転生聖職者の楽しい過ごし方
テーブルにカトラリーをセットしているアナスタシアが、人気に気がついて顔を上げると、リナがいた。アナスタシアが伺う様にすると、リナは首を横に振った。二人は同時にため息を吐く。
アナスタシアは、ぽつりと話を始める。
「陛下の長兄、ジルベール様や次兄のクロヴィス様も天馬には乗れないの。そのせいでお二人はとても剣の腕があるのに、成年して爵位を賜ってすぐに騎士団長と宰相と言う最前線に赴く事のない役職に就いたの。」
「天馬に乗れないことを隠すだけのために?」
「今は公爵位を賜っているし、騎士団長と宰相としての手腕を周りも認めているけれど、まだ王子であった時は立場が弱すぎて。」
アナスタシアは持っていたテーブルナプキンを畳み直す。
「特にジルベール様は母のウラリー様が平民出身で愛妾にすら認めてもらえなかった。その上天馬にも乗れないとなると王族からの除名なんて言う騒ぎも起こりうると考えたのだと思う。」
リナは静かに頷いた。
「陛下《レオ》も当時から二人のお兄様の能力や人柄を認めていらっしゃるし、先王《叔父様》も同じご意見だったから二人が王族でいられる様に色々と心を配ったのだと思う。」
「やっぱり天馬に乗れることはそんなに大事な事なのね。」
「乗れる、乗れないって言う事実より、それによって如何様にも利用されてしまうのね。」
「乗れなければ王族から排除されるし、乗れれば王族として振る舞うことも出来る。」
「でもリオ様は知らされていなかったのだし…それにしても陛下ったら、私も執務室まで付き添うべきだった。本当に失敗した。まさか、陛下がこんな風に外堀から埋めようとするなんて…一生の不覚だわ。」
「見たのがまだ、騎士団や国軍だけならごまかし方もあったのだけど…あの女の子の一言できっと一気に巷にも広がってしまうわね。」
∴∵
アナスタシアは、里桜の寝室の扉をそっと開ける。
「リオ様、失礼致します。お夕食をお召し上がり下さい。」
閉じている天蓋の中から里桜が起き上がった気配がした。
「本日は魚のムニエルなのですが、別のものを用意致しましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。」
「では、天蓋を開けますね。失礼します。」
里桜は起き上がると、アナスタシアに向けて笑って見せた。
「リオ様。無理に笑顔を作る必要はございません。私や陛下に怒ってよろしいのですよ。」
「どうして、アナスタシアさんに?」
「私は何者からもリオ様をお守りすると誓いましたのに、それを反故にしてしまいました。本当に申し訳なく存じます。それ…」
「いいえ。それは違います。」
アナスタシアの言葉を里桜は遮った。
「アナスタシアさんの今の言葉で私、覚悟を持ちました。」
アナスタシアは、伺うように里桜を見る。
「渡り人に関する伝承記を読んで、本当は分かっていたんです。でも見ない振りしていたんです。多くの救世主や渡り人が王族と縁組みをしていること。私だけが例外だなんてあり得ないこと。」
少し泣き笑いの様な表情をした。
「自分の存在について、もっときちんと覚悟を持ちました。」
∴∵
里桜は朝から王宮の会議室へ呼ばれていた。里桜たちが入室した時には、レオナール、ジルベール、クロヴィスと尊者四名が既に座っていた。
「遅くなりまして、申し訳ありません。」
「いや、予定時間より早い気にするな。」
レオナールに促され、空いている席に座る。リナとアナスタシアは、その後ろに立って控えている。
「レイベス尊者とアルベール尊者にはリオがここへ来る前に結界の綻びについて説明した。」
里桜は頷く。
「ロベール尊者とシド尊者に現地へ赴き視察してもらった結果、お二人も綻びと瘴気の存在を確認した。」
里桜はレオナールの表情が堅いことが気になっていた。
「トシコ嬢にはその綻びを修正出来る程の魔力が今はない。そこで、リオにその綻びを修正してもらいたい。」
レオナールは里桜の顔を真っ直ぐに見る。
「国民の前で。それを虹の女神Iris披露の場にしたい。」
「わかりました。」
私がそう返事をすると、陛下は思ってもいなかったと言うような表情をした。
「いいのか?」
最初に口を開いたのは宰相だった。
「はい。もう自分の力を隠す段階ではなくなったと思っていました。私が隠し続けたせいでとしこさんを苦しめる結果にもなりましたし。これが良い機会だと思います。」
「覚悟を決めたのか。」
団長はいつになく真面目な顔をしていた。
「今まで私のわがままに付き合って頂きありがとうございます。」
「いやっ、なんだかんだで助けられてるのは結局は俺たちだ。お前に犠牲を強いて悪いと思ってる。」
「そのお言葉だけで充分です。」
私が笑うと宰相も団長もほっとしたように笑った。
アナスタシアは、ぽつりと話を始める。
「陛下の長兄、ジルベール様や次兄のクロヴィス様も天馬には乗れないの。そのせいでお二人はとても剣の腕があるのに、成年して爵位を賜ってすぐに騎士団長と宰相と言う最前線に赴く事のない役職に就いたの。」
「天馬に乗れないことを隠すだけのために?」
「今は公爵位を賜っているし、騎士団長と宰相としての手腕を周りも認めているけれど、まだ王子であった時は立場が弱すぎて。」
アナスタシアは持っていたテーブルナプキンを畳み直す。
「特にジルベール様は母のウラリー様が平民出身で愛妾にすら認めてもらえなかった。その上天馬にも乗れないとなると王族からの除名なんて言う騒ぎも起こりうると考えたのだと思う。」
リナは静かに頷いた。
「陛下《レオ》も当時から二人のお兄様の能力や人柄を認めていらっしゃるし、先王《叔父様》も同じご意見だったから二人が王族でいられる様に色々と心を配ったのだと思う。」
「やっぱり天馬に乗れることはそんなに大事な事なのね。」
「乗れる、乗れないって言う事実より、それによって如何様にも利用されてしまうのね。」
「乗れなければ王族から排除されるし、乗れれば王族として振る舞うことも出来る。」
「でもリオ様は知らされていなかったのだし…それにしても陛下ったら、私も執務室まで付き添うべきだった。本当に失敗した。まさか、陛下がこんな風に外堀から埋めようとするなんて…一生の不覚だわ。」
「見たのがまだ、騎士団や国軍だけならごまかし方もあったのだけど…あの女の子の一言できっと一気に巷にも広がってしまうわね。」
∴∵
アナスタシアは、里桜の寝室の扉をそっと開ける。
「リオ様、失礼致します。お夕食をお召し上がり下さい。」
閉じている天蓋の中から里桜が起き上がった気配がした。
「本日は魚のムニエルなのですが、別のものを用意致しましょうか?」
「いいえ、大丈夫です。」
「では、天蓋を開けますね。失礼します。」
里桜は起き上がると、アナスタシアに向けて笑って見せた。
「リオ様。無理に笑顔を作る必要はございません。私や陛下に怒ってよろしいのですよ。」
「どうして、アナスタシアさんに?」
「私は何者からもリオ様をお守りすると誓いましたのに、それを反故にしてしまいました。本当に申し訳なく存じます。それ…」
「いいえ。それは違います。」
アナスタシアの言葉を里桜は遮った。
「アナスタシアさんの今の言葉で私、覚悟を持ちました。」
アナスタシアは、伺うように里桜を見る。
「渡り人に関する伝承記を読んで、本当は分かっていたんです。でも見ない振りしていたんです。多くの救世主や渡り人が王族と縁組みをしていること。私だけが例外だなんてあり得ないこと。」
少し泣き笑いの様な表情をした。
「自分の存在について、もっときちんと覚悟を持ちました。」
∴∵
里桜は朝から王宮の会議室へ呼ばれていた。里桜たちが入室した時には、レオナール、ジルベール、クロヴィスと尊者四名が既に座っていた。
「遅くなりまして、申し訳ありません。」
「いや、予定時間より早い気にするな。」
レオナールに促され、空いている席に座る。リナとアナスタシアは、その後ろに立って控えている。
「レイベス尊者とアルベール尊者にはリオがここへ来る前に結界の綻びについて説明した。」
里桜は頷く。
「ロベール尊者とシド尊者に現地へ赴き視察してもらった結果、お二人も綻びと瘴気の存在を確認した。」
里桜はレオナールの表情が堅いことが気になっていた。
「トシコ嬢にはその綻びを修正出来る程の魔力が今はない。そこで、リオにその綻びを修正してもらいたい。」
レオナールは里桜の顔を真っ直ぐに見る。
「国民の前で。それを虹の女神Iris披露の場にしたい。」
「わかりました。」
私がそう返事をすると、陛下は思ってもいなかったと言うような表情をした。
「いいのか?」
最初に口を開いたのは宰相だった。
「はい。もう自分の力を隠す段階ではなくなったと思っていました。私が隠し続けたせいでとしこさんを苦しめる結果にもなりましたし。これが良い機会だと思います。」
「覚悟を決めたのか。」
団長はいつになく真面目な顔をしていた。
「今まで私のわがままに付き合って頂きありがとうございます。」
「いやっ、なんだかんだで助けられてるのは結局は俺たちだ。お前に犠牲を強いて悪いと思ってる。」
「そのお言葉だけで充分です。」
私が笑うと宰相も団長もほっとしたように笑った。