転生聖職者の楽しい過ごし方

第42話 出発

「道中恙無き様。」
「はい。陛下。出発に至るまでの様々なお心遣い、痛み入ります。」

 王宮の玉座の間で、出発に際しレオナールから言葉を貰っている里桜はあからさまにソワソワしていた。

「出発したくてたまらないと言った風だな。」

 里桜は顔を伏せたまま恐縮する。

「リオ、息災に。くれぐれも怪我などするな。病気もだ。簡易治療所は混むだろう。無理はするな。わかったな。」
「はい。陛下。」
「では、行ってこい。」

 里桜は顔をあげ、レオナールの顔をしっかりと見ると、笑顔で部屋を出た。


∴∵


 隣国エシタリシテソージャの王都ダハブまでは約五百㎞。一日の移動距離は二十八㎞を予定し、途中の休憩を含め一日八時間以上の移動。
 小柄な人なら六人で同乗できそうな大きな馬車に、里桜、アナスタシア、リナ、ジョルジュが乗っている。その馬車の両脇を騎士が乗馬で併走していて、馬車の後ろには荷馬車が何台か走っている。

「令和日本なら、日帰り出張の距離なのに。馬の休憩とか考えると、徒歩の方が早いかも。」
「エシタリシテソージャとは、互いの王族が留学する友好国ですので、王都から王都までの最短距離の馬車道がございます。丁度良く両国を遮る山もない為に、ほぼ直線距離のルートで王都のダハブまで行けます。」
「前に地図を見たら、エパナスターシ国はドンカーの森や、山脈が国境付近にあって、峠越えが難しそうだった記憶があるし、ゲウェーニッチは大きな川が国境になっているし、この二カ国との往来は確かに大変そうね。」

 街中に入った様で人々の声が聞こえる。薄い布のカーテンが閉まっていて外は薄らとしか見えないが、人々が立ち止まって馬車を見ているのは分かる。

「神殿が新しくリオ様専用の馬車をお造りになったので、人々にもリオ様がご乗車なのが分かるのだと思います。」

 女神祭りで祝詞を上げる事が決まってから、ロベールとシドが旗振り役になり様々な準備をした。
 まずは、里桜を尊者ではなく、大尊者にした。これは里桜のための新しい階級で、アナスタシアの祖母の時の様に今までも臨時で新しい階級が出来ることはあった。その後、普段の尊者の制服とは別に、祭りの儀式用の装束を作り、里桜用のアイリスをモチーフにした紋章を作り、それを付けた豪華な馬車まで造った。
 里桜はそれはやり過ぎだと抗議をしたが、里桜がそれらを知ったのは納品される直前だったために、取り消すことも出来ず、最終的に受け入れるしかなかった。

「こんな大行列、横切れないから通り過ぎるまで待たなくちゃいけないのか。私たち迷惑をかけてるね。」
「この国では、徒歩の人間はいつでも馬車の行列を横切っても良いことになっています。それが例え陛下の馬車でも。通行人が手を上げたら通りたい合図なので馬車は止まらねばなりません。ですから、町人はただリオ様の馬車を見てみたかっただけだと思います。ご心配なさらずに。」
「そうなら良いけど。そう言えば今日の宿泊地のハーレイはどんな街なの?」
「王都の外れにある小さな街ですが、古くから宿場町として賑わっている場所で、すぐ近くに小麦の名産地がありますので、ここの街のパンは、旅人に人気です。」
「へー。楽しみ。」
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