転生聖職者の楽しい過ごし方
パレードは王都のランドマーク中央広場の騎士像前から王宮までの約三キロほど。ゼフェン・プリズマーティッシュ・クルウレンは温暖な国ではあるが、真夏もそこまで暑くならず、年間の気温差が三十度にもならないほど。
今日も真夏晴れの中でパレードは決行されたが、海風が吹いているおかげで暑さで体調を崩す者はいなかった。
沿道の市民たちが、黄色いガーベラの造花を掲げている。黄色いガーベラはこの国では慈愛のシンボルでそれが転じて救世主の象徴にもなっている。その間を四頭立ての大型馬車がゆっくりと進んでいく。利子は声援を送る人たちに手を振って応える。その姿は堂々としていて市民は次の王妃は利子なのだと更に噂をし始めた。
市街でのパレードが終わり、利子は満足げに笑う。城門をくぐり、王宮に入る橋を渡りきったところで、急に空は雲で覆われ、土砂降りの雨が降った。屋根のない馬車に乗った利子は全身がずぶ濡れになった。
「なんなのよっ。雲一つなく晴れていたのに。」
王宮の控えの間で贅沢に誂えさせた新品のドレスの裾を握りしめた。利子が外を見ると既に雨は上がり、光り輝く虹がかかっていた。
「せっかく……台無しじゃないっ。」
ティーテーブルに置いてあった水差しを思いっきり払った。水差しは床に落ち、割れた。この後、王宮のテラスで騎士や兵士に向かって挨拶をする事になっている。
「救世主トシコ様。お着替えをすぐにご用意いたしますので、暫くこちらでお待ちください。その前にお髪を整えましょう。」
そう言うリンデルを利子は払い除けるようにどかし、ソファーに座った。
「何やってんのよ。早く髪の毛整えなさいよ。この愚図。」
「はい。救世主トシコ様。」
∴∵
すっかり晴れたバルコニーにはレイベス、マクシミリアン、利子、ロベール、一歩下がったところに護衛としてルシアンが立った。
利子は仕立てたものの、一度も袖を通さずにクローゼットにしまっていた真新しいドレスを着ていた。生地見本では綺麗だと思っていたレモンイエローのドレスは、ドレスになったらなんだか印象が違った。更に着てみるとこの明るい黄色が自分には合っていない気がして、代替のドレスをこれにした侍女を酷く罵った。
しかし、集まった騎士団が手にしていたガーベラと同じ色合いだったため、騎士たちは湧き上がる。その歓声に利子は恍惚とも言える表情を浮かべた。
それでも、歓声を上げているのは集まった者たちのごく一部の騎士で、集まりの後方には大勢の国軍の制服が見える。彼らは手にガーベラも持たず、声も送ることなく、ただじっとバルコニーを見ていた。ロベールはその対比に言いようのない不安を感じていた。
その状況が見えているのかいないのか、ハワードは利子に前に出る様に促す。すると、歓声を上げていた者たちはさらに盛り上がる。
ロベール自身も昨日、里桜の治癒魔法の高さを目の当たりにしなければ、国軍の兵士は普段より反発し合っている騎士たちが応援する救世主様に対し、同じように子供じみた反抗をしているだけだと思っていただろう。
だがしかし、よく見れば後方の国軍の兵士に交じり、近衛騎士団の第一団隊の制服もある。第一団隊は現在利子の護衛を当番制で行っている隊でもある。利子の日常を知り、利子の人となりを見てきている彼らが利子を冷ややかな目で見ていることなど利子自身も見てはいない。
ロベールは“私は見たい物だけを見ていたのだな”と小さな声で呟いた。
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転生聖職者の楽しい過ごし方 26話読んで頂き、ありがとうございます。
閑話集
シド・カンバーランド
ロベール王子
の2話更新しました。
よろしければ、そちらもご覧頂ければと思います。
赤井タ子-Akai・Takoー
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今日も真夏晴れの中でパレードは決行されたが、海風が吹いているおかげで暑さで体調を崩す者はいなかった。
沿道の市民たちが、黄色いガーベラの造花を掲げている。黄色いガーベラはこの国では慈愛のシンボルでそれが転じて救世主の象徴にもなっている。その間を四頭立ての大型馬車がゆっくりと進んでいく。利子は声援を送る人たちに手を振って応える。その姿は堂々としていて市民は次の王妃は利子なのだと更に噂をし始めた。
市街でのパレードが終わり、利子は満足げに笑う。城門をくぐり、王宮に入る橋を渡りきったところで、急に空は雲で覆われ、土砂降りの雨が降った。屋根のない馬車に乗った利子は全身がずぶ濡れになった。
「なんなのよっ。雲一つなく晴れていたのに。」
王宮の控えの間で贅沢に誂えさせた新品のドレスの裾を握りしめた。利子が外を見ると既に雨は上がり、光り輝く虹がかかっていた。
「せっかく……台無しじゃないっ。」
ティーテーブルに置いてあった水差しを思いっきり払った。水差しは床に落ち、割れた。この後、王宮のテラスで騎士や兵士に向かって挨拶をする事になっている。
「救世主トシコ様。お着替えをすぐにご用意いたしますので、暫くこちらでお待ちください。その前にお髪を整えましょう。」
そう言うリンデルを利子は払い除けるようにどかし、ソファーに座った。
「何やってんのよ。早く髪の毛整えなさいよ。この愚図。」
「はい。救世主トシコ様。」
∴∵
すっかり晴れたバルコニーにはレイベス、マクシミリアン、利子、ロベール、一歩下がったところに護衛としてルシアンが立った。
利子は仕立てたものの、一度も袖を通さずにクローゼットにしまっていた真新しいドレスを着ていた。生地見本では綺麗だと思っていたレモンイエローのドレスは、ドレスになったらなんだか印象が違った。更に着てみるとこの明るい黄色が自分には合っていない気がして、代替のドレスをこれにした侍女を酷く罵った。
しかし、集まった騎士団が手にしていたガーベラと同じ色合いだったため、騎士たちは湧き上がる。その歓声に利子は恍惚とも言える表情を浮かべた。
それでも、歓声を上げているのは集まった者たちのごく一部の騎士で、集まりの後方には大勢の国軍の制服が見える。彼らは手にガーベラも持たず、声も送ることなく、ただじっとバルコニーを見ていた。ロベールはその対比に言いようのない不安を感じていた。
その状況が見えているのかいないのか、ハワードは利子に前に出る様に促す。すると、歓声を上げていた者たちはさらに盛り上がる。
ロベール自身も昨日、里桜の治癒魔法の高さを目の当たりにしなければ、国軍の兵士は普段より反発し合っている騎士たちが応援する救世主様に対し、同じように子供じみた反抗をしているだけだと思っていただろう。
だがしかし、よく見れば後方の国軍の兵士に交じり、近衛騎士団の第一団隊の制服もある。第一団隊は現在利子の護衛を当番制で行っている隊でもある。利子の日常を知り、利子の人となりを見てきている彼らが利子を冷ややかな目で見ていることなど利子自身も見てはいない。
ロベールは“私は見たい物だけを見ていたのだな”と小さな声で呟いた。
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シド・カンバーランド
ロベール王子
の2話更新しました。
よろしければ、そちらもご覧頂ければと思います。
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