転生聖職者の楽しい過ごし方
「ほぅ。それで、リオはそれを喜んで食べたのか。」
「はい。それはもう、物凄い勢いで召し上がったそうでございます。あっ飲み物はこれが一番合うと仰って、陛下の差し上げたお茶を美味しそうにお飲みになっていたと言う話しでございます。」
侍従のアルチュールは笑顔で報告する。
「で、エシタリシテソージャへ外遊に行きたいと……」
「はい。外遊をご提案されたのは、クロヴィス閣下でございますが。」
「しかし、あそこまで行くとなると、一月をかけての外遊になる。」
「そうですね。なりますね。」
「俺も・・」
「陛下は行けません。一ヶ月も国内の公務を滞らせるわけにはいきません。それにいきなり国王が来訪など、あちらに迷惑をかけてしまいます。少なくとも一年は調整しなければいけなくなります。」
“ですから駄目です。”とアルチュールは再び否定した。
「しかし、女神だけを向わせるのも心許ないので、外交的に鑑みまして…三大伯爵家のご子息たちを随行させてはどうかと。」
レオナールは眉にぐいっと力を入れる。
三大伯とは、この国の外交の要オードラン家、司法の要レオタール家、軍事の要ファロ家を言う。どの家も現在それぞれの大臣を担っている。その子息は着実に父の背を追い、立派な跡継ぎに成長している。
「リオと近すぎる。」
アルチュールはレオナールに問う様なそぶりをする。
「リオは二十三歳、アルフォンスは二十五だ。」
「あぁ。そう意味では、陛下より女神に近いのかも知れませんね。でも、陛下だってまだ二十七歳でいらっしゃる。可能性はありますよ。私などはもう三十五ですから。それに比べればお若いですよ。」
アルチュールは笑いながら執務室を後にした。
∴∵
「お久しぶりね。としこさん。」
「えぇ。りおさんはお元気そう。」
里桜が訪れたのは、以前自分が聖徒になる前に暮らしていた王宮の客間。もう少し懐かしく感じるかと思ったが、部屋にはそこかしこに利子のドレスが置かれていて部屋の雰囲気がまるで違った。
「今日はね、お昼ご飯にどうかなと思って…差し入れ。一緒に食べない?」
利子の侍女が二人の前に出したのは、おにぎりと豚汁だった。
「こんにゃくとか大根とかゴボウはないからちょっとね、物足りないけど。豚肉とにんじん、ジャガイモ、タマネギで作ったの。知ってた?この国ごま油はあるんだけど、貴族階級は食べないらしいの。美味しいのにね。それで町に買いに行ってもらちゃった。だからコクもあってなかなかな仕上がりだと思う。」
利子は、里桜の料理をじっと見ている。
「あっ。人の握ったおにぎりダメ?」
利子は首を振る。
「嫌いな物あった?」
これにも首を振る。
「材料、良く手に入ったね。味噌とか。」
「うん。ちょっとね、意外な伝手があったの。おにぎりの中はね、カラスガレイに似た白身の魚があったから、醤油漬けにして焼いたのを具にしてるの。」
利子はおにぎりを一口パクリと頬張り、豚汁をのむ。
「懐かしい。おいしい。」
利子は柔らかい笑顔をした。
「良かった。本当は海苔もあれば嬉しかったけど。贅沢は言えないからね。黒ごままぶしたので我慢してね。私も頂くね。」
「それで、りおさん最近はどうなの?虹の女神?とやらになったんでしょ?」
「虹の女神になんて、なったつもりはないんだけど。」
「皆言ってるよ。素晴らしい力だって。」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、やってることはあまり変わらないんだよ。特別何かをしてるわけじゃないの。」
「ふーん。そうなんだ。」
∴∵
「それで、リオはエシタリシテソージャへ行きたいのか?」
「行きたいです。」
「ならば、渡り人の外遊として許可をしても良いが……」
「良いが、何ですか?」
「五月、我が国には虹の女神祭がある。女神が天界より降りてきた日と言われていて、毎年出店等も出て賑わう。初めて降りた地はゴーデンと言って、エシタリシテソージャへ行く道の途中にある街だ。そこで虹の女神として、この国の繁栄と安寧を祈願し祝詞を披露すること。行程にある宿場町に簡易治療所を作り、国民を治療すること。」
「はい。わかりました。」
「あれ程目立つのは嫌だと散々言っていたのに。」
「お米とお醤油とお出汁とお味噌のためならば。やってやります。日本人の意地です。」
「そうか?まぁ良い。あと、あの国は我が国と比べると些か奇妙だ。あちらからすれば我が国が異端なのだと言うが。貴賤意識が強く、リオの今の態度ではあちらでは通用しない。もう一度アニアから淑女教育を受け直すように。特に言葉遣いを直せ。侍女にさん付けなどしないようにな。」
「はい。わかりました。」
「あとは、あちらの国では私の婚約者として振る舞ってもらおう。」
「それは、お断りいたします。」
「はい。それはもう、物凄い勢いで召し上がったそうでございます。あっ飲み物はこれが一番合うと仰って、陛下の差し上げたお茶を美味しそうにお飲みになっていたと言う話しでございます。」
侍従のアルチュールは笑顔で報告する。
「で、エシタリシテソージャへ外遊に行きたいと……」
「はい。外遊をご提案されたのは、クロヴィス閣下でございますが。」
「しかし、あそこまで行くとなると、一月をかけての外遊になる。」
「そうですね。なりますね。」
「俺も・・」
「陛下は行けません。一ヶ月も国内の公務を滞らせるわけにはいきません。それにいきなり国王が来訪など、あちらに迷惑をかけてしまいます。少なくとも一年は調整しなければいけなくなります。」
“ですから駄目です。”とアルチュールは再び否定した。
「しかし、女神だけを向わせるのも心許ないので、外交的に鑑みまして…三大伯爵家のご子息たちを随行させてはどうかと。」
レオナールは眉にぐいっと力を入れる。
三大伯とは、この国の外交の要オードラン家、司法の要レオタール家、軍事の要ファロ家を言う。どの家も現在それぞれの大臣を担っている。その子息は着実に父の背を追い、立派な跡継ぎに成長している。
「リオと近すぎる。」
アルチュールはレオナールに問う様なそぶりをする。
「リオは二十三歳、アルフォンスは二十五だ。」
「あぁ。そう意味では、陛下より女神に近いのかも知れませんね。でも、陛下だってまだ二十七歳でいらっしゃる。可能性はありますよ。私などはもう三十五ですから。それに比べればお若いですよ。」
アルチュールは笑いながら執務室を後にした。
∴∵
「お久しぶりね。としこさん。」
「えぇ。りおさんはお元気そう。」
里桜が訪れたのは、以前自分が聖徒になる前に暮らしていた王宮の客間。もう少し懐かしく感じるかと思ったが、部屋にはそこかしこに利子のドレスが置かれていて部屋の雰囲気がまるで違った。
「今日はね、お昼ご飯にどうかなと思って…差し入れ。一緒に食べない?」
利子の侍女が二人の前に出したのは、おにぎりと豚汁だった。
「こんにゃくとか大根とかゴボウはないからちょっとね、物足りないけど。豚肉とにんじん、ジャガイモ、タマネギで作ったの。知ってた?この国ごま油はあるんだけど、貴族階級は食べないらしいの。美味しいのにね。それで町に買いに行ってもらちゃった。だからコクもあってなかなかな仕上がりだと思う。」
利子は、里桜の料理をじっと見ている。
「あっ。人の握ったおにぎりダメ?」
利子は首を振る。
「嫌いな物あった?」
これにも首を振る。
「材料、良く手に入ったね。味噌とか。」
「うん。ちょっとね、意外な伝手があったの。おにぎりの中はね、カラスガレイに似た白身の魚があったから、醤油漬けにして焼いたのを具にしてるの。」
利子はおにぎりを一口パクリと頬張り、豚汁をのむ。
「懐かしい。おいしい。」
利子は柔らかい笑顔をした。
「良かった。本当は海苔もあれば嬉しかったけど。贅沢は言えないからね。黒ごままぶしたので我慢してね。私も頂くね。」
「それで、りおさん最近はどうなの?虹の女神?とやらになったんでしょ?」
「虹の女神になんて、なったつもりはないんだけど。」
「皆言ってるよ。素晴らしい力だって。」
「そう言ってもらえるのは嬉しいけど、やってることはあまり変わらないんだよ。特別何かをしてるわけじゃないの。」
「ふーん。そうなんだ。」
∴∵
「それで、リオはエシタリシテソージャへ行きたいのか?」
「行きたいです。」
「ならば、渡り人の外遊として許可をしても良いが……」
「良いが、何ですか?」
「五月、我が国には虹の女神祭がある。女神が天界より降りてきた日と言われていて、毎年出店等も出て賑わう。初めて降りた地はゴーデンと言って、エシタリシテソージャへ行く道の途中にある街だ。そこで虹の女神として、この国の繁栄と安寧を祈願し祝詞を披露すること。行程にある宿場町に簡易治療所を作り、国民を治療すること。」
「はい。わかりました。」
「あれ程目立つのは嫌だと散々言っていたのに。」
「お米とお醤油とお出汁とお味噌のためならば。やってやります。日本人の意地です。」
「そうか?まぁ良い。あと、あの国は我が国と比べると些か奇妙だ。あちらからすれば我が国が異端なのだと言うが。貴賤意識が強く、リオの今の態度ではあちらでは通用しない。もう一度アニアから淑女教育を受け直すように。特に言葉遣いを直せ。侍女にさん付けなどしないようにな。」
「はい。わかりました。」
「あとは、あちらの国では私の婚約者として振る舞ってもらおう。」
「それは、お断りいたします。」