのでリオ様がまるで治療をしていない様に見えるのだと。」
「まぁ。それは・・・」
「それで・・・」
エマは何かに気がついた様な表情をした。
「私の父も騎士団で文官として働いておりますが、父はリオ様との付き合いを考える様に言っていました。私、リオ様にとても良くして頂いているので悲しくて。」
正しくは、“そんな徒爾に属する人間とは付き合うな、付き合うならトシコ様にしろ”だった。同じ伯爵位といっても家格的には随分上にいるジゼルの茶会で知り合った、しかも本人には失礼など一度もされていない、むしろ悩みや思いを根気よく聞いてくれる里桜に感謝している。
エマにとってはそんな父の言葉を口には出来なかった。
「どうして同じ騎士団でもこうも印象が違うのでしょう。」
イヴェットは首を傾げる。アルーヌが再び話し出す。
「父は、怪我を治療してもらわなければ分からないと言っていました。その怪我が大きければ大きいほど違いが明らかなんだそうです。兵士の方々はそんなものだと普段から思っているから特に口に出したりはしないようですが、治療をしてくれる聖徒様や尊者様の魔力の強弱で治療後の回復は全く違うのだそうです。」
イヴェットは大きく頷く。
「騎士団は王族の警護が主たる仕事で、訓練も対人訓練が多い。一方国軍や父の所属する第一団隊は対魔獣訓練が多い。なので父の中隊も訓練に魔術剣や魔剣を使用することが頻繁にあるそうで、その分訓練中に重傷を負うこともあるそうです。だから、」
「国軍の兵士や第一団隊の騎士は自ずと治療される回数も増えて、色々な方に治療を受けていく中で、魔力の強弱が怪我の治りに直結すると気がつく。しかし、他の騎士隊ではそこまでの訓練をしないためその事には気がつかず、噂がそのまま真の事の様に言われてしまう。」
アルーヌは一つ小さく頷いた。
「そうみたいです。私、リオ様の人柄を知っています。とても努力家で思慮深い方です。なので世間での噂が悲しくて。」
「王宮の文官をしている父が、この討伐の功績に対しトシコ様に爵位を授与する方向で話が進んでいると言っていましたわ。リオ様は爵位を賜れないそうです。」
「そんな。」
「父が内々に聞いた話では、リオ様もそれで納得済みだと。」
「アルーヌ様のお父上の見解が本当ならば、リオ様は何故、自分のお力を隠しているのでしょう・・・」
∴∵
「トシコ様、おめでとうございます。」
「皆さんありがとうございます。」
マクシミリアン・ハワード侯爵、セドリック・バイアール伯爵イリス夫妻、ウィリアム・ジェラルド伯爵、サミュエル・マクロン子爵、そして利子がテーブルを囲み、スパークリングワインで乾杯をしている。
「しかし、私はトシコ様のご活躍こそ侯爵に相応しいと思っておりますのに。」
「いいえ、私などなんのお力にも・・・」
「そんな事はございません。」
「そうでございますわ、トシコ様。私のサロンでもこのほどのトシコ様のご活躍以上に侯爵という位が見合うお働きなんてないと、みな口を揃えて言っておりました。あれでございましょう?お父様、例の渡り人が侯爵の授与の邪魔をしたのでしょう?」
イリスは大げさな口調で話す。
「陛下は、同じ渡り人で、こうも格差が生まれては良くないとお考えの様でね。」
「格差と言っても、あちらは何もお仕事をされていないのでしょう?格差が出るのは当然の事ですのに。」
「神殿では、渡り人の扱いに困っている様で。」
ウィリアムは今日仕入れてきたばかりの話を意気揚々と始めた。
∴∵
「それでは、トシコ様。また、仕立屋を伺わせますので、授与式とパレード用のドレスの打ち合わせをお願い致します。」
「えぇ。分かりました。いつもありがとう。」
サミュエルが最後の馬車に乗り込む。それを見送って、利子は自室へ戻る。
ベッドに腰掛けると、自分の手に見入る。その後、空の水差しに水を溜めてみる。水はあっという間に溢れた。
リリアンヌにも魔力は強いがコントロールが悪いと言われている。精神が不安定だとこれも安定しないから、休養と睡眠をきちんと取り、疲れを取る様に言われていた。
「リンデル、水をこぼしたわ、後で片付けておいて。それと、ドレスを脱がせて頂戴。」
「はい。救世主トシコ様。」
最近は殊にコントロールが悪くなっている様な気がする。それに、前の様にウィリアムたちに暗示がかからなくなっている。
リリアンヌに対してかけた暗示は訓練中にかけたとしても次に会うときにはいつも解けている。リンデルや警護担当のルーにかけた暗示はいつも一緒にいるからか解けてはいない。
無意識に親指の爪を噛んでいた。明日からはもうリリアンヌの座学もない。着替えを済ませ、ソファーに腰掛ける。
「リンデル、もう少し飲みたいわ。ワインを持ってきて頂戴。」
「はい。救世主トシコ様。」
利子はため息を吐いた。
「どうすれば、前の様に魔法が使える様になるの。私魔力が使えなくなるの?」
「それは、よかったわ。新しい本も入りましたの、是非お読みになって。」
「えぇ。ありがとう。お借りします。」
レオタール家の庭に花が咲き誇り、その花々を楽しめる様ガラス張りになっているコンサバトリーでジゼル、エマ、イヴェットとお茶を囲むアルーヌはどこか笑顔がぎこちない。
「アルーヌ様、何かご不便でもありました?」
「あっ。いいえ。お茶もお菓子もお花も全て素晴らしいですわ・・ただ。」
「ただ?」
ジゼルは首を傾げる。
「ジゼル様は最近リオ様とお会いになりました?」
「一番最近は・・二週間ほど前でしょうか。」
「それでは、大きな魔獣討伐が終わってからでございますね?」
「えぇ。そうね。」
「何かいつもと違うことありましたか?」
「少しお疲れの様でしたけれど。それが何か?」
アルーヌはほんの少し眉を寄せてため息を吐いた。
「皆様も、救世主様と渡り人様のお噂耳になさっているでしょう?」
アルーヌが言うと、三人は困った様な顔をした。
「救世主様だけ働かせ、渡り人は何一つ仕事をしないと言った噂のことですか?」
ジゼルが問いかけると、アルーヌは頷いた。
「私の父は騎士団の第一団隊の中隊長をしておりますでしょ?」
「えぇ。確か騎士団唯一の戦闘部隊ですわね。」
「えぇ。ですから魔獣討伐の日も父は前線に行っておりました。」
「まぁ。」
イヴェットは、表情を曇らした。
「それは、いつものことですし、家族はいつも覚悟をしているのですけれど、今回の魔獣は本当に手強くて大変だったと申しておりました。」
「えぇ。私の父もそう言っておりました。」
「でも、救世主のトシコ様が作った魔道具で倒すことが出来たのでしょう?」
エマはジゼルに問いかけた。
「そうなんです。その事なのです。」
ジゼルはそっとアルーヌの手を握った。
「トシコ様の護衛は基本日中は団隊長のヌベール様なんですが、出かけるときは二人以上で護衛する決まりになっておりますので、父は日中の護衛もすることがあるそうなのです。それで、日中の過ごし方や夜の過ごし方を垣間見ることもあるそうなのですけれど。トシコ様はまともに魔術の訓練もしたがらず、午前中はほぼ寝ていて、午後は毎日の様に何処かのお茶会へ行っていると。夜も晩餐会に舞踏会で遅くまでお酒を嗜まれ、翌朝二日酔いのこともしばしばだと。だから父が言うには、トシコ様にはあのような魔道具を作れる技術がないはずだと。」
ジゼルもエマも眉をひそめる。
「・・・それならば、私はリリアンヌ様から聞いたことがあります。リリアンヌ様とは父親同士が旧友で、お互いの家へ行き来する間柄なのですが、トシコ様はお湯の温度や量も調整するのが難しいと・・・」
イヴェットが言うと、続けてジゼルも話す。
「あの時の魔道具は大変魔力の強い物だったらしく、尊者様さえ複製できないほどの物だったと父が言っておりました。」
アルーヌはジゼルの目をしっかり見ると一つ頷いた。
「普段の生活態度がどうであっても、実際にトシコ様が作っているなら褒賞を受けるのは当然のことと思うのですけれど・・・これは、あくまでも父の私見ですが、作ったのはリオ様なのではないかと。」
「それでは、ボラン伯爵はリオ様にそれほど大きな魔力があるのではと思っていると?」
ジゼルの問いかけにアルーヌは頷いた。
「リオ様は討伐の当日重傷の兵士を治していたそうなんですが・・通常の聖徒様や尊者様の魔力ですと、重傷患者の傷を治せても体力までは同時に回復させられないので、少なくとも一日は寝ていないといけないらしいのです。しかし、リオ様が治療をすると同時に体力も回復できるようなのです。」
“まぁ”とエマは驚く。
「それだけ、魔力が強いと言う事なのですね。」
「えぇ。父の部下の方が深手を負いまして、腕がほぼ切断されている状態だったそうで、父も傷が治っても、体力の回復やリハビリなど現場復帰まで時間がかかるだろうと思っていたそうなのですが、リオ様に治療を受けたら、何の違和感もなく腕が繋がり、体力も回復していて一日入院をしただけで今はもう通常訓練に合流出来ているそうなのです。」
「それは、良かったですわね。」
エマはにこやかに笑う。
「はい。普通なら数週間は寝込み、その間落ちた筋力と体力を回復するためのリハビリをしなくてはいけませんが、リオ様の治療にはそれらが全く必要なかったそうです。担架で運ばれて息も絶え絶えな兵士も治療後は歩いて帰っていく。だから、結果沢山の方を治療しても相当な重傷の方しか入院にはならないのでリオ様がまるで治療をしていない様に見えるのだと。」
「まぁ。それは・・・」
「それで・・・」
エマは何かに気がついた様な表情をした。
「私の父も騎士団で文官として働いておりますが、父はリオ様との付き合いを考える様に言っていました。私、リオ様にとても良くして頂いているので悲しくて。」
正しくは、“そんな徒爾に属する人間とは付き合うな、付き合うならトシコ様にしろ”だった。同じ伯爵位といっても家格的には随分上にいるジゼルの茶会で知り合った、しかも本人には失礼など一度もされていない、むしろ悩みや思いを根気よく聞いてくれる里桜に感謝している。
エマにとってはそんな父の言葉を口には出来なかった。
「どうして同じ騎士団でもこうも印象が違うのでしょう。」
イヴェットは首を傾げる。アルーヌが再び話し出す。
「父は、怪我を治療してもらわなければ分からないと言っていました。その怪我が大きければ大きいほど違いが明らかなんだそうです。兵士の方々はそんなものだと普段から思っているから特に口に出したりはしないようですが、治療をしてくれる聖徒様や尊者様の魔力の強弱で治療後の回復は全く違うのだそうです。」
イヴェットは大きく頷く。
「騎士団は王族の警護が主たる仕事で、訓練も対人訓練が多い。一方国軍や父の所属する第一団隊は対魔獣訓練が多い。なので父の中隊も訓練に魔術剣や魔剣を使用することが頻繁にあるそうで、その分訓練中に重傷を負うこともあるそうです。だから、」
「国軍の兵士や第一団隊の騎士は自ずと治療される回数も増えて、色々な方に治療を受けていく中で、魔力の強弱が怪我の治りに直結すると気がつく。しかし、他の騎士隊ではそこまでの訓練をしないためその事には気がつかず、噂がそのまま真の事の様に言われてしまう。」
アルーヌは一つ小さく頷いた。
「そうみたいです。私、リオ様の人柄を知っています。とても努力家で思慮深い方です。なので世間での噂が悲しくて。」
「王宮の文官をしている父が、この討伐の功績に対しトシコ様に爵位を授与する方向で話が進んでいると言っていましたわ。リオ様は爵位を賜れないそうです。」
「そんな。」
「父が内々に聞いた話では、リオ様もそれで納得済みだと。」
「アルーヌ様のお父上の見解が本当ならば、リオ様は何故、自分のお力を隠しているのでしょう・・・」
∴∵
「トシコ様、おめでとうございます。」
「皆さんありがとうございます。」
マクシミリアン・ハワード侯爵、セドリック・バイアール伯爵イリス夫妻、ウィリアム・ジェラルド伯爵、サミュエル・マクロン子爵、そして利子がテーブルを囲み、スパークリングワインで乾杯をしている。
「しかし、私はトシコ様のご活躍こそ侯爵に相応しいと思っておりますのに。」
「いいえ、私などなんのお力にも・・・」
「そんな事はございません。」
「そうでございますわ、トシコ様。私のサロンでもこのほどのトシコ様のご活躍以上に侯爵という位が見合うお働きなんてないと、みな口を揃えて言っておりました。あれでございましょう?お父様、例の渡り人が侯爵の授与の邪魔をしたのでしょう?」
イリスは大げさな口調で話す。
「陛下は、同じ渡り人で、こうも格差が生まれては良くないとお考えの様でね。」
「格差と言っても、あちらは何もお仕事をされていないのでしょう?格差が出るのは当然の事ですのに。」
「神殿では、渡り人の扱いに困っている様で。」
ウィリアムは今日仕入れてきたばかりの話を意気揚々と始めた。
∴∵
「それでは、トシコ様。また、仕立屋を伺わせますので、授与式とパレード用のドレスの打ち合わせをお願い致します。」
「えぇ。分かりました。いつもありがとう。」
サミュエルが最後の馬車に乗り込む。それを見送って、利子は自室へ戻る。
ベッドに腰掛けると、自分の手に見入る。その後、空の水差しに水を溜めてみる。水はあっという間に溢れた。
リリアンヌにも魔力は強いがコントロールが悪いと言われている。精神が不安定だとこれも安定しないから、休養と睡眠をきちんと取り、疲れを取る様に言われていた。
「リンデル、水をこぼしたわ、後で片付けておいて。それと、ドレスを脱がせて頂戴。」
「はい。救世主トシコ様。」
最近は殊にコントロールが悪くなっている様な気がする。それに、前の様にウィリアムたちに暗示がかからなくなっている。
リリアンヌに対してかけた暗示は訓練中にかけたとしても次に会うときにはいつも解けている。リンデルや警護担当のルーにかけた暗示はいつも一緒にいるからか解けてはいない。
無意識に親指の爪を噛んでいた。明日からはもうリリアンヌの座学もない。着替えを済ませ、ソファーに腰掛ける。
「リンデル、もう少し飲みたいわ。ワインを持ってきて頂戴。」
「はい。救世主トシコ様。」
利子はため息を吐いた。
「どうすれば、前の様に魔法が使える様になるの。私魔力が使えなくなるの?」