転生聖職者の楽しい過ごし方
 三時間馬車で走り続けて、小さな町に着いた。そこで、馬を休憩させながら里桜たちは昼食を取る事にした。

「この国に来て、街を歩くのは初めて。いつも寮と神殿と治療所を馬車で移動するだけだから。」

 街の人たちが行き来する姿はここで生きている実感を里桜にもたらした。

「あちらに食事処が数件あるそうです。どちらのお店に入って頂いても構いません。」

 小さい町のため、あまり目立たない様に少人数で班になり行動することになった。今回、里桜のお付きにはアナスタシアと騎士のヴァレリーとジョルジュ。
 すれ違う人はきっと、アナスタシアとヴァレリーを主、里桜とジョルジュが従者だと思っているだろう。

「では、あのお店にしてみる。町の食堂ね。」
「そうですね。では、そちらのお店にしてみましょう。」

 騎士が最初に扉を開け、中を一瞬で確認すると、里桜を招き入れた。

「いらっしゃい。何人さん?」
「四人です。」

 里桜は答えた。

「それじゃ、こちらに。」

 と女性が店の真ん中の席を指すとヴァレリーは、

「いや、すまない。あちらの奥の席でも良いだろうか?」
「えぇ、奥の席で良いならどうぞ。」

 ヴァレリーは先を歩き、テーブルに着くと、椅子を引いて里桜を座らせた。ジョルジュはアナスタシアの椅子を引く。

「リオ様、何を召し上がりますか?」
「そうだな。私は、牛肉の煮込みにする。あと窯焼きパン。」

 里桜は外食が好きだった。だから久し振りのこの感覚がとても楽しかった。

「リオ様、小さい町なのでこのようなお店になってしまい申訳ありません。」

 声を落とし、謝ったのはヴァレリーだった。出発前に目を通していた資料には子爵家の長男だと書いてあった。父は同じ第二中隊の中隊長だ。

「ヴァレリー、そんな事は気にしないで。こちらに来る前の世界ではこういったお店でよく食事をしていたんだから。私はあなたよりずっと、この町に溶け込める自信がある。もっと汚いお店でだって食べてたし。ここはとってもキレイだし、みんな笑顔で食事しているからきっと当たりのお店のはず。お料理、楽しみね。」

 里桜が笑うと、ヴァレリーは小さな声で返事をした。


∴∵

 

 王宮を出発して四日目これまでで一番大きい宿場町ミーデンに着いた。

「リオ様、今まで小さな宿場町でちゃんとした宿がなくご不便をおかけしました。」

 リナは部屋を整えながらも用意したお茶を里桜に差し出しながら言った。転生当初の里桜ならば驚く様な広さの部屋だが、慣れとは恐ろしく広さを感じなくなっていた。

「大丈夫。どこも賑わっていて、久し振りに住んでいる人の活気を感じることが出来たから。この世界に来てそんなこと無かったから、新鮮だったの。不便なんて感じてないから全然平気。」

 里桜が笑うと、リナも微笑んだ。

「リオ様、明日は治療所へ行かないといけませんから、早めに就寝致しましょう。」

 里桜が頷くと、二人はベッド周りを整え始めた。
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