転生聖職者の楽しい過ごし方
里桜は自室の居間にいた。白シャツとパンツにブラウンのジャケットを羽織って、それに編み上げのブーツを履いた。いつもはひとまとめに結っているだけの髪の毛も編み込んだアップスタイルで、狩りの準備は出来ていた。
「陛下お見えになりました。」
護衛が知らせる。それを聞いた、アナスタシアが扉を開けると、里桜と同じように狩り用の軽い服装になったレオナールが入ってきた。
「俺の見立ては合っていたみたいだな。似合ってる。ドレス姿も良いがリオにはこれくらい活発な服装が良く似合う。」
挨拶をしながら里桜がカーテシーをしようとすると、二の腕を持ち、それを止める。驚いて見上げた里桜とレオナールの瞳がパチッとあった。
「今日はそう畏まるな。外にジルベールとシルヴェストルが待ってる。」
引っ張られる様に外に出ると、茶褐色の馬に跨がったジルベールとシルヴェストルがいた。その横におとなしく象牙のような温かみのある白い毛が印象的で立派な馬がいた。
「これが、私の馬だ。さっ。」
「馬で?」
「狩り場まで馬に跨がればすぐだが、歩くには距離がある。」
里桜はレオナールに手を借りて、怖がりながらも馬に跨がる。
「どうだ?私の馬の中で一番大人しい質の馬だ。」
「視界がとても高いですけど、思っていたよりも怖くないです。」
横に立っているレオナールを見下げながら里桜は笑顔を作った。レオナールは安心した様に笑って、身軽に里桜の後ろに跨がった。
「この乗り方は我慢しろ。馬の後ろは動きが激しくて初心者が乗れる様な心地じゃないからな。じゃ、行ってくる。」
レオナールの言葉に、リナとアナスタシアは笑顔で見送る。レオナールの合図で馬は走り出し、続いてジルベールとシルヴェストルの馬が走り出した。その後を護衛担当の国軍の兵士が続いた。
∴∵
「救世主様に私のお茶会に来て頂けるなんて、本当に光栄でございますわ。」
「主人が騎士団に所属しておりまして、暗視ガラスを試させてもらったそうですけれど、本当に真っ暗なところでも物が見える様になっているのですって。」
「救世主様が新しくお作りになった魔道具ですわね。」
「えぇ。本当にあれのおかげで我が国は助けられたと、騎士団では誰もが救世主様に感謝しているそうですわ。」
「死者が出なかったのも、実は救世主様がお忍びで治療に行かれていたからなのでしょう?」
「私も、そう聞きました。例の渡り人は治療もろくに出来ないと聞きました。」
「私も聞きました。先日の合同演習でも、結局ロベール尊者が一人一人ちゃんと治したか確認して回らなければいけなかったと言う話です。」
「えぇ。そう。それなのに何故か尊者に昇格したと。」
「まぁ。何故かしら?」
「多分、救世主様のお零れじゃないかしら。」
利子を含め、その場にいた全員が口元に扇子を当て笑った。
「それでも、私と違いりおさんは神殿に身を置いて働いていらっしゃいますから。私などは何か起こってからではないと、皆様のお力にはなれませんし。普段はこうしてお茶会にお邪魔するばかりで・・・心苦しいですわ。」
「そんなことございませんわ。国軍では手も足も出なかった魔獣を討伐したのは紛れもなく救世主様です。大丈夫です。みな、ちゃんとわかっておりますわ。」
∴∵
「ここが、王族の狩り場だ。」
馬から下りて、少し周りを見渡す里桜にジルベールは話しかける。
「馬はどうだった?」
「とっても気持ちよかったです。団長や副団長よりもずっとゆっくり走って下さったおかげだと思いますけど。」
里桜が笑うと、シルヴェストルも笑った。そこに、馬を繋ぎ終わったレオナールが合流した。ジルベールは矢のたくさん入った矢筒と弓矢を里桜に渡した。
「矢も飛ばないだろうし、獲物を狙うのなんて今日は出来ないだろうけど、弓に魔力を込める感覚や自然の生き物を狩る感覚を味わうだけで今日は良いから。」
「狩りを練習する事になってから、弓矢の練習を少しさせてもらっていたので、ちょっとは引けるようになったんですけれど、まだまだ飛びません。」
「シルヴァンから筋肉トレーニングを命じられてるって?」
「はい。もう、腕や足が痛くて。」
「乗馬にも筋力は必要になるしな。」
「本当にこれで良いの?」
突然柔らかな声音でシルヴェストルに問いかけられ、意味が掴めず、里桜はシルヴェストルをじっと見つめた。
「君をよく知っているわけではないけど、生き物の命を奪うことが、君の性格には合わない事くらいはわかるから。それが、魔獣であっても。確かに過去の渡り人は、剣を学び自ら前線へ立った人たちもいた。でもそれは一部の男たちだ。俺たちは前回の時のように、手強い魔獣が現れたときに、俺たちじゃ考え付かない魔道具を作ってくれるだけで十分なんだ。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。今練習を始めてもいつ本当に前線へ立てる程の腕前になるかはわかりませんし。それにこの前、前線へ行くことが怖くて嫌だと思ったんです。だけど後になってそんな自分が、惨めで情けなくて大嫌いだと思ったんです。だから、もしまた次同じ様な事が起こったら、私はちゃんと大切な人を守れるようになりたいと思ったんです。なので、大丈夫です。頑張ります。」
∴∵
今日の茶会の帰りも利子はまた、丘の上にいた。御者はいつものように離れた場所にいる。
両腕を空へ伸ばし、魔力を放出する。利子は自分の魔力を調整出来ないので、自分がどれほど力を使えば倒れるのかもわからなかった。一度魔力の放出を止めてみると疲れを感じた。
「どれくらい壊せば怪獣が暴れるの?もう少し?」
利子には何か現れてくれれば、今度活躍するのは間違いなく自分だと漠然とした自信があった。
「みんなを救うのは私。だから早く現れなさい。」
「陛下お見えになりました。」
護衛が知らせる。それを聞いた、アナスタシアが扉を開けると、里桜と同じように狩り用の軽い服装になったレオナールが入ってきた。
「俺の見立ては合っていたみたいだな。似合ってる。ドレス姿も良いがリオにはこれくらい活発な服装が良く似合う。」
挨拶をしながら里桜がカーテシーをしようとすると、二の腕を持ち、それを止める。驚いて見上げた里桜とレオナールの瞳がパチッとあった。
「今日はそう畏まるな。外にジルベールとシルヴェストルが待ってる。」
引っ張られる様に外に出ると、茶褐色の馬に跨がったジルベールとシルヴェストルがいた。その横におとなしく象牙のような温かみのある白い毛が印象的で立派な馬がいた。
「これが、私の馬だ。さっ。」
「馬で?」
「狩り場まで馬に跨がればすぐだが、歩くには距離がある。」
里桜はレオナールに手を借りて、怖がりながらも馬に跨がる。
「どうだ?私の馬の中で一番大人しい質の馬だ。」
「視界がとても高いですけど、思っていたよりも怖くないです。」
横に立っているレオナールを見下げながら里桜は笑顔を作った。レオナールは安心した様に笑って、身軽に里桜の後ろに跨がった。
「この乗り方は我慢しろ。馬の後ろは動きが激しくて初心者が乗れる様な心地じゃないからな。じゃ、行ってくる。」
レオナールの言葉に、リナとアナスタシアは笑顔で見送る。レオナールの合図で馬は走り出し、続いてジルベールとシルヴェストルの馬が走り出した。その後を護衛担当の国軍の兵士が続いた。
∴∵
「救世主様に私のお茶会に来て頂けるなんて、本当に光栄でございますわ。」
「主人が騎士団に所属しておりまして、暗視ガラスを試させてもらったそうですけれど、本当に真っ暗なところでも物が見える様になっているのですって。」
「救世主様が新しくお作りになった魔道具ですわね。」
「えぇ。本当にあれのおかげで我が国は助けられたと、騎士団では誰もが救世主様に感謝しているそうですわ。」
「死者が出なかったのも、実は救世主様がお忍びで治療に行かれていたからなのでしょう?」
「私も、そう聞きました。例の渡り人は治療もろくに出来ないと聞きました。」
「私も聞きました。先日の合同演習でも、結局ロベール尊者が一人一人ちゃんと治したか確認して回らなければいけなかったと言う話です。」
「えぇ。そう。それなのに何故か尊者に昇格したと。」
「まぁ。何故かしら?」
「多分、救世主様のお零れじゃないかしら。」
利子を含め、その場にいた全員が口元に扇子を当て笑った。
「それでも、私と違いりおさんは神殿に身を置いて働いていらっしゃいますから。私などは何か起こってからではないと、皆様のお力にはなれませんし。普段はこうしてお茶会にお邪魔するばかりで・・・心苦しいですわ。」
「そんなことございませんわ。国軍では手も足も出なかった魔獣を討伐したのは紛れもなく救世主様です。大丈夫です。みな、ちゃんとわかっておりますわ。」
∴∵
「ここが、王族の狩り場だ。」
馬から下りて、少し周りを見渡す里桜にジルベールは話しかける。
「馬はどうだった?」
「とっても気持ちよかったです。団長や副団長よりもずっとゆっくり走って下さったおかげだと思いますけど。」
里桜が笑うと、シルヴェストルも笑った。そこに、馬を繋ぎ終わったレオナールが合流した。ジルベールは矢のたくさん入った矢筒と弓矢を里桜に渡した。
「矢も飛ばないだろうし、獲物を狙うのなんて今日は出来ないだろうけど、弓に魔力を込める感覚や自然の生き物を狩る感覚を味わうだけで今日は良いから。」
「狩りを練習する事になってから、弓矢の練習を少しさせてもらっていたので、ちょっとは引けるようになったんですけれど、まだまだ飛びません。」
「シルヴァンから筋肉トレーニングを命じられてるって?」
「はい。もう、腕や足が痛くて。」
「乗馬にも筋力は必要になるしな。」
「本当にこれで良いの?」
突然柔らかな声音でシルヴェストルに問いかけられ、意味が掴めず、里桜はシルヴェストルをじっと見つめた。
「君をよく知っているわけではないけど、生き物の命を奪うことが、君の性格には合わない事くらいはわかるから。それが、魔獣であっても。確かに過去の渡り人は、剣を学び自ら前線へ立った人たちもいた。でもそれは一部の男たちだ。俺たちは前回の時のように、手強い魔獣が現れたときに、俺たちじゃ考え付かない魔道具を作ってくれるだけで十分なんだ。」
「ありがとうございます。でも、大丈夫です。今練習を始めてもいつ本当に前線へ立てる程の腕前になるかはわかりませんし。それにこの前、前線へ行くことが怖くて嫌だと思ったんです。だけど後になってそんな自分が、惨めで情けなくて大嫌いだと思ったんです。だから、もしまた次同じ様な事が起こったら、私はちゃんと大切な人を守れるようになりたいと思ったんです。なので、大丈夫です。頑張ります。」
∴∵
今日の茶会の帰りも利子はまた、丘の上にいた。御者はいつものように離れた場所にいる。
両腕を空へ伸ばし、魔力を放出する。利子は自分の魔力を調整出来ないので、自分がどれほど力を使えば倒れるのかもわからなかった。一度魔力の放出を止めてみると疲れを感じた。
「どれくらい壊せば怪獣が暴れるの?もう少し?」
利子には何か現れてくれれば、今度活躍するのは間違いなく自分だと漠然とした自信があった。
「みんなを救うのは私。だから早く現れなさい。」