転生聖職者の楽しい過ごし方
「最近、この部屋温かくないか?」
「夏は夏で涼しい気がしてたんだけどな。」
騎士たちは着替えながら話している。
「誰かが温度や湿度も一定に保つ魔法陣を付けてくれたらしいぞ。」
「そんな魔法陣があったならもっと早く付けてくれてもいいのにな。」
「それじゃ、これも救世主様じゃないのか?」
「それなら今までなかったのも頷ける。」
そこにいた何人かの騎士のうち一人が着替える手を止めた。
「救世主様、最近おかしくないか?」
その一言に全員が手を止め、その声の主に目を留めた。
「お茶会とかあるわけでもないのに、昼間にすれ違っただけで酒の匂いがする日があるし、レイベス尊者との治癒魔法の訓練が上手くいっていないって聞くし。正直、討伐以来半年以上も何もしないってちょっとおかしくないか?」
「こちらに渡ってきてずっと訓練しっぱなしなんだ。そりゃ疲れて訓練が進まない日もあるだろうし、休みの日に酒を飲みたい気分にだってなるだろう。」
「そうだよ。渡り人なんて、宰相や団長をたぶらかして月に何度も王宮の狩り場で狩りやって遊んでるんだから、休日の酒くらい良いだろう。」
「あぁ。そうだけど…(宰相や団長ってそんな容易いタイプかよ)。」
∴∵
「よく付いてこられたな。」
里桜がやっとの事で追いつき、馬を常足までに戻すとシルヴァンが馬を転回させながら話しかけてきた。
「遙《はる》が頑張ってくれてるから。」
「これだけギャロップで付いてこられるなら、乗馬訓練は終わりにしても大丈夫だろう。」
「ありがとうございます。」
「後は、春になって大勢で遠乗りの練習だな。馬の中には他の馬がいると落ち着かなくなる馬もいるから。お前の練習と言うよりは、馬の練習だ。」
「はい。」
「それじゃ、帰るか。」
「はい。」
「毎日の訓練は終わりにするが、週に一、二度誰かを寄越すから、馬には定期的に乗った方がいい。常足でもいいから。」
「分かりました。でも、皆さんに付き合って頂くのはちょっと申し訳ない気が。」
「いや、何かあっては困るから急に馬に乗りたくなった時も、ちゃんとあいつらを連れて行けよ。」
少し後ろから馬で付いてきている二人の護衛当番の国軍兵士を指す。
「はい。分かりました。」
「それじゃ、行くぞ。」
∴∵
刃渡りが九十㎝程ある長剣を目の前に里桜は小さなため息を吐いた。今も変わらず体力の回復が悪く、前は平気だった魔剣を作るのにも明らかに体力を使っている気がしていた。
目の前の剣は剣自体もとても特殊で、洋剣にしては切れ味を重視して作られている。そこに、刃こぼれなどしない魔術、剣の重みが軽減する魔術、汚れにくくする魔術、氷と風の魔術も付与している。
その剣を持って、部屋を出ると護衛担当の国軍兵士が一礼する。
「国軍の練習場に行きたいと思います。」
「はい。新しい魔剣お持ちします。」
「いいえ、大丈夫です。長いですけど、見た目ほど重くないので。」
この魔剣はリナ専用に作った特製魔剣だ。他の人からではなく、自分の手で渡したかった。
∴∵
里桜が国軍棟に到着すると、衛兵はさっと門扉を開けた。最初に、アランの執務室を目指す。部屋をノックすると、シルヴァンの声で返事が聞こえた。
兵士が扉を開ける。
「お仕事中失礼します。訓練中のリナさんにお会いしたくて、練習場へ伺っても大丈夫でしょうか?」
「あぁ。大丈夫だがその剣は、魔剣か?」
「はい。リナさん専用に剣から作って頂きました。」
里桜がニコニコして言うと、
「リナだけが特別扱いか。どんな魔術が付与されてんだ?」
「リナさんが特別なのは当然ですよ。私の生活全部を支えてくれているんですから。この剣は、切れ味特化の剣なので、刃こぼれ防止と汚れ防止、長剣なので重さを軽減、それに加え風と氷の魔術を付与しています。まぁ、リナさんは対人仕様なので、本当は水や氷の魔術付与は必要がないんですけど。何かの時、リナさんの身を守れる様にオプションで付与しました。」
アランは苦笑いの様な笑顔を見せる。
「シルヴァン、練習場まで一緒に行ってやってくれ。」
「あぁ。」
「あっいえ。護衛の兵士の方もいますし、場所も分かるので、許可さえ頂けるなら、一人でも大丈夫ですよ。」
「たぶん、リオ嬢の声じゃ練習中のリナの所まで届かないから、シルヴァンを連れていった方がいいぞ。」
「あぁ。なるほど。わかりました。それでは、宜しくお願いします。オリヴィエ参謀。」
∴∵
「あんまり、リナを甘やかさなくても大丈夫だぞ。」
長い廊下を歩いていると、突然シルヴァンが言った。里桜が尋ねる様な視線をシルヴァンに向けると、
「魔剣。今、体調が悪いんじゃないのか?毎日の様に薬草茶を飲んでいるとリナが心配していた。色々と付与すればまた体力を使うだろう。尊者としての仕事も負担はあるのだろうし、リナのためにそこまでする必要はない。」
里桜は、魔剣をぎゅっと抱きしめた。
「リナさんに甘えているのは私の方です。国軍での訓練で体力を消耗していても、そんなこと微塵も出さずに毎日私の身の回りのことをして下さいます。夜は私よりも遅いし、朝は早い。部屋の中はいつもピカピカでホコリや塵の一つもなく、ベッドメイキングも完璧。その上私の体調など考えて料理人の方と一緒に献立を考えたり。私のこちらでの生活はリナさんとアナスタシアさんがいないと成り立たないんです。この魔剣はそのせめてもの感謝の気持ちなんです。だから、甘やかしているわけではないんですよ。でも、皆さんに心配をかけてしまっているんですよね。実は最近の体調不良にちょっと心当たりがあって。薬草茶飲めば回復はしているので、根本的な解決を考えずにいたんですけど……他の尊者様に相談してみます。」
「そうだな。リナにアナスタシア嬢、アルや陛下も心配をしているから。俺たちに手伝えることや改善出来る事があれば、遠慮なく言ってくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
∴∵
「ですから、トシコ様。それでは駄目だと何度も申し上げております。さぁ、もう一度。」
大ぶりなワイングラスを挟んで利子とロベールは向き合っている。グラスの置かれたテーブルは既に水浸しになっている。レイベスに代わってロベールが教育係を担当して毎日、ワイングラスに水をちょうど良いところまで溜める訓練をしているが、一度も上手くいっていなかった。
利子へ教育係が代わる旨を伝えに行った日、レオナールやジルベールなどの一部の人間立ち会いで、里桜の全力の魔力を見た。ロベール自身が作り魔力を込めた土壁をまるで赤子の手を捻る様に易々と粉砕させた。
その時に一瞬感じた魔力はこれまでのどの魔獣にも感じなかったほどに強かった。しかし、目の前の利子からはその魔力は感じられない。
「トシコ様、一度手を出して頂けますか?」
利子は素直に手を出す。その手のひらに計測石を落とす。透明だった計測石は鮮やかな赤になった。利子は不思議そうにその正八面体の物体を眺めている。
「トシコ様はこれが何かご存じでしょうか?」
「いいえ、知らないわ。これは何?」
「これは計測石と言って、触った者の魔力を可視化できる石です。計測石によると、今のトシコ様の魔力は赤です。」
「そんな筈ない。私は救世主なんだから。魔力が赤だなんて。そんなはずない。いい加減な事言わないで。私があなたより立場が上だからといって、そんな事までして私を貶めたいの?」
“ならいい。わからせてあげる”利子はそう呟くと、目を閉じて限度一杯の魔力を放出するイメージをした。利子が目を開くと、そこには薄らと悲しそうな表情をしたロベールが見えた。そこで、ぷっつりと利子の意識はなくなった。
∴∵
里桜はロベールの部屋を訪れていた。ロベールに勧められ、紅茶を一口飲んだ。里桜が部屋に入ってきたと同時にロベールは部屋に魔壁を張っていた。
「Iris様。何かご不便でもございましたか?」
「いえ、不便とかではないのですが…それとは別なんですが、Irisと言う呼び名は…畏れ多いので、里桜でお願いします。」
ロベールは少し笑った。
「前の様に気軽に話して頂きたいんです。私は確かに人外の力を持ってはいますが、この世界の事にはまだまだ疎くて、皆さんに教えて頂き、支えて頂かないといけないので。ぜひ里桜とお呼び下さい。」
ロベールは少し笑って、ふっと息を吐いた。
「あぁ。わかった。では、お言葉に甘えて。それで、何の御用かな?」
「先日ザイデンウィンズの治療所に回診へ行ってきたのですが…」
「王都の南にある平民街だな。貴族街が近くそこで働く平民が多くいるから比較的治安は良く栄えている街だと思っているが。」
「はい。私もそのような印象でした。尊者様は近頃そちらの方へ行かれましたか?」
ロベールは暫く考えを巡らす。
「一番最近では一年ほど前になるか…やはり私も回診であの街へ行ったが。」
「尊者様が行かれた時にあの辺りの結界が少し綻んでいる様に感じませんでしたか?」
「いや、そのように感じはしなかったが。」
「なんだか、禍々しい感じがすると言うのでしょうか、実はそこを通った時に一気に体調が崩れまして。ここ最近どうも体調が優れなかったのはこのせいなのかと。今日、としこさんが倒れたと聞いて、としこさんも私と同じように体調の変化があったのではと思ったもので、尊者様に相談に伺いました。」
ロベールは少し苦笑いをした。まさか、利子が倒れたのはロベールを攻撃しようと魔力を放出させたためだとは言えなかった。
「そういうことであれば、陛下やシドにも話を聞いてもらわねばならない。今日はもうこんな時間だ、明日皆を集めて話をしよう。」
「はい。わかりました。お時間頂きまして、ありがとうございます。」
ロベールがにっこり笑うと、同じように里桜も笑って部屋を出た。
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転生聖職者の楽しい過ごし方28話
読んで頂き、ありがとうございます。
閑話集
ジルベール・ヴァンドーム
シルヴァン・オリヴィエ十三歳
の2話更新しました。
よろしければご覧頂ければと思います。
赤井タ子ーAkai・Takoー
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「夏は夏で涼しい気がしてたんだけどな。」
騎士たちは着替えながら話している。
「誰かが温度や湿度も一定に保つ魔法陣を付けてくれたらしいぞ。」
「そんな魔法陣があったならもっと早く付けてくれてもいいのにな。」
「それじゃ、これも救世主様じゃないのか?」
「それなら今までなかったのも頷ける。」
そこにいた何人かの騎士のうち一人が着替える手を止めた。
「救世主様、最近おかしくないか?」
その一言に全員が手を止め、その声の主に目を留めた。
「お茶会とかあるわけでもないのに、昼間にすれ違っただけで酒の匂いがする日があるし、レイベス尊者との治癒魔法の訓練が上手くいっていないって聞くし。正直、討伐以来半年以上も何もしないってちょっとおかしくないか?」
「こちらに渡ってきてずっと訓練しっぱなしなんだ。そりゃ疲れて訓練が進まない日もあるだろうし、休みの日に酒を飲みたい気分にだってなるだろう。」
「そうだよ。渡り人なんて、宰相や団長をたぶらかして月に何度も王宮の狩り場で狩りやって遊んでるんだから、休日の酒くらい良いだろう。」
「あぁ。そうだけど…(宰相や団長ってそんな容易いタイプかよ)。」
∴∵
「よく付いてこられたな。」
里桜がやっとの事で追いつき、馬を常足までに戻すとシルヴァンが馬を転回させながら話しかけてきた。
「遙《はる》が頑張ってくれてるから。」
「これだけギャロップで付いてこられるなら、乗馬訓練は終わりにしても大丈夫だろう。」
「ありがとうございます。」
「後は、春になって大勢で遠乗りの練習だな。馬の中には他の馬がいると落ち着かなくなる馬もいるから。お前の練習と言うよりは、馬の練習だ。」
「はい。」
「それじゃ、帰るか。」
「はい。」
「毎日の訓練は終わりにするが、週に一、二度誰かを寄越すから、馬には定期的に乗った方がいい。常足でもいいから。」
「分かりました。でも、皆さんに付き合って頂くのはちょっと申し訳ない気が。」
「いや、何かあっては困るから急に馬に乗りたくなった時も、ちゃんとあいつらを連れて行けよ。」
少し後ろから馬で付いてきている二人の護衛当番の国軍兵士を指す。
「はい。分かりました。」
「それじゃ、行くぞ。」
∴∵
刃渡りが九十㎝程ある長剣を目の前に里桜は小さなため息を吐いた。今も変わらず体力の回復が悪く、前は平気だった魔剣を作るのにも明らかに体力を使っている気がしていた。
目の前の剣は剣自体もとても特殊で、洋剣にしては切れ味を重視して作られている。そこに、刃こぼれなどしない魔術、剣の重みが軽減する魔術、汚れにくくする魔術、氷と風の魔術も付与している。
その剣を持って、部屋を出ると護衛担当の国軍兵士が一礼する。
「国軍の練習場に行きたいと思います。」
「はい。新しい魔剣お持ちします。」
「いいえ、大丈夫です。長いですけど、見た目ほど重くないので。」
この魔剣はリナ専用に作った特製魔剣だ。他の人からではなく、自分の手で渡したかった。
∴∵
里桜が国軍棟に到着すると、衛兵はさっと門扉を開けた。最初に、アランの執務室を目指す。部屋をノックすると、シルヴァンの声で返事が聞こえた。
兵士が扉を開ける。
「お仕事中失礼します。訓練中のリナさんにお会いしたくて、練習場へ伺っても大丈夫でしょうか?」
「あぁ。大丈夫だがその剣は、魔剣か?」
「はい。リナさん専用に剣から作って頂きました。」
里桜がニコニコして言うと、
「リナだけが特別扱いか。どんな魔術が付与されてんだ?」
「リナさんが特別なのは当然ですよ。私の生活全部を支えてくれているんですから。この剣は、切れ味特化の剣なので、刃こぼれ防止と汚れ防止、長剣なので重さを軽減、それに加え風と氷の魔術を付与しています。まぁ、リナさんは対人仕様なので、本当は水や氷の魔術付与は必要がないんですけど。何かの時、リナさんの身を守れる様にオプションで付与しました。」
アランは苦笑いの様な笑顔を見せる。
「シルヴァン、練習場まで一緒に行ってやってくれ。」
「あぁ。」
「あっいえ。護衛の兵士の方もいますし、場所も分かるので、許可さえ頂けるなら、一人でも大丈夫ですよ。」
「たぶん、リオ嬢の声じゃ練習中のリナの所まで届かないから、シルヴァンを連れていった方がいいぞ。」
「あぁ。なるほど。わかりました。それでは、宜しくお願いします。オリヴィエ参謀。」
∴∵
「あんまり、リナを甘やかさなくても大丈夫だぞ。」
長い廊下を歩いていると、突然シルヴァンが言った。里桜が尋ねる様な視線をシルヴァンに向けると、
「魔剣。今、体調が悪いんじゃないのか?毎日の様に薬草茶を飲んでいるとリナが心配していた。色々と付与すればまた体力を使うだろう。尊者としての仕事も負担はあるのだろうし、リナのためにそこまでする必要はない。」
里桜は、魔剣をぎゅっと抱きしめた。
「リナさんに甘えているのは私の方です。国軍での訓練で体力を消耗していても、そんなこと微塵も出さずに毎日私の身の回りのことをして下さいます。夜は私よりも遅いし、朝は早い。部屋の中はいつもピカピカでホコリや塵の一つもなく、ベッドメイキングも完璧。その上私の体調など考えて料理人の方と一緒に献立を考えたり。私のこちらでの生活はリナさんとアナスタシアさんがいないと成り立たないんです。この魔剣はそのせめてもの感謝の気持ちなんです。だから、甘やかしているわけではないんですよ。でも、皆さんに心配をかけてしまっているんですよね。実は最近の体調不良にちょっと心当たりがあって。薬草茶飲めば回復はしているので、根本的な解決を考えずにいたんですけど……他の尊者様に相談してみます。」
「そうだな。リナにアナスタシア嬢、アルや陛下も心配をしているから。俺たちに手伝えることや改善出来る事があれば、遠慮なく言ってくれ。」
「はい。ありがとうございます。」
∴∵
「ですから、トシコ様。それでは駄目だと何度も申し上げております。さぁ、もう一度。」
大ぶりなワイングラスを挟んで利子とロベールは向き合っている。グラスの置かれたテーブルは既に水浸しになっている。レイベスに代わってロベールが教育係を担当して毎日、ワイングラスに水をちょうど良いところまで溜める訓練をしているが、一度も上手くいっていなかった。
利子へ教育係が代わる旨を伝えに行った日、レオナールやジルベールなどの一部の人間立ち会いで、里桜の全力の魔力を見た。ロベール自身が作り魔力を込めた土壁をまるで赤子の手を捻る様に易々と粉砕させた。
その時に一瞬感じた魔力はこれまでのどの魔獣にも感じなかったほどに強かった。しかし、目の前の利子からはその魔力は感じられない。
「トシコ様、一度手を出して頂けますか?」
利子は素直に手を出す。その手のひらに計測石を落とす。透明だった計測石は鮮やかな赤になった。利子は不思議そうにその正八面体の物体を眺めている。
「トシコ様はこれが何かご存じでしょうか?」
「いいえ、知らないわ。これは何?」
「これは計測石と言って、触った者の魔力を可視化できる石です。計測石によると、今のトシコ様の魔力は赤です。」
「そんな筈ない。私は救世主なんだから。魔力が赤だなんて。そんなはずない。いい加減な事言わないで。私があなたより立場が上だからといって、そんな事までして私を貶めたいの?」
“ならいい。わからせてあげる”利子はそう呟くと、目を閉じて限度一杯の魔力を放出するイメージをした。利子が目を開くと、そこには薄らと悲しそうな表情をしたロベールが見えた。そこで、ぷっつりと利子の意識はなくなった。
∴∵
里桜はロベールの部屋を訪れていた。ロベールに勧められ、紅茶を一口飲んだ。里桜が部屋に入ってきたと同時にロベールは部屋に魔壁を張っていた。
「Iris様。何かご不便でもございましたか?」
「いえ、不便とかではないのですが…それとは別なんですが、Irisと言う呼び名は…畏れ多いので、里桜でお願いします。」
ロベールは少し笑った。
「前の様に気軽に話して頂きたいんです。私は確かに人外の力を持ってはいますが、この世界の事にはまだまだ疎くて、皆さんに教えて頂き、支えて頂かないといけないので。ぜひ里桜とお呼び下さい。」
ロベールは少し笑って、ふっと息を吐いた。
「あぁ。わかった。では、お言葉に甘えて。それで、何の御用かな?」
「先日ザイデンウィンズの治療所に回診へ行ってきたのですが…」
「王都の南にある平民街だな。貴族街が近くそこで働く平民が多くいるから比較的治安は良く栄えている街だと思っているが。」
「はい。私もそのような印象でした。尊者様は近頃そちらの方へ行かれましたか?」
ロベールは暫く考えを巡らす。
「一番最近では一年ほど前になるか…やはり私も回診であの街へ行ったが。」
「尊者様が行かれた時にあの辺りの結界が少し綻んでいる様に感じませんでしたか?」
「いや、そのように感じはしなかったが。」
「なんだか、禍々しい感じがすると言うのでしょうか、実はそこを通った時に一気に体調が崩れまして。ここ最近どうも体調が優れなかったのはこのせいなのかと。今日、としこさんが倒れたと聞いて、としこさんも私と同じように体調の変化があったのではと思ったもので、尊者様に相談に伺いました。」
ロベールは少し苦笑いをした。まさか、利子が倒れたのはロベールを攻撃しようと魔力を放出させたためだとは言えなかった。
「そういうことであれば、陛下やシドにも話を聞いてもらわねばならない。今日はもうこんな時間だ、明日皆を集めて話をしよう。」
「はい。わかりました。お時間頂きまして、ありがとうございます。」
ロベールがにっこり笑うと、同じように里桜も笑って部屋を出た。
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転生聖職者の楽しい過ごし方28話
読んで頂き、ありがとうございます。
閑話集
ジルベール・ヴァンドーム
シルヴァン・オリヴィエ十三歳
の2話更新しました。
よろしければご覧頂ければと思います。
赤井タ子ーAkai・Takoー
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