転生聖職者の楽しい過ごし方

第28話 利子

「リンデル、今日はウイスキーを頂戴。」
「はい。救世主トシコ様。」

 今日はなんて良い日だったの。馬車でパレードをした時の歓声。青い空にどこまでも続く黄色い花の道。私への祝福と感謝の声。それに騎士達の声援も。


 だけど、感謝の言葉は私のものじゃない。だって本当は私が倒した訳でもなければ、私が治療した訳でもない。

 でも、国民にこんなにも慕われていたら、私に魔力がなくなっても、皆が王妃として私を歓迎してくれるんじゃないの?騎士だって私の味方だし。貴族の多くも私の味方。

 いや、それは違う。だって国民は私が怪獣を倒して、人を治したと思っているからあんなに感謝してくれているんだもん…。

「救世主トシコ様。ウイスキーをお持ちしました。」
「ありがとう。リンデル。今日の私はどうだった?」
「とてもお美しい姿でした、救世主トシコ様。」

 救世主…そうよ。私が救世主だもん。ただの渡り人の手柄になんかなったりしない。だって、おかしいじゃない?渡り人の方が活躍するなんて。誰もそんなこと信じたりしない。絶対大丈夫よ。

 本当?本当はみんな私の正体を知っているんじゃないの?
 それか、みんな実は渡り人に操られて私を褒め称えてるんじゃないの?私が人に暗示をかけられるんだもん。渡り人だって同じ事が出来るって気がついているはず。みんなあの子に操られて私を褒め称えて、私が信じ切った頃にみんなで私を断罪するつもりなんじゃないの?
 創作物ならそんなシナリオもあるはずよね…本当は何?何が本当で、何が偽なの?みんな本心なの?それとも操られてるの?誰か教えてよ。

 利子はグラスに入ったストレートのウイスキーを一気に呷った。


∴∵


「リンデル、今日もウイスキーを頂戴。」
「はい。救世主トシコ様。」

『大丈夫です。みな、ちゃんとわかっておりますわ。』
 何を?私が救世主だからと、みんな私がこの国を良くしてくれるのだと言う。でも、私に何が出来ると思うの? 半年前に成人式やったばっかの私にみんな何を期待するの?魔力があったって、そんなこと出来るわけないじゃない。本当はみんな私が偽物だって知ってるんじゃないの?
 本当にみんな私が国をどうにか出来ると思ってる?娘の様な年の私に?…そんな訳ない。ならば…やっぱり、あの渡り人がみんなに暗示をかけてるんだ。
 みんなに私を持ち上げさせて、私が得意になっているところで、王様にあの渡り人は泣きつく。“私が一生懸命この国を守ったのにあの女は自分がやった様に振る舞った、私の功績を全部持っていった”って。そして私は…。
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