転生聖職者の楽しい過ごし方
シルヴェストルが書類をレオナールの机にそっと置いた。
「これは?」
「トシコ嬢を領地の屋敷で休養させるための警護案。」
「あぁ。悪いな。」
「第一団隊は最近増えた魔獣討伐の方に回すから、貴人警護担当の第三団隊を付けることにする。あそこには俺が団隊長だった時の部下が多くいるから直接指示もしやすいし。」
「魔獣討伐の際のけが人が増えたとは聞いていたが、魔獣の発生件数も増えているのか?」
「あぁ。この四ヶ月平均が、前年比で二割ほど増えている。」
「どの魔獣も強堅化している様だと聞いたんだが。」
シルヴェストルは腕組みをして暫く考えた。
「んー。そう言えば、確かに。先日出たウィンズウェイザがいつもはあんなに手こずる様な相手じゃないが、繰り出してくる突風に随分と手を焼いたな。」
その後も、シルヴェストルは顎に手を当てて考えている。
「部下たちも手を焼いたと愚痴ることが多かった記憶があるな。何だかいつもと違う動きをしたり…今まで使っていた対応策が使えなかったりと…お前はどこからその情報を?」
「昨日、リオから相談があって。ザイデンウィンズ付近の結界に小さな綻びが出始めている様だ。トシコ嬢が魔力を暴走させて倒れた件がそれに関係があるんじゃないかと危惧していた。」
“ほう”とシルヴェストルは相槌を打つ。
「綻びから瘴気が入ってきているようで、それが関与して魔獣の力を増幅させてしまっている様だ。」
「なるほど。」
「その瘴気の影響でリオはここ最近体調不良が続いているらしく、トシコ嬢の倒れた原因もそれではないかと心配していたんだ。今日、伯父上と大叔父上に現場視察をお願いしている。」
そこに、また不快感を覚える警報が鳴り響いた。
シルヴェストルはレオナールを一瞥すると、何も言わずその場を後にした。
∴∵
利子がロベールとの訓練中に魔力を暴走させた時はいち早く察知したロベールが利子に魔壁を張ったため、ロベールは疎か、部屋のガラス窓一つとして傷つく事なく利子は意識を失った。
その後すぐ利子へ治療を施したため、利子は数時間後にはいつも通りに食事を摂っていた。
「トシコ様。本日の講説は以上でございます。」
レイベスは利子に対する治癒魔法の訓練以外の講義を数時間程度受け持つ様になっていた。利子の受講態度は決して良いものではなかったが、また癇癪を起こし魔力を暴走させる様なことがあれば身の危険が及ぶのはレイベスではなく利子の方だった。
そんな理由でレイベスも特に利子へ注意をするでもなく流れ作業の様な説明になってしまっていた。
「ヌベール隊長が現在業務連絡のためお側を外しておりますので、暫くこちらでお待ちください。」
レイベスはそう言って部屋を出て行った。
「リンデル、馬車で待っていましょう。こんな所で待っていられない。」
「はい。救世主トシコ様。」
∴∵
神殿の廊下を馬車回しに向って歩いていると、耳を通り過ぎ、脳を直接攻撃してくる様な激しい音が鳴り響いた。利子は思わずその場にしゃがみ込んだ。
「リンデル。この警報ベルは何なの?」
「手強い魔獣が現れた時に厳重警戒態勢に入るための警報です。救世主トシコ様。」
「そう…。」
音が鳴り止むと、利子はすくっと立ち上がった。
「救世主様。」
声をかけられ、利子が振り向くとそこには先王の従兄弟で尊者のアルバートが自らの神官と聖徒を連れていた。
「王都から二十キロほど南西に行ったジーウィンズと言う街にエイスクルプチュルが出た様でございます。普段は群れをなさない魔獣ですが、何故か複数頭が群れで襲ってきているようです。これから私は現地へ行ってきます。」
「アルバート様お一人ですか?」
「他の尊者は別件で視察に出ておりますので私が一人で参ります。」
「では、私も参りましょう。」
「いえ、救世主様は前回の魔獣討伐でも大変ご活躍頂きました。最近もまた教練が過ぎて体調を崩されたと聞きました。ここへいらっしゃるという事は今も教練後なのではございませんか?」
「お気遣い頂きありがとうございます。しかし、今日はレイベス様から神の道を教えて頂いていただけでございますので。」
利子は意識的に口角を上げて微笑んだ様に見せた。
「それは、とても心強い。それでは、参りましょう。」
∴∵
アルバートは神殿の北側にある裏口から出て厩舎に入った。
「アルバート様、馬車ではないのですか?」
「前線へ馬車で出向いたら邪魔になってしまいます。」
「救世主トシコ様を馬に乗らせる訳には参りません。アルバート様、馬車のご準備を。」
リンデルは温度の感じられない声で話す。アルバートは気が付かれない様にため息を吐いた。
「救世主様が普段乗られている馬車では大きすぎますので、神殿の馬車で参りましょう。ベルマは救世主様と一緒に馬車に乗りなさい。私とアゼマは馬で前を行く。」
聖徒のベルマと神官のアゼマは畏まった返事を返した。
______________________________________
[転生聖職者の楽しい過ごし方]
読んで頂き、ありがとうございます。
閑話集
建国記念日
シルヴァンの憂鬱
の2話更新しました。
よろしければご覧頂ければと思います。
赤井タ子ーAkai・Takoー
______________________________________
「これは?」
「トシコ嬢を領地の屋敷で休養させるための警護案。」
「あぁ。悪いな。」
「第一団隊は最近増えた魔獣討伐の方に回すから、貴人警護担当の第三団隊を付けることにする。あそこには俺が団隊長だった時の部下が多くいるから直接指示もしやすいし。」
「魔獣討伐の際のけが人が増えたとは聞いていたが、魔獣の発生件数も増えているのか?」
「あぁ。この四ヶ月平均が、前年比で二割ほど増えている。」
「どの魔獣も強堅化している様だと聞いたんだが。」
シルヴェストルは腕組みをして暫く考えた。
「んー。そう言えば、確かに。先日出たウィンズウェイザがいつもはあんなに手こずる様な相手じゃないが、繰り出してくる突風に随分と手を焼いたな。」
その後も、シルヴェストルは顎に手を当てて考えている。
「部下たちも手を焼いたと愚痴ることが多かった記憶があるな。何だかいつもと違う動きをしたり…今まで使っていた対応策が使えなかったりと…お前はどこからその情報を?」
「昨日、リオから相談があって。ザイデンウィンズ付近の結界に小さな綻びが出始めている様だ。トシコ嬢が魔力を暴走させて倒れた件がそれに関係があるんじゃないかと危惧していた。」
“ほう”とシルヴェストルは相槌を打つ。
「綻びから瘴気が入ってきているようで、それが関与して魔獣の力を増幅させてしまっている様だ。」
「なるほど。」
「その瘴気の影響でリオはここ最近体調不良が続いているらしく、トシコ嬢の倒れた原因もそれではないかと心配していたんだ。今日、伯父上と大叔父上に現場視察をお願いしている。」
そこに、また不快感を覚える警報が鳴り響いた。
シルヴェストルはレオナールを一瞥すると、何も言わずその場を後にした。
∴∵
利子がロベールとの訓練中に魔力を暴走させた時はいち早く察知したロベールが利子に魔壁を張ったため、ロベールは疎か、部屋のガラス窓一つとして傷つく事なく利子は意識を失った。
その後すぐ利子へ治療を施したため、利子は数時間後にはいつも通りに食事を摂っていた。
「トシコ様。本日の講説は以上でございます。」
レイベスは利子に対する治癒魔法の訓練以外の講義を数時間程度受け持つ様になっていた。利子の受講態度は決して良いものではなかったが、また癇癪を起こし魔力を暴走させる様なことがあれば身の危険が及ぶのはレイベスではなく利子の方だった。
そんな理由でレイベスも特に利子へ注意をするでもなく流れ作業の様な説明になってしまっていた。
「ヌベール隊長が現在業務連絡のためお側を外しておりますので、暫くこちらでお待ちください。」
レイベスはそう言って部屋を出て行った。
「リンデル、馬車で待っていましょう。こんな所で待っていられない。」
「はい。救世主トシコ様。」
∴∵
神殿の廊下を馬車回しに向って歩いていると、耳を通り過ぎ、脳を直接攻撃してくる様な激しい音が鳴り響いた。利子は思わずその場にしゃがみ込んだ。
「リンデル。この警報ベルは何なの?」
「手強い魔獣が現れた時に厳重警戒態勢に入るための警報です。救世主トシコ様。」
「そう…。」
音が鳴り止むと、利子はすくっと立ち上がった。
「救世主様。」
声をかけられ、利子が振り向くとそこには先王の従兄弟で尊者のアルバートが自らの神官と聖徒を連れていた。
「王都から二十キロほど南西に行ったジーウィンズと言う街にエイスクルプチュルが出た様でございます。普段は群れをなさない魔獣ですが、何故か複数頭が群れで襲ってきているようです。これから私は現地へ行ってきます。」
「アルバート様お一人ですか?」
「他の尊者は別件で視察に出ておりますので私が一人で参ります。」
「では、私も参りましょう。」
「いえ、救世主様は前回の魔獣討伐でも大変ご活躍頂きました。最近もまた教練が過ぎて体調を崩されたと聞きました。ここへいらっしゃるという事は今も教練後なのではございませんか?」
「お気遣い頂きありがとうございます。しかし、今日はレイベス様から神の道を教えて頂いていただけでございますので。」
利子は意識的に口角を上げて微笑んだ様に見せた。
「それは、とても心強い。それでは、参りましょう。」
∴∵
アルバートは神殿の北側にある裏口から出て厩舎に入った。
「アルバート様、馬車ではないのですか?」
「前線へ馬車で出向いたら邪魔になってしまいます。」
「救世主トシコ様を馬に乗らせる訳には参りません。アルバート様、馬車のご準備を。」
リンデルは温度の感じられない声で話す。アルバートは気が付かれない様にため息を吐いた。
「救世主様が普段乗られている馬車では大きすぎますので、神殿の馬車で参りましょう。ベルマは救世主様と一緒に馬車に乗りなさい。私とアゼマは馬で前を行く。」
聖徒のベルマと神官のアゼマは畏まった返事を返した。
______________________________________
[転生聖職者の楽しい過ごし方]
読んで頂き、ありがとうございます。
閑話集
建国記念日
シルヴァンの憂鬱
の2話更新しました。
よろしければご覧頂ければと思います。
赤井タ子ーAkai・Takoー
______________________________________