転生聖職者の楽しい過ごし方
「それじゃ…私、本当に地球ではない世界に来てしまったって事ですか?それでもう日本へは帰れない?」
「はい。救世主様や渡り人様が元の世界へ帰ったという記述はありません。そもそも、お力をお借りしたくて我々は救世主様を召喚したわけですので。」
「そんな…。私は、その魔石なんて持っていないから、救世主でも何でもないのに…。」
真っ青になって涙を堪えながら途切れ途切れに話す里桜を三人は痛ましそうに見ている。
「一緒にいらっしゃったトシコ様はこの世界について少し理解があるようなのですが、リオ様はご存じのことはありますか?」
リナは里桜にそっとハンカチを渡す。
「いいえ。何も。ただ、リナ様ともお話ししていましたが、言葉はわかるようなのです。公用語のロッシュ語も地方の言葉も。」
「試しに、母方の出身地の言葉を話したら、正確に聞き取っていらっしゃいました。」
「私は今後、どういう…」
「救世主様ではないと言っても、渡り人様であるリオ様には我々より遙かに強い魔力があるはずです。先ほど少しお話しましたが、洗礼の際に泉に体を浸すと精霊が降りてきます。その色で魔力の程がわかるようになっています。」
「通常、平民だと青か緑の力しかありませんが、平民でも私は黄の魔力を持っています。妹のリナも同じ黄の魔力を持っています。」
里桜がリナの方を見ると、ニコリと笑って頷いた。
「私は、父方が王の血を引いている為、一般より魔力は強く、橙の魔力を持っています。貴族では最高位の魔力です。シルヴァンやリナも平民としては最高位の魔力の持ち主です。王族は橙より上の赤の魔力を持つ方も多いです。現王のレオナール陛下も赤の魔力をお持ちになっています。それが、この国に生まれた者の最高位の魔力です。」
里桜が見る度に優しく笑うリナに少しずつ気持ちも収まっていく。
「我が国は、王子の中でもっとも魔力の強い王子が王位を継承することになっており、それ以外の王子で赤の魔力を持つ方が神殿に入門し尊者になります。尊者になると多くは魔力強化をして白や白金の魔力を手に入れます。」
「渡り人様や救世主様は強化せずとも、白や白金の力を持っています。多分、魔石をお持ちではないリオ様は白。魔石をお持ちのトシコ様は白金の魔力なのではないかと。しかし、過去には魔石を持った救世主でも白の魔力しかなく、鍛錬して白金の力を手に入れたと記されている事もあります。」
里桜は何度か頷きながら真剣に話を聞いた。
「鍛え方次第で魔力ってのは上がるのですか?」
「はい。実際に私は洗礼時よりも強い魔力になっています。」
「魔力を上げることは出来ますが、生まれながらに持った力を十分に操れるようになった上で最大限の力を少しずつ増幅していくと言ったイメージなので、時間も努力も必要になります。」
「今、持っている力を本当に最大限まで使い切ってしまうと命を落とす恐れもあるので、慎重に行わなくてはいけません。それなので、通常は持っている力を上げようとはしないです。」
「と言うわけで、白の魔力を持っていれば、癒やしの術も十分使えますので、神殿の聖徒としてお勤め頂くことになると思います。」
「神殿で、ですか。住まいは?」
「しばらくは、こちらに。その後、魔力と爵位は大方比例していますので、救世主様ではなくても、強い魔力を持った渡り人様は、爵位を与えられることになりますので、授爵後は領地に館を建ててお住まい頂く事になると思います。」
里桜はふーんと考え込む。
「市井で働きながら暮らすなんて事はできませんか?」
「市井で、ですか?」
「はい。あっ。私はまだ、この世界の事をなにも知りません。知識は子供以下だとわかっていますが、こちらでの文字や通貨や一般常識など勉強した後、市井で魔力とは無縁のお仕事でお金を稼ぎ、自立をすることは出来ますか?もちろん、私が持っているかもしれない魔力が必要になったときはきちんと働かせていただきますけど。」
「…それは難しいことだと思います。」
しばらくの沈黙の後、アランが口を開いた。続いてシルヴァンが口を開く。
「人より強い魔力は、人の欲にも影響をさせます。ここに生まれる者に赤以上の魔力を与えないのには理由があるのだと、私は思っています。」
「…私の得る、人ならざる力は、誰かに利用される事になる。良くも、悪くもってことですね。私が王宮の外へ出ればそれだけ、私の力を狙う者がでてくる。それならば、王宮で囲い込んで、この国のために力を使わせるって事ですね…。」
アランとシルヴァンは、互いに見合わせる。
「皆様、もう今日は夜も更けて参りましたから、お話の続きはまた明日と言うことにしませんか?」
リナは努めて明るい声を出す。
「アラン様、兄さん、また明日いらしてくださいね。」
「リナ、アラン様ってやめてくれ。」
「ここは王宮ですもの。仕方ありませんわ。さっ。殿方がいつまでも女性の部屋にいるものではありませんよ。」
リナがシルヴァンとアランを押して扉の方へ押しやる。
わかった、わかったとアランとシルヴァンがリナに向かって困った顔をする。
「それでは、リオ様、失礼させて頂きます。また明日伺わせて頂きます。これからの事につきましてはその時に。」
「はい。こちらこそ、お時間を取らせてしまい、申し訳ありません。」
里桜はリナが閉める扉に向かい、深々と礼をした。
「さぁ。リオ様。お風呂のご用意を致します。少しお待ちくださいね。」
∵∴
「へ~こんな風にお湯ためるんですね。本当すごい。」
「平民で魔力があると、生活に便利なので、メイドや宮中の侍女などの仕事に就ける確率が高くなるんですよ。」
「平民の中には魔力を全く持っていない方もいると、オリヴィエ様も仰っていましたけど、魔力がない方は、火起こしとかどうしていらっしゃるんですか?」
「魔道具という物があって、魔力を持たない者でも火を起こせたり、明かりを付けたりが出来ます。」
「へーそうなんですね。」
「魔力に色があるのはわかりましたけど、それによって得意な魔術が変わるんですか?」
「必ずしもと言う訳ではないのですが、精霊が呼応しやすいようで、寒色系は風と水。暖色系は地と火の魔術が比較的得意なようです。普段生活するくらいなら、少しの魔力でも十分便利に使えるんですよ。さぁ。お湯がたまりました。冷めない魔術もかけましたので、ごゆっくりお入り下さいね。」
「ありがとうございます。」
「はい。救世主様や渡り人様が元の世界へ帰ったという記述はありません。そもそも、お力をお借りしたくて我々は救世主様を召喚したわけですので。」
「そんな…。私は、その魔石なんて持っていないから、救世主でも何でもないのに…。」
真っ青になって涙を堪えながら途切れ途切れに話す里桜を三人は痛ましそうに見ている。
「一緒にいらっしゃったトシコ様はこの世界について少し理解があるようなのですが、リオ様はご存じのことはありますか?」
リナは里桜にそっとハンカチを渡す。
「いいえ。何も。ただ、リナ様ともお話ししていましたが、言葉はわかるようなのです。公用語のロッシュ語も地方の言葉も。」
「試しに、母方の出身地の言葉を話したら、正確に聞き取っていらっしゃいました。」
「私は今後、どういう…」
「救世主様ではないと言っても、渡り人様であるリオ様には我々より遙かに強い魔力があるはずです。先ほど少しお話しましたが、洗礼の際に泉に体を浸すと精霊が降りてきます。その色で魔力の程がわかるようになっています。」
「通常、平民だと青か緑の力しかありませんが、平民でも私は黄の魔力を持っています。妹のリナも同じ黄の魔力を持っています。」
里桜がリナの方を見ると、ニコリと笑って頷いた。
「私は、父方が王の血を引いている為、一般より魔力は強く、橙の魔力を持っています。貴族では最高位の魔力です。シルヴァンやリナも平民としては最高位の魔力の持ち主です。王族は橙より上の赤の魔力を持つ方も多いです。現王のレオナール陛下も赤の魔力をお持ちになっています。それが、この国に生まれた者の最高位の魔力です。」
里桜が見る度に優しく笑うリナに少しずつ気持ちも収まっていく。
「我が国は、王子の中でもっとも魔力の強い王子が王位を継承することになっており、それ以外の王子で赤の魔力を持つ方が神殿に入門し尊者になります。尊者になると多くは魔力強化をして白や白金の魔力を手に入れます。」
「渡り人様や救世主様は強化せずとも、白や白金の力を持っています。多分、魔石をお持ちではないリオ様は白。魔石をお持ちのトシコ様は白金の魔力なのではないかと。しかし、過去には魔石を持った救世主でも白の魔力しかなく、鍛錬して白金の力を手に入れたと記されている事もあります。」
里桜は何度か頷きながら真剣に話を聞いた。
「鍛え方次第で魔力ってのは上がるのですか?」
「はい。実際に私は洗礼時よりも強い魔力になっています。」
「魔力を上げることは出来ますが、生まれながらに持った力を十分に操れるようになった上で最大限の力を少しずつ増幅していくと言ったイメージなので、時間も努力も必要になります。」
「今、持っている力を本当に最大限まで使い切ってしまうと命を落とす恐れもあるので、慎重に行わなくてはいけません。それなので、通常は持っている力を上げようとはしないです。」
「と言うわけで、白の魔力を持っていれば、癒やしの術も十分使えますので、神殿の聖徒としてお勤め頂くことになると思います。」
「神殿で、ですか。住まいは?」
「しばらくは、こちらに。その後、魔力と爵位は大方比例していますので、救世主様ではなくても、強い魔力を持った渡り人様は、爵位を与えられることになりますので、授爵後は領地に館を建ててお住まい頂く事になると思います。」
里桜はふーんと考え込む。
「市井で働きながら暮らすなんて事はできませんか?」
「市井で、ですか?」
「はい。あっ。私はまだ、この世界の事をなにも知りません。知識は子供以下だとわかっていますが、こちらでの文字や通貨や一般常識など勉強した後、市井で魔力とは無縁のお仕事でお金を稼ぎ、自立をすることは出来ますか?もちろん、私が持っているかもしれない魔力が必要になったときはきちんと働かせていただきますけど。」
「…それは難しいことだと思います。」
しばらくの沈黙の後、アランが口を開いた。続いてシルヴァンが口を開く。
「人より強い魔力は、人の欲にも影響をさせます。ここに生まれる者に赤以上の魔力を与えないのには理由があるのだと、私は思っています。」
「…私の得る、人ならざる力は、誰かに利用される事になる。良くも、悪くもってことですね。私が王宮の外へ出ればそれだけ、私の力を狙う者がでてくる。それならば、王宮で囲い込んで、この国のために力を使わせるって事ですね…。」
アランとシルヴァンは、互いに見合わせる。
「皆様、もう今日は夜も更けて参りましたから、お話の続きはまた明日と言うことにしませんか?」
リナは努めて明るい声を出す。
「アラン様、兄さん、また明日いらしてくださいね。」
「リナ、アラン様ってやめてくれ。」
「ここは王宮ですもの。仕方ありませんわ。さっ。殿方がいつまでも女性の部屋にいるものではありませんよ。」
リナがシルヴァンとアランを押して扉の方へ押しやる。
わかった、わかったとアランとシルヴァンがリナに向かって困った顔をする。
「それでは、リオ様、失礼させて頂きます。また明日伺わせて頂きます。これからの事につきましてはその時に。」
「はい。こちらこそ、お時間を取らせてしまい、申し訳ありません。」
里桜はリナが閉める扉に向かい、深々と礼をした。
「さぁ。リオ様。お風呂のご用意を致します。少しお待ちくださいね。」
∵∴
「へ~こんな風にお湯ためるんですね。本当すごい。」
「平民で魔力があると、生活に便利なので、メイドや宮中の侍女などの仕事に就ける確率が高くなるんですよ。」
「平民の中には魔力を全く持っていない方もいると、オリヴィエ様も仰っていましたけど、魔力がない方は、火起こしとかどうしていらっしゃるんですか?」
「魔道具という物があって、魔力を持たない者でも火を起こせたり、明かりを付けたりが出来ます。」
「へーそうなんですね。」
「魔力に色があるのはわかりましたけど、それによって得意な魔術が変わるんですか?」
「必ずしもと言う訳ではないのですが、精霊が呼応しやすいようで、寒色系は風と水。暖色系は地と火の魔術が比較的得意なようです。普段生活するくらいなら、少しの魔力でも十分便利に使えるんですよ。さぁ。お湯がたまりました。冷めない魔術もかけましたので、ごゆっくりお入り下さいね。」
「ありがとうございます。」