転生聖職者の楽しい過ごし方
第30話 偽る心
「それが、最近リオが体調の優れない原因なのか?」
「これっと言う確証があるわけではありませんが、ザイデンウィンズの治療所へ行く途中具合が悪くなってしまい、治療所で薬草茶を飲んで休む羽目になってしまいました。としこさんが倒れたと聞いたので、もしかしたら体調不良の原因が私と一緒なのではないかと思ったもので。」
シドは少し躊躇った様に、
「トシコ様の倒れた原因は直接にはその事と関わりはないようだが、彼女の魔力が最近弱まっていた様だ。その事とは関係があるかも知れない。」
「それで、としこさんはお目覚めになったのでしょうか?もし、必要ならば、治療しに伺いますが。」
「それは大丈夫だ。叔父上が診て下さって、暫く休めば大丈夫だと。」
里桜はシドとロベールに向って笑顔を見せる。ロベールもそれに応える様に笑った。
「リオ、いつから二人はそんな風に仲良くなったんだ?これでは、私一人が仲間はずれの様だ。」
里桜はわかりやすくため息を吐いた。
「陛下はことある毎にそう仰いますけれど、私と陛下、私と尊者様方では会う回数が全く違うのです。毎日何くれとなく私の力になって下さっている、ロベール様やシド様、ヴァンドーム団長やバシュレ幕僚たちと、なかなかお目にかかる機会もお話しする機会もない陛下とでは、親密さに差が出てしまうのは仕方のないことですし、そもそも私はこの国の国王と親しくさせて頂く身分ではございませんので。そのようなお戯れを仰らないで下さい。」
ロベールは、笑い出しそうなのを必死に堪え、
「リオ様、陛下もリオ様のお力になりたいと常々思っておいでなのですよ。ただ、冬の間は年中行事が立て込んでいらしてとてもお忙しい身だったのです。ご自身でお力になれない分、私や陛下のご兄弟にリオ様に力添えする様計らって下さっていたのです。」
ロベールが笑顔で諭すと、里桜は素直にレオナールに頭を下げた。
「そういえば、ジルベールたちと遠乗りに行く様だな?」
「はい。少し気候も良くなってきたと言うことで来月にレイフントレーゼンの森に行くと仰っていました。」
「おぉ。あそこは確かに、緩やかに上り下りもあり、初めての遠乗りには良いところだ。」
「そうなのですか?尊者様も言ったことございますか?」
「あぁ。若い頃は良く狩りへ出かけた。狩りもする予定で?」
「はい。最近は雉やウズラ、ウサギなどを仕留められる様になりまして。もう少し大きな獲物のいる狩り場へ行ってみようという話になりました。」
「うん。初心者にはちょうど良い狩り場でしょう。気をつけて行ってきなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
そこで、レオナールが“コホン”と咳払いをした。二人でレオナールの方へ視線を向ける。
「その遠乗り、私も同行しようと思う。」
「でも、陛下はお忙しいのでは?」
「建国記念日も終わり、一区切り付いたところだ。」
「そうですか、それではご一緒出来るのを楽しみにしておりますね。」
“そんなことより”と前置きをして、
「リオ様の言う、結界の綻びを見に行ってみませんと。」
「あぁ。そうだな。その話しだった。」
「私の感じた印象ですと、直ぐに結界の効力が失くなるような綻びではないと思うのですが、只そこから禍々しいものを感じるのです。」
「ロベール様、それは瘴気ではないでしょうか?」
シドがロベールに問いかける。
「あぁ。そうだろう。」
「瘴気とは、結界の外に漂っている害悪の源と言われている?」
「そうです。陛下。瘴気の質《たち》の悪いところは、魔獣に関与して力を増幅させてしまうところです。」
「それで、最近負傷兵が増えていた理由が説明できましたね。ロベール様。」
「そんな報告は私の所に来ていなかったが?」
レオナールは隣に座るシドに向いて問いかける。
「はい。数は増えてはいますが、リオ様の治療で入院する者がいないのでごく軽傷の扱いになり、けが人としての数には入らないので陛下のお耳に届くことがなかったのだと思います。」
レオナールは二、三度軽く頷く仕草をした。
「今すぐに問題の起こりそうな程の綻びではないとリオは言ったが、リオの体調不良がそのせいだとすれば、毎日薬草茶を飲まなければいけないほどなのだ、実害がないとは言い難い。それに、白の魔力があったはずのトシコ嬢が赤の魔力まで落ちてしまっているのも気にかかる。」
ロベールは小さくため息を吐き、言葉を発した。
「トシコ様の魔力については、生活習慣や内面的な影響もあるかと思います。レイベスから引き継ぐまで生活があれほど乱れているとは思いませんでした。」
シドは深く頷き、腕組みをして少し考えながら口を開いた。
「…私はレイベス様とお話しをさせて頂きましたが、トシコ様自身も自分が救世主ではないと知りながらそれを演じていることに疲れが出ているのではないでしょうか。それが、過度な飲酒や浅眠、自身の立場を誇示したり虚勢を張るような態度に繋がっているのではと。」
「そういった生活を続けると、疲れや体力不足で更に魔力の低下を生み、ここに来て瘴気が流れ込み赤の魔力まで力が落ちてしまった。」
ロベールは紅茶を一口飲んだ。
「陛下、トシコ様に少しの間男爵領の屋敷でお休み頂くのはどうでしょうか?」
「あぁ。そうだな。それも少し考えなければならないな。」
「これっと言う確証があるわけではありませんが、ザイデンウィンズの治療所へ行く途中具合が悪くなってしまい、治療所で薬草茶を飲んで休む羽目になってしまいました。としこさんが倒れたと聞いたので、もしかしたら体調不良の原因が私と一緒なのではないかと思ったもので。」
シドは少し躊躇った様に、
「トシコ様の倒れた原因は直接にはその事と関わりはないようだが、彼女の魔力が最近弱まっていた様だ。その事とは関係があるかも知れない。」
「それで、としこさんはお目覚めになったのでしょうか?もし、必要ならば、治療しに伺いますが。」
「それは大丈夫だ。叔父上が診て下さって、暫く休めば大丈夫だと。」
里桜はシドとロベールに向って笑顔を見せる。ロベールもそれに応える様に笑った。
「リオ、いつから二人はそんな風に仲良くなったんだ?これでは、私一人が仲間はずれの様だ。」
里桜はわかりやすくため息を吐いた。
「陛下はことある毎にそう仰いますけれど、私と陛下、私と尊者様方では会う回数が全く違うのです。毎日何くれとなく私の力になって下さっている、ロベール様やシド様、ヴァンドーム団長やバシュレ幕僚たちと、なかなかお目にかかる機会もお話しする機会もない陛下とでは、親密さに差が出てしまうのは仕方のないことですし、そもそも私はこの国の国王と親しくさせて頂く身分ではございませんので。そのようなお戯れを仰らないで下さい。」
ロベールは、笑い出しそうなのを必死に堪え、
「リオ様、陛下もリオ様のお力になりたいと常々思っておいでなのですよ。ただ、冬の間は年中行事が立て込んでいらしてとてもお忙しい身だったのです。ご自身でお力になれない分、私や陛下のご兄弟にリオ様に力添えする様計らって下さっていたのです。」
ロベールが笑顔で諭すと、里桜は素直にレオナールに頭を下げた。
「そういえば、ジルベールたちと遠乗りに行く様だな?」
「はい。少し気候も良くなってきたと言うことで来月にレイフントレーゼンの森に行くと仰っていました。」
「おぉ。あそこは確かに、緩やかに上り下りもあり、初めての遠乗りには良いところだ。」
「そうなのですか?尊者様も言ったことございますか?」
「あぁ。若い頃は良く狩りへ出かけた。狩りもする予定で?」
「はい。最近は雉やウズラ、ウサギなどを仕留められる様になりまして。もう少し大きな獲物のいる狩り場へ行ってみようという話になりました。」
「うん。初心者にはちょうど良い狩り場でしょう。気をつけて行ってきなさい。」
「はい。ありがとうございます。」
そこで、レオナールが“コホン”と咳払いをした。二人でレオナールの方へ視線を向ける。
「その遠乗り、私も同行しようと思う。」
「でも、陛下はお忙しいのでは?」
「建国記念日も終わり、一区切り付いたところだ。」
「そうですか、それではご一緒出来るのを楽しみにしておりますね。」
“そんなことより”と前置きをして、
「リオ様の言う、結界の綻びを見に行ってみませんと。」
「あぁ。そうだな。その話しだった。」
「私の感じた印象ですと、直ぐに結界の効力が失くなるような綻びではないと思うのですが、只そこから禍々しいものを感じるのです。」
「ロベール様、それは瘴気ではないでしょうか?」
シドがロベールに問いかける。
「あぁ。そうだろう。」
「瘴気とは、結界の外に漂っている害悪の源と言われている?」
「そうです。陛下。瘴気の質《たち》の悪いところは、魔獣に関与して力を増幅させてしまうところです。」
「それで、最近負傷兵が増えていた理由が説明できましたね。ロベール様。」
「そんな報告は私の所に来ていなかったが?」
レオナールは隣に座るシドに向いて問いかける。
「はい。数は増えてはいますが、リオ様の治療で入院する者がいないのでごく軽傷の扱いになり、けが人としての数には入らないので陛下のお耳に届くことがなかったのだと思います。」
レオナールは二、三度軽く頷く仕草をした。
「今すぐに問題の起こりそうな程の綻びではないとリオは言ったが、リオの体調不良がそのせいだとすれば、毎日薬草茶を飲まなければいけないほどなのだ、実害がないとは言い難い。それに、白の魔力があったはずのトシコ嬢が赤の魔力まで落ちてしまっているのも気にかかる。」
ロベールは小さくため息を吐き、言葉を発した。
「トシコ様の魔力については、生活習慣や内面的な影響もあるかと思います。レイベスから引き継ぐまで生活があれほど乱れているとは思いませんでした。」
シドは深く頷き、腕組みをして少し考えながら口を開いた。
「…私はレイベス様とお話しをさせて頂きましたが、トシコ様自身も自分が救世主ではないと知りながらそれを演じていることに疲れが出ているのではないでしょうか。それが、過度な飲酒や浅眠、自身の立場を誇示したり虚勢を張るような態度に繋がっているのではと。」
「そういった生活を続けると、疲れや体力不足で更に魔力の低下を生み、ここに来て瘴気が流れ込み赤の魔力まで力が落ちてしまった。」
ロベールは紅茶を一口飲んだ。
「陛下、トシコ様に少しの間男爵領の屋敷でお休み頂くのはどうでしょうか?」
「あぁ。そうだな。それも少し考えなければならないな。」