祓い屋少女と守護の眷属
――結局、その日のお祓い練習は夕方まで続き、帰る頃には外がわずかに暗くなっていた。
貴重な土曜日だというのに翠波さんは一切遊ばせてくれなかった。
それどころか「また明日ね~」などと明日の練習の予定まで取り付けてくる。
私の祓い方は私が予想していた通り物理的なものだった。殴ったり蹴ったり、物を使って攻撃したり。だからまずは武道の練習や筋肉を鍛えることも必要だろうと翠波さんは言っていた。
体育の成績中の下な私にできるだろうか、と今から不安である。
そんな不安を感じながら歩いていく帰り道。陽光は相変わらず私の隣にいる。
「あんたいっつも暗いと人間の姿で送ってくれるよね」
「家まで送るのに周りに姿見えねぇと意味ねーだろ」
「……陽光って結構過保護だよね」
口は悪いけど、私のことをしっかり守ろうとしてくれているのは感じられる。
「昨日も火の海に突っ込もうとする私をすごーい必死に止めてくれたじゃん。そんなに私が大事なんでしょ〜?」
ぷぷ、とからかうように覗き込むと、陽光が無言で私を見下ろしてくる。
そして、ゆっくりその顔がこちらに近付いてきたかと思えば――ちゅ、と私の唇に陽光の唇が軽く重なった。
………………は?
思考停止する私を置いて陽光が先に歩いていく。数秒後フリーズが溶けた私は慌てて陽光の背中に小走りで近付いて怒った。
「ファーストキスだったんだけど!」
まず出てきたのはそんな文句だった。
「知ってる」
んべ、と舌を出す陽光。
そりゃ、小さい頃から私のそばにいたなら私に恋人ができたことがないことなんてお見通しだろう。
「翠波が好きとか言うから、嫌がらせだ」
「は、はあ~~~~~!?」
意味分かんない。意味分かんない。意味分かんない。
唇をごしごし擦りながら、ドンドンと片手で陽光の背中を叩く。
「痛ッてぇ……やめろ、怪力」
「怪力とか言わないでよ!」
私たちがギャーギャーと騒ぐ声は、夜道にいる近くの幽霊たちをビビらせるほどに大きかった。
*――**――**――*
――それは幼き日のある日。
まだ視えなかった頃の私がしたこと。
おばあちゃんが毎日、家の縁側に自分の物とは違うもう一つの皿を置き、
そこにお餅を置いていたのを見た。
おばあちゃんが神様にお供物をしているのだと勘違いした私は、
その日から毎日お餅をアレンジしてそこに置いた。
アレンジしたのは、毎日同じお餅だと
神様も飽きてしまうと思ったから。
クリームチーズを乗せてパイのようにしてみたり、
とろけるチーズを乗せてみたり、
バターとシナモンを利用してみたり。
そして毎日手を合わせてお願いをした。
将来おばあちゃんみたいに、
沢山の人を助ける人間になれますように って。
そのひたむきさがいつしか
狐の心を奪ったことを、
私は知らない。
【完】