転生聖職者の楽しい過ごし方
第40話 思いがけない情報
休日、リナ特製のナッツミルクラテを飲みながら庭の見える一階の窓辺で読書するのがここでの定番の過ごし方だった。
そんな時はリナやアナスタシアはできる限り里桜を一人にしてくれている。
「あ゛ーぁ。お醤油味食べたい。お味噌汁飲みたい。」
そんな一人の時、決まってこう大声で言ってストレスを解消している。
「リオ様、ショウユご存知でしたか?」
突然のリナの声にビックリしていると、庭から軍手をはめたリナがひょっこり顔を出した。
「リナさんっ。居るの気が付かなくて。」
「あらっ、私ったら驚かせてしまい、申し訳ございません。しかし、今の本当でございますか?」
「本当?」
「食べたいですか?ショウユや、ミソ。」
「…はいっ。とても。」
「ございますよ。」
「えっ?」
リナは土の付いた軍手を器用に外しながら、窓辺にいる里桜に近づいてきた。
「でも、伝承記には私の様な東洋人の特徴を持った渡り人が来たって言う記載はなかったですし…」
「えぇ。この国ではございません。エシタリシテソージャの特産でございます。」
「隣国?」
リナは頷いた。
「エシタリシテソージャに百年前に渡ってきた救世主が大豆を育て、まずミソをお作りになって、後にショウユを。」
里桜は目を大きく見開いた。驚いている里桜を見てリナは微笑む。
「でも、いくら交流がある隣国とはいっても輸入品となるとお高いですよね。」
「本当はそうなのですが、友好国ですし何よりも我が国にはとんでもなく太いパイプがおりまして。」
「太いパイプ?」
∴∵
「リオ様、そんなにですか?」
「えぇ。そんなにです。この世にないと思っていましたし、私では作る知恵もなく…もう一生食べられないと思っていたのに。」
食べられるー。お醤油味、食べられる。もう…。
馬車で王宮に着くとリナとアナスタシアを後ろに従えて早足で王宮内を横切って、国軍の棟までやって来た。里桜の顔を見ると兵士は何も言わず中へ通す。里桜はにっこりと会釈をして通る。
アランの執務室の前にいる兵士に
「幕僚にお目通り頂きたいのですが。」
兵士が中へ声をかけると、アランの声が返ってきた。兵士は扉をあけて里桜を中へ通す。
「バシュレ幕僚閣下。私にお醤油食べさせて。」
「は?」
「カラヴィ様に会わせて下さい。私にお醤油食べさせて下さい。」
∴∵
「とても香ばしい香りですね。」
国軍寮の厨房の片隅で、リナ、アナスタシア、リュカ、護衛の兵士たちが一つの鍋を囲んでいる。
「これは、豚肉のショウガ焼き。とても一般的な食べ方なんですよ。いやーでもエシタリシテソージャなんて良い国。まさか、昆布や煮干しまであるなんて…。」
「あぁ。でも本当にようございました。リオ様はこちらへ来てから、アレ食べたいコレ食べたいなどの食事のことは殆ど何も仰らず出されたものを食べるばかりで…本当は何が食べたいのか気にしておりました。」
アナスタシアはリナの方を見る。
「はい。本当は何がお好きなのか、何を召し上がりたいのか、また無理に食べて体調を崩さないか心配でした。こんなにも食べることを楽しみにしていらっしゃるリオ様を見るのは初めてです。」
ニコニコとしている里桜を見て、二人も嬉しそうに笑う。
「よし。もうコメは炊けたよ。」
里桜はリュカの両手を握りしめ、
「もうこのご恩を何と言えば良いか。陛下が良いと言われたら虹の力で加護でもなんでも付けて差し上げます。本当にありがとう。カラヴィ様。」
リュカは、あまりの勢いに苦笑いをする。
「まさか隣国に米食文化があったなんて。お米を持っているだけではなく、お鍋で炊けるとか…もうホント神。…いや、天使。」
「どうして神から天使?何だか急に格下げされた雰囲気だけど。」
「違うんです(私にとって神は…あのボンクラ神の印象になってしまって…)。」
「まぁ、いいか。留学中に僕もコメが食べたくなって、その時は一緒に付いてきていた執事に炊いてもらっていたんだけど、この国に永住を決めたとき、執事に教わったんだ。コメって無性に食べたくなるもんね。この国ではコメは家畜の餌だし、ちょっと種類違うし。他国にはコメ食の文化がないから、あまり情報も広がらないんだろうね。まさか、アナスタシア嬢まで知らなかったなんて。」
たまにじゃないよリュカ。私は違う。無性どころではなく、一日一食はご飯が良い。
「じゃ、あとはお味噌汁作ります。」
里桜は、取っていただし汁を一番小さい鍋に移して火にかけ、スライスしたタマネギを入れた。
「なんともいえない香りですわね。牛や鶏のスープとは違う。」
「煮干しの香りだと思いますよ。こちらに来る前に料理の本を見ていた時に日本のだしは世界で一番簡単に取る事ができるスープストックだと書いてあったんです。」
リュカからもらった味噌を一なめしてみる。
「牛や鶏のスープストックは骨や身をぐつぐつ、ことこと煮込まなくてはいけませんが、さっきやったみたいに昆布のだし汁は比較的時間はかからないので。」
だし汁を軽くかき回しながら、
「でも本当は、それぞれの職人さんが手塩に掛けて素材を作ってくれているから、家庭でも簡単におだしが取れるんですけどね。その他に鰹で作る鰹節もスープストックの材料で、私の家は昆布と鰹のスープストックを使っていました。煮干しは私にとってはあまり馴染みがないんですけど…。鰹節を作るってところから始めると膨大な時間だし、作り方も正しくはわからないので、私には作れないんです。」
火を止めて、味噌を溶く。
「しかも…お味噌が熟成豆味噌。良い香り。」
そんな時はリナやアナスタシアはできる限り里桜を一人にしてくれている。
「あ゛ーぁ。お醤油味食べたい。お味噌汁飲みたい。」
そんな一人の時、決まってこう大声で言ってストレスを解消している。
「リオ様、ショウユご存知でしたか?」
突然のリナの声にビックリしていると、庭から軍手をはめたリナがひょっこり顔を出した。
「リナさんっ。居るの気が付かなくて。」
「あらっ、私ったら驚かせてしまい、申し訳ございません。しかし、今の本当でございますか?」
「本当?」
「食べたいですか?ショウユや、ミソ。」
「…はいっ。とても。」
「ございますよ。」
「えっ?」
リナは土の付いた軍手を器用に外しながら、窓辺にいる里桜に近づいてきた。
「でも、伝承記には私の様な東洋人の特徴を持った渡り人が来たって言う記載はなかったですし…」
「えぇ。この国ではございません。エシタリシテソージャの特産でございます。」
「隣国?」
リナは頷いた。
「エシタリシテソージャに百年前に渡ってきた救世主が大豆を育て、まずミソをお作りになって、後にショウユを。」
里桜は目を大きく見開いた。驚いている里桜を見てリナは微笑む。
「でも、いくら交流がある隣国とはいっても輸入品となるとお高いですよね。」
「本当はそうなのですが、友好国ですし何よりも我が国にはとんでもなく太いパイプがおりまして。」
「太いパイプ?」
∴∵
「リオ様、そんなにですか?」
「えぇ。そんなにです。この世にないと思っていましたし、私では作る知恵もなく…もう一生食べられないと思っていたのに。」
食べられるー。お醤油味、食べられる。もう…。
馬車で王宮に着くとリナとアナスタシアを後ろに従えて早足で王宮内を横切って、国軍の棟までやって来た。里桜の顔を見ると兵士は何も言わず中へ通す。里桜はにっこりと会釈をして通る。
アランの執務室の前にいる兵士に
「幕僚にお目通り頂きたいのですが。」
兵士が中へ声をかけると、アランの声が返ってきた。兵士は扉をあけて里桜を中へ通す。
「バシュレ幕僚閣下。私にお醤油食べさせて。」
「は?」
「カラヴィ様に会わせて下さい。私にお醤油食べさせて下さい。」
∴∵
「とても香ばしい香りですね。」
国軍寮の厨房の片隅で、リナ、アナスタシア、リュカ、護衛の兵士たちが一つの鍋を囲んでいる。
「これは、豚肉のショウガ焼き。とても一般的な食べ方なんですよ。いやーでもエシタリシテソージャなんて良い国。まさか、昆布や煮干しまであるなんて…。」
「あぁ。でも本当にようございました。リオ様はこちらへ来てから、アレ食べたいコレ食べたいなどの食事のことは殆ど何も仰らず出されたものを食べるばかりで…本当は何が食べたいのか気にしておりました。」
アナスタシアはリナの方を見る。
「はい。本当は何がお好きなのか、何を召し上がりたいのか、また無理に食べて体調を崩さないか心配でした。こんなにも食べることを楽しみにしていらっしゃるリオ様を見るのは初めてです。」
ニコニコとしている里桜を見て、二人も嬉しそうに笑う。
「よし。もうコメは炊けたよ。」
里桜はリュカの両手を握りしめ、
「もうこのご恩を何と言えば良いか。陛下が良いと言われたら虹の力で加護でもなんでも付けて差し上げます。本当にありがとう。カラヴィ様。」
リュカは、あまりの勢いに苦笑いをする。
「まさか隣国に米食文化があったなんて。お米を持っているだけではなく、お鍋で炊けるとか…もうホント神。…いや、天使。」
「どうして神から天使?何だか急に格下げされた雰囲気だけど。」
「違うんです(私にとって神は…あのボンクラ神の印象になってしまって…)。」
「まぁ、いいか。留学中に僕もコメが食べたくなって、その時は一緒に付いてきていた執事に炊いてもらっていたんだけど、この国に永住を決めたとき、執事に教わったんだ。コメって無性に食べたくなるもんね。この国ではコメは家畜の餌だし、ちょっと種類違うし。他国にはコメ食の文化がないから、あまり情報も広がらないんだろうね。まさか、アナスタシア嬢まで知らなかったなんて。」
たまにじゃないよリュカ。私は違う。無性どころではなく、一日一食はご飯が良い。
「じゃ、あとはお味噌汁作ります。」
里桜は、取っていただし汁を一番小さい鍋に移して火にかけ、スライスしたタマネギを入れた。
「なんともいえない香りですわね。牛や鶏のスープとは違う。」
「煮干しの香りだと思いますよ。こちらに来る前に料理の本を見ていた時に日本のだしは世界で一番簡単に取る事ができるスープストックだと書いてあったんです。」
リュカからもらった味噌を一なめしてみる。
「牛や鶏のスープストックは骨や身をぐつぐつ、ことこと煮込まなくてはいけませんが、さっきやったみたいに昆布のだし汁は比較的時間はかからないので。」
だし汁を軽くかき回しながら、
「でも本当は、それぞれの職人さんが手塩に掛けて素材を作ってくれているから、家庭でも簡単におだしが取れるんですけどね。その他に鰹で作る鰹節もスープストックの材料で、私の家は昆布と鰹のスープストックを使っていました。煮干しは私にとってはあまり馴染みがないんですけど…。鰹節を作るってところから始めると膨大な時間だし、作り方も正しくはわからないので、私には作れないんです。」
火を止めて、味噌を溶く。
「しかも…お味噌が熟成豆味噌。良い香り。」