転生聖職者の楽しい過ごし方
第24話 合同演習にて
「始め。」
ジルベールのよく通る声が競技場に響いた。この対戦は、近衛騎士団 第一団隊 第三中隊 第一小隊隊員のフェルナン・バーナードと陸軍 特殊魔獣討伐部隊 第二隊隊員レナルド・クレメンス。
魔術剣を操るフェルナンに魔剣で迎え撃つレナルドが、激しい攻防を繰り返す。
陛下の観覧の元演習をすることは騎士団、国軍ともにそれぞれ一年に一度行われているが、こうして騎士団と国軍が合同で行うのは歴史上初めてのことだった。
騎士団の演習と言えば、魔術剣も魔剣も使わない真剣での勝負。騎士の多くは魔術剣も魔剣も受けたことがない。真剣での勝負もそれなりの迫力はあるが、魔術剣と魔剣の勝負には及ばない。
「バーナードは火を操ると聞いていたから、すぐに勝負が付くものだと思っていたが、国軍の兵士もなかなかな腕前だな。」
「なんだ、あの魔剣。水と氷が同時に使えているのか?そんな魔剣誰が作ったんだ?そもそも氷って魔術で生み出すのも難しいだろう?」
「あれだけ、強い魔力を持った剣は、救世主様が作ったんだろうな。」
「俺もあの魔剣欲しいな。街で売っている魔剣よりやっぱり高いよな?」
「国軍の兵士ってみんなあんなに身軽なのか?俺たちの剣の扱い方とはだいぶ違うな。」
騎士たちが口々に言い合う。火で攻撃するフェルナンを巧みにかわし、レナルドはとうとうフェルナンの剣を大きく弾き、レナルドの鋒がフェルナンの首に突きつけられた。
「終了。」
またも、ジルベールの声が響く。
∴∵
里桜がテントの中にいると、怒号に近い様な歓声がが聞こえてきた。しばらくして担架で運ばれてきたのは騎士団のフェルナン・バーナードだった。
「バーナードさん。」
「リオ聖徒。またお世話になります。」
里桜はため息を一つ吐いた。
「魔獣討伐からまだ一ヶ月ほどしか経っていないんですよ。」
「えぇ。リオ聖徒に治して頂いた右腕は奇跡の様になんともなく、すっかり通常の訓練が出来ています。」
「そんなことを言っているのではなくて・・・」
「あの日、切断されかかった腕を治して下さったのがリオ聖徒でなければ、今日この場には立てませんでした。本当に感謝しています。」
「感謝の言葉もいりません。ただ、体をもう少し気遣って下さいねと言っているのです。」
里桜は困った表情をする。
「今日は同じ様な演習があと七戦も控えています。リオ聖徒、魔力の使いすぎにご注意下さい。」
「いえ、私の体を気遣うのではなくて、あなた自身の体です。」
「私はこの国を、この王都を守ると王へ誓った騎士です。体が動かないことが一番辛いのです。あの大きな怪我からたった一ヶ月で現場に戻ることが出来た。それに勝る幸せはありません。」
里桜はまた軽くため息を吐いた。
「騎士って厄介な生き物ですね。はい。治療は終わりました。」
「いつもながらお見事です。あの魔剣、作り主は秘匿としていますがリオ聖徒がお作りになっているのでしょう?私の使う火の魔術があなたの作った水と氷の魔剣に全く歯が立たなかった。」
里桜はにっこりと笑って、
「それは、特伐隊の兵士の方の腕が良いだけでは?バーナードさん。くれぐれもお体に気をつけて。これは治療を仕事とする者からの言葉です。」
フェルナンは、王に対してする最敬礼をしてテントを出て行った。
∴∵
「今日の救護テントの担当がリオ聖徒で本当に良かった。」
「そんな血だらけで、傷だらけの兵士に良かったと笑顔を見せられても・・・。」
特伐隊のパトリック・マルチノは、胸に大きな裂傷を負って担架で運ばれてきた。裂傷は刺傷より治癒にかかる魔力が多い気がしていた。
「結構、傷が深いみたい、少しゆっくり力を使うので暫く我慢して下さいね。」
「はい。信頼してお任せします。」
里桜は少し笑った。
「なんだか、私高名な医師にでもなったみたい。随分皆に感謝されて、可笑しな気分です。」
「なったみたいではありませんよ。リオ聖徒。あなたの治癒の魔術は本当に素晴らしい。医師ではありませんが高名な聖徒であることは確かです。」
里桜は声を出して笑った。
「はい。終わりました。でも、傷が少し深かったので、今日一日はゆっくりして下さいね。」
「はい。今日は訓練もありませんから、あとは片付けだけです。」
「いや、皆さんにも言いましたが、治癒の魔術は万能なわけではありません。傷が治ってもちゃんと体を休ませないと。」
里桜は困り果てたと言った様子で言う。
「それは、他の聖徒や尊者の場合です。他の方の治療の時は体力が回復しないので休まなければなりませんが、リオ聖徒の治療を受けた後はみな、体力も回復していて休む必要なんてありませんよ。しごかれた次の日の朝より体が楽ですよ。」
「えっ?」
「だから、騎士も兵士も今日の対戦は思い切り出来るんです。明日への支障はないので。最後の組は特伐隊の隊長と、第三中隊長の対戦です。そんな組み合わせが出来るのも、リオ聖徒が救護テントに居るからだと思います。」
そんな話をしていると、外から割れんばかりの声援が聞こえてきた。
「そう言えば、第六組は近衛騎士団第二団隊の隊員とリオ聖徒の侍女殿とのイベントマッチだそうですよ。」
「はい?」
ジルベールのよく通る声が競技場に響いた。この対戦は、近衛騎士団 第一団隊 第三中隊 第一小隊隊員のフェルナン・バーナードと陸軍 特殊魔獣討伐部隊 第二隊隊員レナルド・クレメンス。
魔術剣を操るフェルナンに魔剣で迎え撃つレナルドが、激しい攻防を繰り返す。
陛下の観覧の元演習をすることは騎士団、国軍ともにそれぞれ一年に一度行われているが、こうして騎士団と国軍が合同で行うのは歴史上初めてのことだった。
騎士団の演習と言えば、魔術剣も魔剣も使わない真剣での勝負。騎士の多くは魔術剣も魔剣も受けたことがない。真剣での勝負もそれなりの迫力はあるが、魔術剣と魔剣の勝負には及ばない。
「バーナードは火を操ると聞いていたから、すぐに勝負が付くものだと思っていたが、国軍の兵士もなかなかな腕前だな。」
「なんだ、あの魔剣。水と氷が同時に使えているのか?そんな魔剣誰が作ったんだ?そもそも氷って魔術で生み出すのも難しいだろう?」
「あれだけ、強い魔力を持った剣は、救世主様が作ったんだろうな。」
「俺もあの魔剣欲しいな。街で売っている魔剣よりやっぱり高いよな?」
「国軍の兵士ってみんなあんなに身軽なのか?俺たちの剣の扱い方とはだいぶ違うな。」
騎士たちが口々に言い合う。火で攻撃するフェルナンを巧みにかわし、レナルドはとうとうフェルナンの剣を大きく弾き、レナルドの鋒がフェルナンの首に突きつけられた。
「終了。」
またも、ジルベールの声が響く。
∴∵
里桜がテントの中にいると、怒号に近い様な歓声がが聞こえてきた。しばらくして担架で運ばれてきたのは騎士団のフェルナン・バーナードだった。
「バーナードさん。」
「リオ聖徒。またお世話になります。」
里桜はため息を一つ吐いた。
「魔獣討伐からまだ一ヶ月ほどしか経っていないんですよ。」
「えぇ。リオ聖徒に治して頂いた右腕は奇跡の様になんともなく、すっかり通常の訓練が出来ています。」
「そんなことを言っているのではなくて・・・」
「あの日、切断されかかった腕を治して下さったのがリオ聖徒でなければ、今日この場には立てませんでした。本当に感謝しています。」
「感謝の言葉もいりません。ただ、体をもう少し気遣って下さいねと言っているのです。」
里桜は困った表情をする。
「今日は同じ様な演習があと七戦も控えています。リオ聖徒、魔力の使いすぎにご注意下さい。」
「いえ、私の体を気遣うのではなくて、あなた自身の体です。」
「私はこの国を、この王都を守ると王へ誓った騎士です。体が動かないことが一番辛いのです。あの大きな怪我からたった一ヶ月で現場に戻ることが出来た。それに勝る幸せはありません。」
里桜はまた軽くため息を吐いた。
「騎士って厄介な生き物ですね。はい。治療は終わりました。」
「いつもながらお見事です。あの魔剣、作り主は秘匿としていますがリオ聖徒がお作りになっているのでしょう?私の使う火の魔術があなたの作った水と氷の魔剣に全く歯が立たなかった。」
里桜はにっこりと笑って、
「それは、特伐隊の兵士の方の腕が良いだけでは?バーナードさん。くれぐれもお体に気をつけて。これは治療を仕事とする者からの言葉です。」
フェルナンは、王に対してする最敬礼をしてテントを出て行った。
∴∵
「今日の救護テントの担当がリオ聖徒で本当に良かった。」
「そんな血だらけで、傷だらけの兵士に良かったと笑顔を見せられても・・・。」
特伐隊のパトリック・マルチノは、胸に大きな裂傷を負って担架で運ばれてきた。裂傷は刺傷より治癒にかかる魔力が多い気がしていた。
「結構、傷が深いみたい、少しゆっくり力を使うので暫く我慢して下さいね。」
「はい。信頼してお任せします。」
里桜は少し笑った。
「なんだか、私高名な医師にでもなったみたい。随分皆に感謝されて、可笑しな気分です。」
「なったみたいではありませんよ。リオ聖徒。あなたの治癒の魔術は本当に素晴らしい。医師ではありませんが高名な聖徒であることは確かです。」
里桜は声を出して笑った。
「はい。終わりました。でも、傷が少し深かったので、今日一日はゆっくりして下さいね。」
「はい。今日は訓練もありませんから、あとは片付けだけです。」
「いや、皆さんにも言いましたが、治癒の魔術は万能なわけではありません。傷が治ってもちゃんと体を休ませないと。」
里桜は困り果てたと言った様子で言う。
「それは、他の聖徒や尊者の場合です。他の方の治療の時は体力が回復しないので休まなければなりませんが、リオ聖徒の治療を受けた後はみな、体力も回復していて休む必要なんてありませんよ。しごかれた次の日の朝より体が楽ですよ。」
「えっ?」
「だから、騎士も兵士も今日の対戦は思い切り出来るんです。明日への支障はないので。最後の組は特伐隊の隊長と、第三中隊長の対戦です。そんな組み合わせが出来るのも、リオ聖徒が救護テントに居るからだと思います。」
そんな話をしていると、外から割れんばかりの声援が聞こえてきた。
「そう言えば、第六組は近衛騎士団第二団隊の隊員とリオ聖徒の侍女殿とのイベントマッチだそうですよ。」
「はい?」