転生聖職者の楽しい過ごし方
第34話 隠せなくなったもの ①
「オベール副団隊長、少し呼吸が苦しそうですね。今治療致しますので…。」
「他の隊員を治してやって下さい。私は命を取り留めただけで…。」
「副団隊長が一番お辛そうです。治療はまずあなたからです。」
里桜が手を当てると、胸の辺りが光った。
「ありがとうございます。」
「いいえ。山火事の中、気を失ったとしこさんを抱えて守って下さったそうで。こちらこそお礼を申し上げます。ありがとうございました。一般の方の治療があったので、早く治療に伺えず申訳ありませんでした。」
「リオ様、お時間が。」
「もうですか?」
「このあとは、山火事に巻き込まれ怪我をした村の方たちの治療に。治療所がジーウィンズにございますので、少しお時間がかかります。」
「そうでした。分かりました。」
「では、副団隊長お大事になさって下さい。くれぐれも無理はなさらないで下さい。」
「はい。わかりました。」
∴∵
「おはようございます。トシコ様。」
アナスタシアが天蓋の外から声をかけるが、利子からの返事はない。
「おはようございます。失礼させて頂き、入らせて頂きますね。」
「うるさいわね。起きてるわよ。」
「では、手水をお持ちしますので、少々お待ちくださいね。」
天蓋を手早くまとめたアナスタシアの後ろにある窓を見て利子は驚く。
「何?ここ。どうして窓に鉄格子があるの?」
「貴人用の監護室です。」
「かんごしつ?」
「魔力を暴走させ、他人に危害を加えた者を保護する部屋です。」
「どうして。私は救世主なんだから。昨日だって私は怪獣を倒して、皆を守ったの。騎士たちの魔力が弱いせいで倒せなかった怪獣を。」
身振り手振りを派手にしてアナスタシアに訴える。
「昨日、トシコ様の放った火炎により、ジーウィンズの防風林の三分の一が失われ、移った火により山も六十ヘクタールが焼失、十二世帯五十人が避難し、騎士兵士含む三十人が火傷などを負いました。辛うじて死者は出ませんでしたが、人為的災害としては軽視できない惨状です。」
まるで、感情をそぎ落とした様にアナスタシアは話す。
「だけど、怪獣を倒したのだから・・」
「エイスクルプチュルはただの炎では死にません。尾にある急所を突かなければ倒すことは出来ません。再氷結をするだけです。」
「それは、知らなかったから。」
利子はシーツをぎゅっと握る。
「えぇ。そうです。無知と短絡的な思考が全ての原因でございます。氷像の魔獣を火で溶かし止めを刺すのは誰しも考える事ですが、森や山で火を放てば木々が燃えるのも誰もが思い至る事です。倒し方も知らずに火炎を放つなど、浅はかとしか言いようがありません。」
利子は、じっと下を向いている。
「魔力を放とうとしても無理でございます。寝ている間に失礼して足首に魔力封じを付けさせて頂きました。」
「なんてことを…」
「本来ならば、個人の権利を害する行いですから罪人にしかしない措置ですが、今回はトシコ様の体を思ってのことです。もうこれ以上思うがままに暴走させてしまうと、トシコ様の体が持ちません。これにて私は御前を失礼致しますが、お食事をお召し上がりになり、お酒を控えて、就寝時間も十分にお取り下さい。」
利子は何も言わずアナスタシアを睨む。
「最後に陛下よりお言付けでございます。‘此度のことで身の振り方をゆっくりと考えられよ’とのことでございます。」
アナスタシアは一礼して部屋を出て行った。
∴∵
「お名前は?」
「ヤニクと申します。」
「ヤニクさんですね。傷は…」
「火傷は昨日の尊者様が治して下さいました。」
里桜は笑顔で話を聞いた。
「そうですか、でもまだ胸が苦しいのでは?」
「はい。山で猟をしていましたら、火事に巻き込まれまして、煙を吸ってしまいました。」
「ヤニクさん長く話させてしまってごめんなさい。すぐ治しますね。」
里桜が放った光はすぐに消えた。
「ヤニクさん、では深呼吸を二、三度してみて下さい。」
ヤニクは言われたとおりにする。
「ずっと胸が痛かったのですが、もう全く痛くありません。」
「それは、良かったです。ヤニクさん、今日はもうご帰宅頂いて構いませんが、しばらくは高い山に登ったり、走り回ったりはしないで下さいね。苦しくなってしまうかもしれませんから。それでは、ヤニクさんお体をお大事に。」
「あの方で最後のようです。」
ヤニクが帰ると、リナが言った。
「終わりましたか。」
里桜はぐっと伸びをした。それから書類を書き込み、ジョルジュを呼んだ。
「はい。リオ様なんでしょうか。」
「忙しいところごめんなさい。診察した方の書類が出来たので、あとをお願いしますね。」
「はい。畏まりました。リオ様、薬草茶をどうぞ。」
里桜とリナが驚いていると、
「アナスタシア聖徒からこれだけは忘れずに用意をするようにと、言付かりましたので。」
「ありがとう。ジョルジュ神官。お手間をかけてしまってごめんなさい。」
「いいえ。リオ様。」
束の書類を持ち一礼してテントを出て行った。
里桜は薬草茶を一気に喉に流して、私物を片付け始めた。
リナは苦さのためずっとしかめっ面をしながら片付けている里桜を笑顔で見守っていた。
「さっ、片付けも終わったし帰りましょうか。神殿での仕事も昨日の分が全く進んでいないし。」
「はい。では、鞄お持ち致します。」
「いつも、ありがとうございます。」
里桜とリナがテントを出ると、そこには治療を終えたり、待ったりしている人たちでごった返していた。
「あっ。お母さん、あの女性の尊者様よ。黒い髪は珍しいから目立つでしょう?あの方が昨日天馬に乗っていたの。」
母親に連れられた女の子が、里桜を指さし大きな声で言った。周りにいる大人たちは驚いた様に見ている。
里桜にはその視線の意味がわからなかったが、次の瞬間大人たちは両膝をつき、祈る様な姿勢を取る。それは、平民が王族に対して行う尊敬の意を込めた姿勢だ。
「さっ、リオ様馬車へ急ぎましょう。」
「他の隊員を治してやって下さい。私は命を取り留めただけで…。」
「副団隊長が一番お辛そうです。治療はまずあなたからです。」
里桜が手を当てると、胸の辺りが光った。
「ありがとうございます。」
「いいえ。山火事の中、気を失ったとしこさんを抱えて守って下さったそうで。こちらこそお礼を申し上げます。ありがとうございました。一般の方の治療があったので、早く治療に伺えず申訳ありませんでした。」
「リオ様、お時間が。」
「もうですか?」
「このあとは、山火事に巻き込まれ怪我をした村の方たちの治療に。治療所がジーウィンズにございますので、少しお時間がかかります。」
「そうでした。分かりました。」
「では、副団隊長お大事になさって下さい。くれぐれも無理はなさらないで下さい。」
「はい。わかりました。」
∴∵
「おはようございます。トシコ様。」
アナスタシアが天蓋の外から声をかけるが、利子からの返事はない。
「おはようございます。失礼させて頂き、入らせて頂きますね。」
「うるさいわね。起きてるわよ。」
「では、手水をお持ちしますので、少々お待ちくださいね。」
天蓋を手早くまとめたアナスタシアの後ろにある窓を見て利子は驚く。
「何?ここ。どうして窓に鉄格子があるの?」
「貴人用の監護室です。」
「かんごしつ?」
「魔力を暴走させ、他人に危害を加えた者を保護する部屋です。」
「どうして。私は救世主なんだから。昨日だって私は怪獣を倒して、皆を守ったの。騎士たちの魔力が弱いせいで倒せなかった怪獣を。」
身振り手振りを派手にしてアナスタシアに訴える。
「昨日、トシコ様の放った火炎により、ジーウィンズの防風林の三分の一が失われ、移った火により山も六十ヘクタールが焼失、十二世帯五十人が避難し、騎士兵士含む三十人が火傷などを負いました。辛うじて死者は出ませんでしたが、人為的災害としては軽視できない惨状です。」
まるで、感情をそぎ落とした様にアナスタシアは話す。
「だけど、怪獣を倒したのだから・・」
「エイスクルプチュルはただの炎では死にません。尾にある急所を突かなければ倒すことは出来ません。再氷結をするだけです。」
「それは、知らなかったから。」
利子はシーツをぎゅっと握る。
「えぇ。そうです。無知と短絡的な思考が全ての原因でございます。氷像の魔獣を火で溶かし止めを刺すのは誰しも考える事ですが、森や山で火を放てば木々が燃えるのも誰もが思い至る事です。倒し方も知らずに火炎を放つなど、浅はかとしか言いようがありません。」
利子は、じっと下を向いている。
「魔力を放とうとしても無理でございます。寝ている間に失礼して足首に魔力封じを付けさせて頂きました。」
「なんてことを…」
「本来ならば、個人の権利を害する行いですから罪人にしかしない措置ですが、今回はトシコ様の体を思ってのことです。もうこれ以上思うがままに暴走させてしまうと、トシコ様の体が持ちません。これにて私は御前を失礼致しますが、お食事をお召し上がりになり、お酒を控えて、就寝時間も十分にお取り下さい。」
利子は何も言わずアナスタシアを睨む。
「最後に陛下よりお言付けでございます。‘此度のことで身の振り方をゆっくりと考えられよ’とのことでございます。」
アナスタシアは一礼して部屋を出て行った。
∴∵
「お名前は?」
「ヤニクと申します。」
「ヤニクさんですね。傷は…」
「火傷は昨日の尊者様が治して下さいました。」
里桜は笑顔で話を聞いた。
「そうですか、でもまだ胸が苦しいのでは?」
「はい。山で猟をしていましたら、火事に巻き込まれまして、煙を吸ってしまいました。」
「ヤニクさん長く話させてしまってごめんなさい。すぐ治しますね。」
里桜が放った光はすぐに消えた。
「ヤニクさん、では深呼吸を二、三度してみて下さい。」
ヤニクは言われたとおりにする。
「ずっと胸が痛かったのですが、もう全く痛くありません。」
「それは、良かったです。ヤニクさん、今日はもうご帰宅頂いて構いませんが、しばらくは高い山に登ったり、走り回ったりはしないで下さいね。苦しくなってしまうかもしれませんから。それでは、ヤニクさんお体をお大事に。」
「あの方で最後のようです。」
ヤニクが帰ると、リナが言った。
「終わりましたか。」
里桜はぐっと伸びをした。それから書類を書き込み、ジョルジュを呼んだ。
「はい。リオ様なんでしょうか。」
「忙しいところごめんなさい。診察した方の書類が出来たので、あとをお願いしますね。」
「はい。畏まりました。リオ様、薬草茶をどうぞ。」
里桜とリナが驚いていると、
「アナスタシア聖徒からこれだけは忘れずに用意をするようにと、言付かりましたので。」
「ありがとう。ジョルジュ神官。お手間をかけてしまってごめんなさい。」
「いいえ。リオ様。」
束の書類を持ち一礼してテントを出て行った。
里桜は薬草茶を一気に喉に流して、私物を片付け始めた。
リナは苦さのためずっとしかめっ面をしながら片付けている里桜を笑顔で見守っていた。
「さっ、片付けも終わったし帰りましょうか。神殿での仕事も昨日の分が全く進んでいないし。」
「はい。では、鞄お持ち致します。」
「いつも、ありがとうございます。」
里桜とリナがテントを出ると、そこには治療を終えたり、待ったりしている人たちでごった返していた。
「あっ。お母さん、あの女性の尊者様よ。黒い髪は珍しいから目立つでしょう?あの方が昨日天馬に乗っていたの。」
母親に連れられた女の子が、里桜を指さし大きな声で言った。周りにいる大人たちは驚いた様に見ている。
里桜にはその視線の意味がわからなかったが、次の瞬間大人たちは両膝をつき、祈る様な姿勢を取る。それは、平民が王族に対して行う尊敬の意を込めた姿勢だ。
「さっ、リオ様馬車へ急ぎましょう。」