転生聖職者の楽しい過ごし方
「リオ様、それは?」
「トマトみたい。」
「え?お食事は…」
「自分でこぼした訳ではないの。歩いていたらトマトを投げつけられたみたい。」
里桜が苦笑いをすると、リナは顔を歪めた。
「リオ様、こんな状況を受け入れてはなりません。」
「そうね。でもね、ごめん。とにかく今は午後の治療に間に合うのが一番、着替えを手伝って。」
「はい。畏まりました。」
リナはそれ以上は何も言わずに、黙々と里桜の着替えを手伝った。
∴∵
「何故です。理由を言いなさい。」
里桜もリナも目が覚める様な鋭い声でアナスタシアは二人の騎士に詰め寄る。騎士団は代々騎士を輩出している家門の者も少なくなく、騎士団内は家格が効力を発揮する。そうやってすり込まれた貴賤意識は体の隅々にまで行き渡っている。王女の孫娘であり、王の従姉妹であるアナスタシアは騎士にとっては侮ることの出来ない人物だ。
二人の騎士は身をすくめた。
「リオ様には実害はなく・・」
「実害がない?どこがです?腐ったトマトを投げつけられ、制服もお顔も汚れたと聞いています。その状況のどこに実害が無かったと言えるのですか?そもそも・・」
アナスタシアが、問責していると、そこに入ってきたのはこの二人の上官ヴァレリーだった。
「リオ様。この度の部下の失態、何のお詫びのしようもございません。」
ヴァレリーは貴人に対してする礼を里桜に向ってし、頭を下げた。自分の上官が目の前で謝る姿に、二人も慌てて同じ礼をする。
「ヴァレリー、礼は良いです。」
里桜がそう言うと、ヴァレリーは姿勢を戻す。
「今聞きたいのは、私にトマトをぶつけた男が何故話を聞く前に解放されたかの理由です。」
「ですから、リオ様にお怪我がなかった・・」
「ですから、そもそもこういった事態からリオ様をお守りするのがあなた方の役目なのではありませんか?」
「アナスタシア、今はこの方たちの仕事に対する落ち度については置いておきましょう。では、アシルは私に怪我がないから、彼を解放したのね。」
「はい。」
「それで、彼は何故、私にトマトをぶつけたのかの説明や、私に対する謝罪はしたの?」
アシルもブリスも答えない。
「聞いてもいないのね?」
「リオ様・・」
「ヴァレリー。」
里桜はヴァレリーの言葉を遮った。
「私は爵位も持っていないし、虹の力があると言っても、あなた方にそれを証明する術がない・・・きっとあなたたちはここで私が計測石を虹色に光らせたところで私を心から尊敬することなどしないでしょう?見せかけだけの忠誠になんの価値もありませんから。もう結構です。」
里桜は部屋を出るところで、振り返る。
「ヴァレリー、アシル、ブリス。明日からも宜しく頼みます。長旅ですから早々にもめ事は避けたいの。」
事の全ては、私にとしこさんの様な人を引きつける力が無いからだ。それは、この外遊が決まってからレオナールにも度々注意されていたことで、どんな国かは分からないがエシタリシテソージャへ行くにはソレが必要とされるらしい。
決まってからの付け焼き刃で言葉だけをどうにか直したって、結局騎士たちの根っこの部分には‘カタツムリの里桜’が居る。それを追い払うのは根気のいる作業になりそうだ。
「リオ様、あれ以上お話しなくてよかったのですか?」
ホテルへの自室へ戻る廊下でアナスタシアが声をかけてきた。
「私には分からない。」
「何がでしょう?」
「リナやアナスタシアやジョルジュは初めから私に好意的で協力的だったから。こんな場面で彼らにどう接すれば心を開いてもらえるのか。元の世界では、こんな時つかず離れずの距離感で対応していたから。それに人を従わせる立場には居なかったから統率力を試される場面なんて無くて。情けないけど。」
「私は・・」
こんな時は大抵黙っているジョルジュが口を開いた。
「尊者様より、リオ様付の神官になるよう言いつけられた時、私が平民出身だから他の尊者様ではなくリオ様に付けられたのだと思いました。」
里桜は立ち止まってジョルジュの方へ振り返った。
「折角専属神官になれたのに、閑職に行かされた様な気持ちでした。しかし、リオ様の仕事に対する姿勢や熱意を間近で見て、この方にお仕えできて幸運だったと思う様になったのです。」
ジョルジュはにっこりと微笑んで、
「ですから、あの騎士たちもこの行程できっとリオ様の本質に気がつくと思います。私は。」
「そうですね、私もリオ様の本質に気がつけば、騎士たちも自ずからリオ様をお慕いする様になると思います。様子を見てみましょう。」
アナスタシアは笑って言った。
「次からは治療所へ私が護衛していきますので。」
リナも笑って力強く頷いた。
「みんなありがとう。苦労をかけるけど宜しくね。」
「トマトみたい。」
「え?お食事は…」
「自分でこぼした訳ではないの。歩いていたらトマトを投げつけられたみたい。」
里桜が苦笑いをすると、リナは顔を歪めた。
「リオ様、こんな状況を受け入れてはなりません。」
「そうね。でもね、ごめん。とにかく今は午後の治療に間に合うのが一番、着替えを手伝って。」
「はい。畏まりました。」
リナはそれ以上は何も言わずに、黙々と里桜の着替えを手伝った。
∴∵
「何故です。理由を言いなさい。」
里桜もリナも目が覚める様な鋭い声でアナスタシアは二人の騎士に詰め寄る。騎士団は代々騎士を輩出している家門の者も少なくなく、騎士団内は家格が効力を発揮する。そうやってすり込まれた貴賤意識は体の隅々にまで行き渡っている。王女の孫娘であり、王の従姉妹であるアナスタシアは騎士にとっては侮ることの出来ない人物だ。
二人の騎士は身をすくめた。
「リオ様には実害はなく・・」
「実害がない?どこがです?腐ったトマトを投げつけられ、制服もお顔も汚れたと聞いています。その状況のどこに実害が無かったと言えるのですか?そもそも・・」
アナスタシアが、問責していると、そこに入ってきたのはこの二人の上官ヴァレリーだった。
「リオ様。この度の部下の失態、何のお詫びのしようもございません。」
ヴァレリーは貴人に対してする礼を里桜に向ってし、頭を下げた。自分の上官が目の前で謝る姿に、二人も慌てて同じ礼をする。
「ヴァレリー、礼は良いです。」
里桜がそう言うと、ヴァレリーは姿勢を戻す。
「今聞きたいのは、私にトマトをぶつけた男が何故話を聞く前に解放されたかの理由です。」
「ですから、リオ様にお怪我がなかった・・」
「ですから、そもそもこういった事態からリオ様をお守りするのがあなた方の役目なのではありませんか?」
「アナスタシア、今はこの方たちの仕事に対する落ち度については置いておきましょう。では、アシルは私に怪我がないから、彼を解放したのね。」
「はい。」
「それで、彼は何故、私にトマトをぶつけたのかの説明や、私に対する謝罪はしたの?」
アシルもブリスも答えない。
「聞いてもいないのね?」
「リオ様・・」
「ヴァレリー。」
里桜はヴァレリーの言葉を遮った。
「私は爵位も持っていないし、虹の力があると言っても、あなた方にそれを証明する術がない・・・きっとあなたたちはここで私が計測石を虹色に光らせたところで私を心から尊敬することなどしないでしょう?見せかけだけの忠誠になんの価値もありませんから。もう結構です。」
里桜は部屋を出るところで、振り返る。
「ヴァレリー、アシル、ブリス。明日からも宜しく頼みます。長旅ですから早々にもめ事は避けたいの。」
事の全ては、私にとしこさんの様な人を引きつける力が無いからだ。それは、この外遊が決まってからレオナールにも度々注意されていたことで、どんな国かは分からないがエシタリシテソージャへ行くにはソレが必要とされるらしい。
決まってからの付け焼き刃で言葉だけをどうにか直したって、結局騎士たちの根っこの部分には‘カタツムリの里桜’が居る。それを追い払うのは根気のいる作業になりそうだ。
「リオ様、あれ以上お話しなくてよかったのですか?」
ホテルへの自室へ戻る廊下でアナスタシアが声をかけてきた。
「私には分からない。」
「何がでしょう?」
「リナやアナスタシアやジョルジュは初めから私に好意的で協力的だったから。こんな場面で彼らにどう接すれば心を開いてもらえるのか。元の世界では、こんな時つかず離れずの距離感で対応していたから。それに人を従わせる立場には居なかったから統率力を試される場面なんて無くて。情けないけど。」
「私は・・」
こんな時は大抵黙っているジョルジュが口を開いた。
「尊者様より、リオ様付の神官になるよう言いつけられた時、私が平民出身だから他の尊者様ではなくリオ様に付けられたのだと思いました。」
里桜は立ち止まってジョルジュの方へ振り返った。
「折角専属神官になれたのに、閑職に行かされた様な気持ちでした。しかし、リオ様の仕事に対する姿勢や熱意を間近で見て、この方にお仕えできて幸運だったと思う様になったのです。」
ジョルジュはにっこりと微笑んで、
「ですから、あの騎士たちもこの行程できっとリオ様の本質に気がつくと思います。私は。」
「そうですね、私もリオ様の本質に気がつけば、騎士たちも自ずからリオ様をお慕いする様になると思います。様子を見てみましょう。」
アナスタシアは笑って言った。
「次からは治療所へ私が護衛していきますので。」
リナも笑って力強く頷いた。
「みんなありがとう。苦労をかけるけど宜しくね。」