転生聖職者の楽しい過ごし方
茶会の帰り道、小高い丘に馬車が止まった。御者が、利子へ手を差し出す。その手を取り、ステップに足を下ろして馬車から降りる。
「いつもの様に丘の麓で少し休憩してきて頂戴。」
「はい。救世主様。」
御者は、いつの間にか、丘の中腹まで降りていた。
利子は一つ息を吐いて、空に手をかざす。全身の魔力を意識して、空へ魔力を放出させる。稲妻のように、ほんの少しだけ空が光る。『格差と言っても、あちらは何もお仕事をされていないのでしょう?格差が出るのは当然の事ですのに。』イリスの言葉を思い出す。
今回、こんなにも尊者や貴族たちが私の侯爵への叙爵について請願書を出したのに、結果は一代限りの男爵。それもそうかと思う。
「私だって、存在を知っていれば倒せていた。あの時は知らされていなかっただけで、今回は違う。」
もう一度、魔力を放出する。
「ほんの少し結界が綻べば・・・今度は私が・・・そしたら侯爵に陞爵せざる得なくなる。しかもあの子と違い今回は前線に立って皆の前で私が倒すの。」
∴∵
里桜が目を覚ますと珍しく天蓋は開けられていて、足を組んで椅子に腰掛けているジルベールがいた。
「おっ目覚めたか?」
ジルベールは側にいたリナに合図する。
「リオ様、どこか痛みの残るところはございますか?」
「いいえ。ないです。大丈夫(どうして、夢の途中で目覚めたの?傷付けるならどうするの?)。」
「それは、良かった。部下に聞いたところによると、背中から下に落ちたらしいから。」
「シド尊者様が来て下さいまして、治癒の魔術をかけて下さいました。」
「悪かったな。うちの部下が。」
里桜は、ジルベールの言葉を頭の中で巡らす。
「それは違います。私の剣の持ち方が悪くて。グリップが大きく右に出てしまっていたので、それが騎士の方に当たってしまったんです。騎士の方たちも私が階段下へ落ちるなんて思ってもみなかったと思います。団長から代わりに謝っておいて頂けませんか?ご迷惑おかけしたこと。」
「あぁ。わかった。奴らもさすがに君が階段から落ちて気を失っていて焦っていたよ。」
「多分気を失ったのは熱のせいなので。」
「ヴァンドーム団長。もうそろそろ。リオ様にはもう少しお休みになって頂きたいので。」
「あぁ。そうだな。顔色がまだ良くない。悪かった。」
里桜は精一杯ジルベールに笑って見せた。
∴∵
「レオナール、トシコ嬢の式典とパレードの詳細を決めたから、書類に目を通して欲しい。」
レオナールは置かれた書類を手に取って、クロヴィスを見上げる。
「最近、トシコ嬢やリオの話をする度に皆この空気感を出すんだよな。」
「この空気感とは?」
「お前はなんでそんなにもリオが虹の力を持っていることを世間に隠したがるんだって空気。」
クロヴィスは少し笑った。
「いや、別に思ってはいないが。公表しないことは彼女の意思でもある様だし、トシコ嬢の叙爵もこちらの思う様に進められたし。まぁ。強いて言えば彼女の待遇をもっと良くしてあげたいとは思うけど、これも本人が望んでいないし、俺個人としては何とも思っていないさ。」
「じゃ、宰相としては?」
“ん?うーん”と少し考え、
「この国のためと働いてくれた者に何もしないのは、他の国民に対しても良い影響になるとは言えないだろうね。それじゃ、書類宜しく頼む。」
と言って執務室を出て行った。
∴∵
「リオ聖徒。今日の納品分で発注分の全てです。」
「お忙しい中、毎日取りに来て頂いて、本当にありがとうございます。遅くなって申訳ありませんでした。」
「いいえ。聖徒のお作りになる魔剣は今までのどの魔剣よりも精巧です。この様な魔剣をこんなに早く納品して頂けたこと、感謝しています。」
「来週でしたよね?」
突然の問いに、魔剣を取りに来た騎士は思案する。体格が良く、髪を顔や額にかからぬ様にきっちりセットした騎士は何かひらめいた様に口を開く。
「合同演習の事でしょうか?」
「はい。そうです。」
「自分は、聖徒の魔剣で演習を行う予定です。」
「そうなんですか?」
「はい。ぜひ、応援よろしくお願いします。」
その一言に今日護衛を任されているピエールが中をチラリと覗き込む。騎士からは背になるため、彼が顔を出しているのは里桜からしか見えない。
「私は救護担当でテントの中にいることになっているので、演習自体は拝見できないかも知れません。」
「そうでしたか。救世主のトシコ様は陛下とご一緒に観覧されると聞いたので、聖徒も観覧されるのかと。」
少し残念そうに言った。
「私は治療することが仕事ですから。でも、テントの中から皆様がお怪我をしない様に祈っております。」
里桜の返事を聞いて、ピエールは顔を引っ込める。
「ありがとうございます。それでは。」
「はい。ご武運を。」
里桜が笑顔で頭を下げると、騎士の礼で返してくれた。
「いつもの様に丘の麓で少し休憩してきて頂戴。」
「はい。救世主様。」
御者は、いつの間にか、丘の中腹まで降りていた。
利子は一つ息を吐いて、空に手をかざす。全身の魔力を意識して、空へ魔力を放出させる。稲妻のように、ほんの少しだけ空が光る。『格差と言っても、あちらは何もお仕事をされていないのでしょう?格差が出るのは当然の事ですのに。』イリスの言葉を思い出す。
今回、こんなにも尊者や貴族たちが私の侯爵への叙爵について請願書を出したのに、結果は一代限りの男爵。それもそうかと思う。
「私だって、存在を知っていれば倒せていた。あの時は知らされていなかっただけで、今回は違う。」
もう一度、魔力を放出する。
「ほんの少し結界が綻べば・・・今度は私が・・・そしたら侯爵に陞爵せざる得なくなる。しかもあの子と違い今回は前線に立って皆の前で私が倒すの。」
∴∵
里桜が目を覚ますと珍しく天蓋は開けられていて、足を組んで椅子に腰掛けているジルベールがいた。
「おっ目覚めたか?」
ジルベールは側にいたリナに合図する。
「リオ様、どこか痛みの残るところはございますか?」
「いいえ。ないです。大丈夫(どうして、夢の途中で目覚めたの?傷付けるならどうするの?)。」
「それは、良かった。部下に聞いたところによると、背中から下に落ちたらしいから。」
「シド尊者様が来て下さいまして、治癒の魔術をかけて下さいました。」
「悪かったな。うちの部下が。」
里桜は、ジルベールの言葉を頭の中で巡らす。
「それは違います。私の剣の持ち方が悪くて。グリップが大きく右に出てしまっていたので、それが騎士の方に当たってしまったんです。騎士の方たちも私が階段下へ落ちるなんて思ってもみなかったと思います。団長から代わりに謝っておいて頂けませんか?ご迷惑おかけしたこと。」
「あぁ。わかった。奴らもさすがに君が階段から落ちて気を失っていて焦っていたよ。」
「多分気を失ったのは熱のせいなので。」
「ヴァンドーム団長。もうそろそろ。リオ様にはもう少しお休みになって頂きたいので。」
「あぁ。そうだな。顔色がまだ良くない。悪かった。」
里桜は精一杯ジルベールに笑って見せた。
∴∵
「レオナール、トシコ嬢の式典とパレードの詳細を決めたから、書類に目を通して欲しい。」
レオナールは置かれた書類を手に取って、クロヴィスを見上げる。
「最近、トシコ嬢やリオの話をする度に皆この空気感を出すんだよな。」
「この空気感とは?」
「お前はなんでそんなにもリオが虹の力を持っていることを世間に隠したがるんだって空気。」
クロヴィスは少し笑った。
「いや、別に思ってはいないが。公表しないことは彼女の意思でもある様だし、トシコ嬢の叙爵もこちらの思う様に進められたし。まぁ。強いて言えば彼女の待遇をもっと良くしてあげたいとは思うけど、これも本人が望んでいないし、俺個人としては何とも思っていないさ。」
「じゃ、宰相としては?」
“ん?うーん”と少し考え、
「この国のためと働いてくれた者に何もしないのは、他の国民に対しても良い影響になるとは言えないだろうね。それじゃ、書類宜しく頼む。」
と言って執務室を出て行った。
∴∵
「リオ聖徒。今日の納品分で発注分の全てです。」
「お忙しい中、毎日取りに来て頂いて、本当にありがとうございます。遅くなって申訳ありませんでした。」
「いいえ。聖徒のお作りになる魔剣は今までのどの魔剣よりも精巧です。この様な魔剣をこんなに早く納品して頂けたこと、感謝しています。」
「来週でしたよね?」
突然の問いに、魔剣を取りに来た騎士は思案する。体格が良く、髪を顔や額にかからぬ様にきっちりセットした騎士は何かひらめいた様に口を開く。
「合同演習の事でしょうか?」
「はい。そうです。」
「自分は、聖徒の魔剣で演習を行う予定です。」
「そうなんですか?」
「はい。ぜひ、応援よろしくお願いします。」
その一言に今日護衛を任されているピエールが中をチラリと覗き込む。騎士からは背になるため、彼が顔を出しているのは里桜からしか見えない。
「私は救護担当でテントの中にいることになっているので、演習自体は拝見できないかも知れません。」
「そうでしたか。救世主のトシコ様は陛下とご一緒に観覧されると聞いたので、聖徒も観覧されるのかと。」
少し残念そうに言った。
「私は治療することが仕事ですから。でも、テントの中から皆様がお怪我をしない様に祈っております。」
里桜の返事を聞いて、ピエールは顔を引っ込める。
「ありがとうございます。それでは。」
「はい。ご武運を。」
里桜が笑顔で頭を下げると、騎士の礼で返してくれた。